ソニーは2023年9月1日にスマートフォン新機種「Xperia 5 V」を発表した。カメラが2眼に減少する一方でショート動画作成アプリ「Video Creator」をプリインストールし、若い世代を対象により手軽にカメラを利用できる仕組みを整えるなど、従来の「Xperia 5」シリーズとコンセプトが大きく変化しているのだが理由はどこにあるのだろうか。

カメラ数が2つに減少、一方でVlog作成アプリを追加

アップルの新製品発表イベントが近づき、メーカー各社のスマートフォン新機種発表が相次いでいる昨今。コンシューマー向けにスマートフォンを開発する純粋な国内資本の大手メーカーとして唯一の存在となったソニーも、2023年9月1日に新機種「Xperia 5 V」を発表している。

Xperia 5シリーズと言えばこれまで、ソニーのフラッグシップモデル「Xperia 1」シリーズのカメラを中心とした性能を、コンパクトなボディで実現することをコンセプトとしたモデルと位置付けられてきた。だがその5代目に当たるXperia 5 Vの内容を見ると、コンセプトが劇的に変わっていることが分かる。

  • 若者を意識し手軽さに重点、「Xperia 5 V」のコンセプトが劇的に変わった理由

    2023年9月1日に発表された「Xperia 5 V」。コンパクトなボディは従来のXperia 5シリーズと変わっていない一方、大きく変化している点が非常に多い

最大の理由はカメラにある。Xperia 5シリーズはこれまで、3つのカメラを搭載してきたXperia 1シリーズと可能な限りカメラ性能を共通化するため、3つのカメラを搭載することにこだわってきた。だがXperia 5 Vではそのセオリーが崩れ、約6.1インチディスプレイを搭載したコンパクトさは維持しているものの、最大の特徴でもあるカメラの数は2つに減少しているのだ。

  • 前機種の「Xperia 5 IV」(右)と並べてみたところ。Xperiaシリーズの特徴でもある3眼カメラが変化し、2眼に減少しているのが分かる

それでもXperia 5 Vは、Xperia 1シリーズの最新モデル「Xperia 1 V」で採用されたソニーの最新イメージセンサー「Exmor T for mobile」を搭載。暗い場所に非常に強いカメラ性能を実現するほか、4800万画素という高い画素数を生かして光学2倍相当のズーム機能を実現するなど、可能な限りXperia 1シリーズに近い撮影性能を実現しようとしているようだ。

だがXperia 1 Vとは異なりカメラアプリ「Photography Pro」は、簡単に撮影できる「Basic」モードを前面に押し出し、一眼レフ風のこだわり撮影ができる点はあまりクローズアップしていない。その一方で、新たにショート動画を簡単に作成できる「Video Creator」を搭載するなど、カメラを手軽に使えることのアピールにとても重点を置いている様子がうかがえる。

  • Xperia 5 Vには簡単にショート動画を作成できる「Video Creator」を搭載。若年層に人気のVlogなどを手軽に作成できることに重点を置いている

加えてプロモーションに関しても、従来のXperia 5シリーズとは明らかに異なり、若い世代の利用を前面に打ち出したポップな内容のものとなっている。こうした点からも、ソニーがXperia 5シリーズのコンセプトを、若い世代が手軽に利用できるハイエンドモデルへと大きく変えようとしている様子が理解できるだろう。

市場変化で“ハイエンドの下”を強化

しかしなぜ、ソニーはXpria 5 Vを大きく変更したのだろうか。最も大きな理由として考えられるのはスマートフォンの価格高騰であろう。

半導体不足や円安などの影響でスマートフォンの価格が大幅に高騰しているというのは多くの人が知る所だが、とりわけ高騰しているのがハイエンドモデルである。実際、2023年に発売され多くのハイエンドスマートフォンが20万円前後の値段を付けており、Xperia 1 Vもその例にもれず現在も20万円前後で販売されている。

だがそれだけ価格が高騰すれば、ハイエンドモデルを購入できる人はかなり限定されてしまう。それゆえここ最近、従来のハイエンドモデルよりやや性能を引き下げながらも、一定の高い性能を持ち合わせており、それでいてより安価で購入できるモデルの存在感が高まっているのだ。

実際シャープの「AQUOS」シリーズも従来、フラッグシップの「R」とミドルクラスの「sense」の中間というべきモデルがなく、Rシリーズの価格高騰が販売に影響を及ぼすようになってきた。そこで最新の「AQUOS R8」シリーズからは最上位モデルの「AQUOS R8 PRO」と、カメラなどの性能を落とし価格も引き下げた「AQUOS R8」という2ラインアップ構成に変更。senseシリーズの上となるモデルをあえて用意し、市場の隙間を埋める策に出ている。

  • ハイエンドモデルの高騰を受け、シャープはフラッグシップの「AQUOS R」シリーズに最上位モデルの「AQUOS R8 Pro」のほか、より安価なスタンダードモデルの「AQUOS R8」を追加している

そうしたことからソニーもXperia 5シリーズを、従来の特徴であったコンパクトさに重点を置くのではなく、ハイエンドのXperia 1シリーズに近い性能を持ちながらも、従来より一層機能を削って安く利用できることに重きを置いたシリーズへと位置付けを変えるに至ったといえそうだ。その上で、ハイエンドモデルは欲しいが高いお金を支払うことはできない若い世代をターゲットに据え、Xperia 5 Vのアピールを進めるに至ったのではないだろうか。

ただXperia 5 Vの内容を見るに、その位置付けを確固なものにする時間が足りなかった印象も受ける。その1つは、Photography Proなど既存アプリのインターフェースが変わっておらず、手軽に使いたいユーザーに難しさを与える部分があること。そしてもう1つは、コンセプト的にXpeira 10シリーズと重複する部分が出てきてしまっていることだ。

ソニーは従来、手軽で快適に利用できるモデルとしてミドルクラスのXperia 10シリーズを据えており、最新の「Xperia 10 V」ではソニーのワイヤレスイヤホン「WF-C700N」とカラーリングを合わせるなど、デザイン面でも若い世代を意識した取り組みを進めていた。それだけに、価格や性能などに差があるとはいえ、今回のXperia 5 VとXperia 10 Vとではコンセプトが重複している印象をどうしても受けてしまうのだ。

  • ソニーは従来、「Xperia 10」シリーズを手軽に利用できるモデルに位置付けており、最新の「Xperia 10 V」ではソニー製のワイヤレスイヤホンとカラーを合わせるなどして若い世代向けのアピールを進めていた

こうした問題が出てきてしまうのは、まだソニーの中で新しいXperia 5シリーズの位置付けを完全に整理できていないからこそだろう。Xperia 5シリーズのコンセプトが変わったことで他のシリーズをどう整理し、ターゲットとするユーザーにまっちする製品を的確に提供できるかが、今後ソニーには大きく問われることとなりそうだ。