いきなり世の中がメガネに厳しくなった。

渋谷でメガネ狩りが始まったとか、メガネをかけている乗客だけビーフかチキンか聞かれず、問答無用で生のキャベツが出てくる、という話ではない。

「メガネ着用を禁止している職場がある」という事実が世間で大きく話題になったのだ。

意外と理不尽な理由でメガネが迫害されていた

まずこのニュースに、「パッケージでは女優がメガネをかけているのに、本番で早々にメガネをはずさせるセクシービデオ監督を地獄の業火で焼く会」会員たちは軒並み激怒した。

メガネの着用を義務付ける、もしくはメガネ着用者に「メガネ手当」をつけるならまだしも、禁止するとは何事か、と。

フェティシズムの話は置いておいて「メガネ禁止の職場」とは一体どのような場なのか。

まずキャビンアテンダントは緊急着陸時などの衝撃でメガネを落としてしまったら危険なので、メガネが禁止だそうだ。このように「安全上の理由」でメガネが禁止の職場がある。

また飲食物を取り扱う職場では、メガネを触った手で食材を触ると不潔だから、メガネを食材の上に落さないようになど「衛生上の理由」で禁止のところもあるようだ。

安全上、衛生上の理由と言われたら、地獄の業火も27度ぐらいに下げざるを得ない。

しかし、中には「メガネは威圧感や、冷たい印象を与える」「和服にメガネは合わないから」「神聖な場にメガネは不相応」など、完全に「外見上の理由」でメガネを禁止している職場もあるようだ。

つまり「神聖な場にふさわしくないとは何事か、メガネは叡智の結晶やぞ、全裸になってもメガネだけはかけるべき、むしろ全裸メガネは正装、ミシュラン三ツ星店でも入れる」と怒っている「パッケージではメガネをかけているのに、本番で早々にメガネをはずさせるセクシービデオ監督を地獄の業火で焼く会」と大して変わらない理由でメガネを禁じているのである。

理由が「見た目」、さらに禁じられているのが「女性のみ」という職場もあることが、大きな話題になった原因である。つまり、女性だけ職場で「見栄え」を求められているという女性差別だ、ということである。

「おかしいものはおかしい」と言える世の中になったから?

当然だがこの「外見上の理由でのメガネ禁止令」は、今になって突如施行されたわけではない。そんなの令和になって、生類憐みの令が出されるような物である。

おそらく「メガネ禁止」は相当昔から、社則、もしくは暗黙のルールとして存在し、「これはおかしくないか」と思う女性もいたのだと思う。

だが、どこの学校にも一つはある「何故こんな珍妙な決まりがあるのか」と聞くと「決められているからです」という答えが返ってくる「クソ校則」と同じように、異議は黙殺か、異論を唱える者は「決まっていることに従おうとしない自己中で協調性のない女」として排除されてきたのだろう。

しかし去年「Kuu Too」という、女性の職場でのパンプス着用義務に異論を唱える運動が大きく話題となった。それによって、今まで黙っておくしかなかった「メガネ禁止」についても改めて「やっぱりおかしくないんじゃないか」という声が挙がり、さらにそれがやっと大きく取り上げられた、ということではないだろうか。

つまりおかしなものが増えたというより、徐々におかしい物におかしいと声を挙げられるようになり、それがおかしいと認識される世の中になりつつある、ということだ。

外見を売りにしてない職業で、従業員の見た目、それも女性だけに会社が口を出すというのは規則自体がセクハラではないか、普通作る前に気付くだろうと思うかもしれない。

しかし、その「セクハラ」という、本来なら旧石器時代に「あってはならぬもの」と認識されなければいけないものが、つい最近まで「コミュニケーションの一環」「笑って流すのが正しい対応」と言われており、未だにそれが残っていたりするのだ。

先輩世代の負の遺産を清算する「声の挙げ時」なのかも

「メガネ着用禁止」のみならず、明かにおかしいのに黙認されているルールというのは、まだまだ存在するだろう。

パンプスやメガネがこれだけ大きく注目されたのだから、おかしな決まりがあるところは「今が声を挙げ時」である。

しかし、メガネというのは、そもそもファッションではなく、目が悪いからかけるものである。それを見た目の問題で制限するというのは、骨折してギブスや松葉づえをついている社員に対し「見た目がダサいからやめろ」と言っているようなものだ。むしろ威圧感という意味では「客に仕込み杖や、サイコガンと勘違いされる恐れがある」という理由で、メガネより先に禁止されるべきだろう。

もちろん、会社が社員の身なりに口を出すのは不当であり、完全自由を許すべきという話ではない。店に入って「店員の肩にトゲがついてて声がかけづらい」「そもそも服装がフリースタイルすぎて誰が店員かわからぬ」というのでは困る。

どこまで、会社が社員の身なりに口を出して良いかは難しいところである。

だが、メガネのように「それがないと仕事にならないもの」を職場で奪おうとする、というのは大きすぎる矛盾なのではないか。