• ワークショップ「eスポーツプレイヤーとしてのふるまい」の様子

    ワークショップ「eスポーツプレイヤーとしてのふるまい」の様子

プロゲーマーは炎上の火種を生んでしまいやすい環境にあります。

ただでさえ、eスポーツプレイヤーは配信活動やインタビューなど、発言を求められる機会が多く、また業界の注目度が高まっていることから、自ずとリスクが高まっています。

そんな中、興味深いワークショップが開催されることを知りました。

元日本テレビアナウンサーであり、eスポーツキャスターの篠原光氏による「eスポーツプレイヤーとしてのふるまい」と題されたワークショップ(※1)です。

※1 日本eスポーツ協会(JESU)主催「インテグリティおよびアンチ・ドーピング研修会」内のセッション

文・取材=松永華佳、小川翔太

なぜeスポーツ選手は「態度」が重要なのか

  • eスポーツキャスターの篠原光氏

    eスポーツキャスターの篠原光氏

篠原氏は『ZIP!』や『ヒルナンデス!』などに出演していた、元日本テレビのアナウンサー。

2022年にプロゲーミングチーム、ZETA DIVISIONが「VALORANT Masters Reykjavík 2022」で世界3位という快挙をリアルタイムで目の当たりにしたのをキッカケに、2023年3月に日本テレビを退社し、eスポーツキャスターに転身。

現在はゲームキャスター・フリーアナウンサーの両軸で活動しており、K-POPグループRIIZEのファンコンベンションなどでMCを務め、eスポーツの領域では『ポケモンユナイト』を中心にキャスターとして活躍されています。

セミナーの前半部分では、篠原氏から「eスポーツ選手に求められている5つの項目」「インタビュー時の心構え」のインプット、後半部分では「実践形式でのワークショップ」が実施されました。

前半の冒頭で、篠原氏が伝えたのは「好きなゲームで収入を得ていく上でスポンサードの価値は重要」ということ。

スポンサーを増やすためには、ファンを増やす必要があり、そのためには「態度が良い」必要があるとのことです。

ここまでは至極、当たり前の話であるように思えますが、実態として、eスポーツ選手の中には「スポンサーの獲得はチームの仕事」「自分たちはゲームが強ければ良い」と考えている選手もいるので、この篠原氏の考え方はいち個人が意識すべきこととして重要です。

また篠原氏からは「やりたいことをやるために、お金の心配がノイズになる。その心配を取り除く上で、eスポーツ選手としてふさわしい立ち回りがある」と説明がありました。

自分の好きなことを仕事にするためにも、まずは目の前の生活を安定させるためのベースとなる立ち回りがあることが示唆されたといえます。

eスポーツ選手を構成する5つの要素

次に篠原氏からは、面白い指標が提示されました。

選手の価値を示す「タレントパワー」という考え方です。

「ゲームの強さ」「SNSパワー(フォロワー数や再生数)」「見栄え(清潔感)」「過去実績」「社会的信頼」の5つの要素で構成されています。

篠原氏が(5つの要素のなかで)「最もコスパが良い」と強調したのが「社会的信頼」です。

これはeスポーツ業界に限らず、ゲームカルチャー全体で「社会的信頼」に関する意識が低いからこそ、この要素を上げることが、効率よく自分をブランディグする手段になるようです。

また、篠原氏がここまで「社会的信頼」に注目するのは、もう1つの理由があります。

「eスポーツがまだ『流行』だったころ、つまり自分たちの村だけで完結できていたころは、eスポーツプレイヤーが意識すべきなのは、強さだけだったと思います。今後、eスポーツが流行から、文化に変わっていくのだとすれば、社会的信頼が必要になるでしょう」

この発言によると、篠原氏は、eスポーツの流行から文化への移り変わりで、eスポーツプレイヤーに必要なものの性質が変化してきたことを示唆しているといえます。

インタビューを受けたときに意識すべき5つの軸

続いて篠原氏は、その「社会的信頼」を高める最も有効な舞台としてインタビューを位置づけ、その際の対応のポイントを5つの軸で整理しました。

1. 視聴者の意識

インタビューで答えている相手は記者ではなく、記事を読む人・カメラの向こう側の人たち。「ファンの皆さんに支えられて」「スポンサーの方々のおかげで」といった言葉が、そのまま企業担当者の目に触れる。

