グーグルは2022年7月28日に、「Pixel 6」シリーズの下位モデルとなる「Google Pixel 6a」を発売するが、その内容を見ると従来のPixelシリーズのセオリーとは明らかに違っている部分がある。そのセオリーの変化から、今後のグーグルのスマートフォン戦略を確認してみたい。

Tensorを搭載しながら5万円台の「Pixel 6a」

撮影した写真から不要なオブジェクトを消してくれる「消しゴムマジック」や、オフラインでも日本語への自動文字起こしをしてくれるボイスレコーダーアプリなど、AI関連処理に強みを持つ独自開発のチップセット「Tensor」で従来にない機能を実現しrw大きなインパクトを与えたグーグルの「Pixel 6」シリーズ。その新機種となる「Pixel 6a」が2022年7月28日に発売される。

  • 「Tensor」を低価格モデルに搭載したグーグルのスマートフォン戦略の変化

    グーグルが2022年7月28日に発売する新しいスマートフォン「Pixel 6a」。既に販売されている「Pixel 6」シリーズの下位モデルに当たる

Pixel 6aは、グーグルが2022年5月に実施した「Google I/O 2022」で発表されているもので、以前よりその概要も明らかにされていた。大きな特徴の1つは採用するチップセットで、上位モデルと同じくグーグル独自のTensorを搭載、ハイエンドモデルと肩を並べる高い性能を実現している。

  • Pixel 6aはシリーズの中で下位モデルという位置付けながら、上位モデルと同じ「Tensor」を搭載している

そしてもう1つは「a」が付く通りPixelシリーズの中では下位モデルという位置付けであることから、それだけ高い性能を備えながらも価格が安いことだ。実際Pixel 6aの価格は5万3,900円からとされており、「Pixel 6」(7万4,800円から)や「Pixel 6 Pro」(9万9,800円から)と比べ明らかに安い。

もちろん安いのには理由もある。上位モデルと比べるとディスプレイサイズやRAM、バッテリー容量などが小さくなっているのに加え、ワイヤレス充電にも非対応。さらに広角カメラの解像度が1,220万画素と、上位モデルが5,000万画素のものを搭載しているのと比べ大幅に性能が引き下げられていることが分かる。

チップセットの性能は共通化しながらも、他の要素を引き下げることで価格を安くするというのはアップルの「iPhone」シリーズに近い戦略でもある。実際iPhoneも、現在の最新モデルである「iPhone 13」シリーズと、その後に発売された低価格モデルの「iPhone SE(第3世代)」は共に同じチップセット「A15 Bionic」を搭載し、性能面での共通化が図られている。

AI技術を独占搭載して他のスマートフォンとの差異化を図る

ただこれまでのPixelシリーズを振り返ると、かつては同じシリーズの上位モデルと下位モデルとでチップセット性能に差を付ける傾向が強かった。実際2世代前となる「Pixel 4」シリーズでは、「Pixel 4」がハイエンド向けの「Snapdragon 855」、「Pixel 4a」「Pixel 4a(5G)」がそれぞれミドルハイ向けの「Snapdragon 730G」「Snapdragon 765G」を搭載、チップセットで明確に差を付けていることが分かる。

その一方で共通化を図っていたのがカメラだ。実際、前世代の「Pixel 5」シリーズまでは、モデルによってカメラの数こそ違えど、メインで使用する広角カメラは同じ性能のものを採用することにより、共通した撮影体験を提供することに力を注いでいた。

  • 「Pixel 4」シリーズではモデルによってカメラの数は違っていたが、広角カメラの画素数は共通。一方で搭載するチップセットはモデルによって大きな違いがあった

だがPixel 5シリーズでチップセットの共通化が図られ、その流れが独自チップセットを採用したPixel 6シリーズにも継承されている。一方でカメラに関しては統一仕様の広角カメラというこれまでのセオリーが崩れており、開発方針に大きな変化が出てきていることが分かる。

そこに影響していると考えられるのは、1つにTensorの製造コストを下げるため、搭載する機種を増やしてTensorの製造・販売数を増やす必要が出てきたことだろう。実際グーグルは、先のGoogle I/O 2022でタブレットデバイスの「Pixel tablet」を2023年に発売する予定であることを明らかにしたが、こちらにもTensorを搭載することが既に明らかにされている。

そしてもう1つは、Tensorをより生かして消費者に対するPixelシリーズのアピールポイントを大きく変えたいの狙いだ。Pixelシリーズではこれまで、夜景撮影や被写体認識など、AI技術を活用したカメラ機能の充実に力を入れてきたが、Pixel 6シリーズではTensorのAI処理性能を生かし、カメラだけでなくレコーダーアプリの文字起こしやチャットのリアルタイム翻訳など、音声・言語処理に関する機能強化も図っている。

しかもグーグルは、こうした機能の多くをあえてAndroidの標準機能とはせず、Tensorを生かしたPixel 6シリーズ独自の機能と位置付けて他のスマートフォンと差異化を図ろうとしているようだ。Tensorを搭載したPixelシリーズでしか利用できない機能を増やすことにより、端末の販売そのものを伸ばしたい狙いも強いのではないだろうか。

  • Androidには標準のボイスレコーダーアプリが存在しないのだが、Pixelシリーズに搭載されている文字起こしに対応したボイスレコーダーアプリはAndroidへの搭載予定がなく、Pixelシリーズ独自の機能となっている

Pixelシリーズは日本、そしてLGエレクトロニクスが撤退しプレーヤーが減少した米国などでは比較的販売が好調なようだが、それ以外の国々では依然として存在感が決して大きいとは言えない。その一方で、グーグルはHTCのスマートフォン事業の一部を買収し、さらに独自のチップセットを開発するなどスマートフォン事業に非常に大きな投資を実施している。それだけにグーグルとしては、投資回収のためにもAndroidだけでなくPixelシリーズそのものの販売をより伸ばす必要が出てきたというのが正直な所なのもしれない。