先日、Virgin Galacticのリチャードブランソン氏やBlue Originのジェフベゾス氏など創業者自らが搭乗し宇宙旅行を成功させたニュースが世界を駆け巡ったことは記憶に新しい。

これらのニュースは、民間宇宙旅行の幕開けと称されているのが、このタイプの宇宙旅行は、サブオービタル宇宙旅行と定義され短期間なものである。それ以外にも、宇宙ホテルといった長期間宇宙に滞在するタイプの宇宙旅行もある。

宇宙環境が人体に与える影響は、実はまだわかっていないことも多い。また、宇宙環境での民間向けヘルスチェックの方法はまだまだ確立されていない。そこに勝機を見出したスタートアップが存在する。イスラエルの「Healthy.io」だ。今回はそのHealthy.ioについて紹介したい。

Healthy.ioとは?

Healthy.ioとは、イスラエルの医療系スタートアップ。スタートアップやテクノロジー企業の調査・分析を行うアメリカの調査会社CB Insightsが選ぶ2020年の世界の有望AIスタートアップTop100に選出されている。

ホームページを拝見すると「Medical Selfie」というワードがとても目立つ。そう、彼らは、スマートフォンのカメラを医療機器と位置付けたビジネスを展開しているのだ。

CEOは、Yonatan Adiri氏。26歳のときにイスラエルの大統領Shimon Peres氏から国の技術に関する最高責任者として任命され、技術外交を主導。2012年には、世界経済フォーラムで100人の若き世界指導者の1人に選ばれたり、Time誌で2018年にヘルスケアで最も影響力のある50人の1人に選ばれている、とんでもなくすごい人物だ。

では、彼らはどのようなサービスを展開しているのだろうか。現在4つのサービスを展開しているようだ。1つ目は「Minuteful Kidney」という尿検査によるCKD(慢性腎臓病)の早期発見サービス。実際に自宅で尿を採取し、スマートフォンアプリとスマートフォンカメラを用い、診断を行う。CKDのリスクがあるアメリカ人の10人に8人は毎年の尿検査を受けていないという事実があり、自宅で検査できるこのサービスが注目を集めている。

他にも、「Minuteful for Wound」という慢性的な傷の治療に対するサービスや「Minuteful UTI Test&Treat Service」というUTI(尿路感染症)に対するケアサービス、「Minuteful10」という出生前検査のサービスだ。どのサービスもアプリとスマートフォンカメラを使った新しいアイデアとビジネス性、技術力の高さを感じる。

  • テストアプリとキット

    Minuteful Kidneyのテストアプリとキット(出典:Healthy.io)

宇宙でリアルタイムでの腎臓の検査が可能に

上記で紹介したHealthy.ioが提供しているサービスのうちMinuteful Kidneyは、2022年に国際宇宙ステーション(ISS)で活用されることが決まっている。

2022年は、民間の宇宙飛行士4名がISSへと滞在する。このミッションは、「Ax-1」といい、ISSの運用終了後に民間移管を託されているAxiom Spaceが主導するのだ。

そしてこの民間の宇宙飛行士4名に対してHealthy.ioはMinuteful Kidneyを提供するのだ。従来から、ISSでは、宇宙環境で宇宙飛行士から採取した尿の検体は、凍結して保存し、地球へと帰還後に検査するのが普通であった。

しかしHealthy.ioの技術によって、宇宙空間にいても、従来とは異なったリアルタイムの腎臓の検査が可能となる。Minuteful Kidneyは、尿を浸した試験紙をスマートフォンカメラで撮影し、AIによる色調分析によって、腎機能検査項目のひとつ「尿アルブミン/クレアチニン比(ACR)」の結果を得ることができるようになるようだ。

  • 宇宙版MinutefulKidney

    宇宙版Minuteful Kidneyの使用方法(出典:Healthy.io)

宇宙用には、無重力環境下でも尿を採取できるよう吸引力のある尿収集装置(UCD)を開発。

このUCDに取り外し可能な試験紙のついたディップスティックを挿入。取り出し後は、カラーボードクリップに止めてタブレットでスキャンし分析、結果を生成するという。

今後、民間の宇宙旅行が始まることを考えると、宇宙での無重力や放射線が、人体の腎臓に与える影響を解明することはとても重要だろう。彼らのすごい技術力と誰でも簡単にテストできるシンプルさが宇宙という制約条件下でも、バリューを見出せるかとても楽しみだ。

いかがだっただろうか。宇宙旅行と医療のビジネスは、今後さらに密接に関係してくるだろう。少しマニアックな内容かもしれないが、マニアックすぎて見落としがちなテクノロジーだからこそ調べてみるといろいろな未来が見えてくる、そう感じる。