2. 曖昧なまま答えない

チームの揉め事など際どい質問をされた場合でも、事実をそのまま答える必要はない。「各々が意見を出し合うのがうちのチームのスタイル」といった言い方で、事実に触れずかつ誠実に見える答え方がある。

また、選手の本分はプレーなので、わからないことはわからないと答えて良い。

3. 最低限の丁寧語

敬語を意識しすぎて自分らしさが消えてしまうくらいなら、多少砕けた言葉でも構わない。ただし、「辛くて死にたいと思う時もあった」など、過激な表現だけは最低限避けるべき。

4. 間を恐れない

テンポに合わせて焦って答えようとしなくていい。黙って考えている姿もカメラに映っており、「ちゃんと考えているんだな」という印象を与えられる。

チームメイトやマネージャーに確認してから答えることも全く問題ない。

5. 自分の言葉で話す

インタビューはやり過ごす時間ではなく、何かを伝える場所。誰への感謝を伝えたいのか、何年前からの目標だったのか。伝えたいことを持って臨むことで、インタビューの質が変わる。

ときど選手も参加!実践形式でのワークショップ

後半では、参加者は4~5人のグループに分かれて「実際にインタビューを受けたらどう対応するか」のロールプレイングが行われました。

参加者が「インタビューされる役」「インタビューする役」「フィードバックする役」の役割を演じながら練習をします。

  • プロゲーマーのときど選手

    プロゲーマーのときど選手

なんと、ワークショップにはプロゲーマーのときど選手の姿も。

東大生プロゲーマーとして有名なときど選手。世界最大の格闘ゲーム大会「EVO2017」の優勝をはじめ、数々の国際大会で成績を残し、ロート製薬やソニー・ミュージックエンタテインメントなど、数々の企業とのスポンサー契約を結んできた、まさにスポンサードの価値を体現しているプレイヤーです。

また、世界で最もインタビューを受けてきたeスポーツプレイヤーの1人でしょう。

やはり、ときど選手の受け答えには「経験」が滲み出ていました。

まさに「間を恐れない」「自分の言葉で話す」を実践するように、すべての質問に即答するわけではなく、間を取りながら言葉を選び、落ち着いた佇まいで答えていました。

篠原氏が前半で語っていたポイントをそのまま体現しているようでした。

場数を踏んできた選手の「慣れ」はもちろんですが、メディアとの向き合い方をきちんと自分のものにしているように感じました。

篠原氏が用意した質問は「今日の試合どうでしたか」といった、簡単なものから「チーム内が不仲だとSNSで炎上してましたが、実際どうなんですか」といった、なかなか答えづらいものまで、さまざまでした。

ちなみに記者がこのような答えづらい質問をするのは、意地悪をしているのではなく、少しでも選手の魅力を引き出したい、選手の考えや心境を読者に届けたいと考えているからです。

昨今、このような負荷の高い質問は記者側に批判も集まるので、避けられる傾向も出てきましたが、答える側としては「自分のアピールをできるチャンス」でもあるでしょう。

グループワークの締めくくりは、各班の代表者が前に出て、篠原氏から直接優勝者インタビューを受けるという本番さながらの形式。

篠原氏が「普段絶対やらないような嫌な記者役」として繰り出したのは、ロスター変更やチームの内情など、際どいテーマばかり。それでも代表選手たちは臆することなく答えていました。

優勝インタビューで頻出する「賞金の使い道は?」という質問をされた選手。

「僕は食べるのが好きなので、色々食べたいと思っています。写真をSNSにいっぱい載せようと思っているので、皆さんSNSフォローしてください!」と、笑いを取りながらもSNSへの誘導を自然に組み込む完璧な受け答えを披露。

意地悪な質問に答えた選手にもフィードバックが実施されました。

「勉強も頑張ってこそのゲームでしょ!という声もあると思いますが、勉強はどうですか」

「あんまりできないです(笑)」と正直に答えた選手が会場の笑いを誘う場面も。

ここで篠原氏はすかさず「ゲームが強いということは、五教科七科目の物差しに入らない。学校の尺度では測れないけれど、皆さんはすごいです。だから、胸を張って人生を懸けてゲームを頑張っていることを語っていい」とフォローしました。

篠原氏は、グループワークの終わりに参加者全員に向けてこう語りかけました。

「皆さんは業界の道具じゃありません。最もリスペクトされるべき存在です。自分のためにうまいことインタビューを使ってください」

「インタビューは揚げ足を取られるものではない。むしろインタビューはチャンス」だと強調しました。

特別企画:講師である篠原氏はインタビューが上手いのか?

