先日、イスラエルのHealthy.ioを紹介した。スマートフォンアプリとスマートフォンカメラで診断できる医療サービスを提供しているスタートアップで、彼らは2022年、国際宇宙ステーション(ISS)で「Minuteful Kidney」という腎臓の検査を宇宙環境で実施する予定だ。

そして、別のイスラエルの企業もISSで別の医療の検査を実施するという。それがSpring Visionだ。

今回はこのSpring Visionがどのような企業なのか、ISSでどのようなことを実施するのか、紹介したいと思う。

Spring Visionとは?

Spring Visionとは、眼の領域にフォーカスしたイスラエルの医療系企業。

ホームページには、non-invasively(非侵襲)、immediately(即時)、autonomously(自律)というキーワードが目立つ。この3つのキーワードを特徴とした医療サービスを提供する。

彼らは高解像度のマルチスペクトル技術を使った微小血管も綺麗に映る網膜画像を強みにしている。CEOはNoam Allon氏。医用画像企業で35年間経営陣として活躍。網膜画像や放射線、超音波、MRIなどの画像技術に関する特許を10件ほど取得しているという。

彼らのプロダクトは「iCapture45」。iCapture45は、異なる波長のLED光を利用した光干渉断層撮影法(OCT:Optical Coherence Tomography)を用いて網膜などの撮影を行い、撮影した画像に独自アルゴリズムで、網膜の小血管を自動マッピングすることができるという。 そしてこの高解像度な網膜画像により、網膜血管の変化を捉えることで心臓病、糖尿病、腎臓病、さらにはアルツハイマー病といった疾患も発見できるという。

  • iCapture45

    iCapture45(出典:SpringVision)

宇宙版iCapture45!

では、Spring Visionはなぜ、2022年にISSで網膜に関する検査を実施するのだろうか。

少し背景を紹介したい。2022年には「RAKIAミッション」という民間の宇宙飛行士がISSに滞在するミッションが行われる。そのミッションには、史上2人目となるイスラエル人宇宙飛行士のEytan Stibbe氏が参加するという歴史的な機会でもある。

しかも、Eytan Stibbe氏自ら約5000万ドルもの資金を自己負担して参加するのだ。このミッションは、教育ミッションと科学ミッションに分かれる。Spring Visionは、この科学ミッションに位置づけられているMedicine-Ophthalmologyを担当するのだ。

  • RAKIAミッション

    RAKIAミッション(出典:Spring Vision)

さて、サイエンスへと話を戻したい。実は過去10年間において、アメリカ航空宇宙局(NASA)の宇宙飛行士の3分の2が、微小重力環境下の影響で、SANS(Spaceflight-Associated Neuro-Ocular Syndrome)と呼ばれる病気を発症しているという。

SANSの日本語訳が見つからないのだが、症状としては、眼球の後ろにある脳と眼が繋がる「視神経乳頭」という部位の神経がむくんだり、近くが見えにくくなるなどが見られるという。宇宙環境下で、網膜が「前方に押し出され」宇宙飛行士の視力が損なわれる。そのダメージの一部は、地球に戻ると自動的に治るというが、多くの場合はダメージが残ったままだという。

NASAからSANSに関する動画もYoutubeから配信されているので、この機会にぜひご覧いただきたい。

NASAの視力障害に関する動画(出典:NASA)

現在までに、さまざまなことがわかってきているようだが、まだ解明しきれていない部分がある。SpringVisionは、ISSでiCapture45を用い網膜を撮影し、SANSの詳細解明をするというのだ。

  • 網膜画像

    iCapture45で撮影された網膜画像(出典:Spring Vision)

いかがだっただろうか。宇宙環境は、微小重力、宇宙放射線といった地球上と異なる環境になる。これにより人間がダメージを受けていることがわかっている。

これらに対しての解決策は、医療的側面からアプローチし解明していく方法と、人工重力を発生させたり、宇宙放射線を遮蔽するなど宇宙でも地球上と変わらぬ環境下を構築する技術で作り出す方法などがあるだろう。

しかしながら、これらの技術面、コスト面、スケジュール面でのフィージビリティ(実現性)を加味すると、医療的側面からのアプローチは、宇宙ホテル、スペースコロニー、惑星移住などの宇宙での長期滞在に向けて必須となるテーマであることは間違いない。