先ほどのワークショップで、インタビューの受け方を指導してきた篠原氏。果たしてご本人は、上手に受け答えができるのでしょうか。

恐れ多いですが、ここは「お手並み拝見」ということで、筆者が篠原氏にインタビューしてみました。

―― 今回、座学だけでなくワークショップ形式にしたのはなぜでしょうか。

「百聞は一見に如かず」「習うより慣れろ」というのが自分のモットーで、アクションをすることが記憶に残るかなと思って、今回の形にしました。

ただ、自分もこんな研修は初めてやりました(笑)。

―― インタビューや配信の発言による炎上を防ぐために、選手たちが普段からできることはありますか。

誰に向けて発信しているかを意識することだと思います。誰に見られているかを意識した瞬間に、言葉遣いが変わります。

フォロワーが多くても、見ている人のペルソナを具体的にイメージできていないパターンが多い。オフラインでファンに実際に会って、こういう人に向けて伝えているんだという意識を持つことが大事だと感じています。

例えば、高校生の頃から使っているプライベートのアカウントで投稿する時には、自然と友達の顔が浮かびますよね。それと同じことを、パブリックなアカウントでも意識すると、自然と発言が変わるはずです。

―― 選手に対して、周りにいる運営やチームの人間ができることはありますか。

パブリックな立場で喋らせる機会を増やすことですね。ファンミーティングでも、オンラインでも良いので、ファンの人と触れ合う機会が増えると意識は変わってくるはずです。

また、スポンサーと触れ合う機会を増やすことも、我々のような大人ができる環境整備です。

選手に対して、頭ごなしに「あなたはもう公人なんだ」と言っても実感は湧かない。

自覚させるには場を作るしかないんです。

―― 選手の意識を高めるために、スポンサーさんに会わせるというのは盲点でした。特に若い人たちにとっては、下手なコンプラ研修や契約書よりも効果がありそうです。発言や振る舞い以外でeスポーツ選手が気をつけるべきことはありますか。

最近は、クローズドな空間だと思っていたものが全然クローズドじゃないケースが多いので「常に裏なんてない」「いつでも見られている」というパブリックな意識は大事だと思います。

―― 確かに……最近は有料コミュニティでの発言のスクショが、晒されたりもするケースを見かけます……最後に、今回の研修を通じて一番伝えたかったことは何でしょうか。

選手たちを育てられるのは我々大人ですが、ファンを育てられるのは選手たちということです。選手、運営、キャスター、開発元が盛り上がったとして、次に育てるべきはファンダムです。

例えば、選手がコメント欄のファンに向けて感謝を伝える姿勢を見せると、コメント欄が育っていく。そうやって、業界全体でeスポーツのブランドを守っていけたらと思っています。

―― 本日はありがとうございました!

編集後記

篠原氏にインタビューをして、感じたのは「受け答えがうまい」だけではなく「サービス精神」と「遊びごころがある」ということです。

また、筆者の質問に対して、回答がよどみなく出てきました。

それもそのはずで、篠原氏はeスポーツ業界を盛り上げるために自分の立場から何ができるか、どういう立場の人がどう振る舞うべきかを、常に考え続けています。だからこそ、どんな質問を投げかけても、言葉に迷いがありませんでした。

ただ、これは記者である筆者としては、負けです。

このインタビューの趣旨的には、篠原氏を「困らせる」「考えさせる」ような質問をすべきであって、そこは篠原氏が一枚上手でした。

今回の取材の背景としては、eスポーツプレイヤーの「炎上をどう防止するか」がテーマとしてありましたが、篠原氏のワークショップからは、炎上の防止策だけでなく、より踏み込んだ、スポンサー獲得のための知見が得られました。

読者のなかには「社会人としては、当たり前のことだろう」と思ったひともいるかもしれませんが、だからといって「当たり前」のことを、言語化して、ノウハウに落としこむことに、価値がないわけではありません。

誰しもが「当たり前」だとして、思考を放棄している「eスポーツプレイヤーとしてのふるまい」は、eスポーツ業界が発展していくかぎり、言語化と啓蒙はされていくべきなのでしょう。