政府による国民の「自助」呼びかけが、大きく話題となった。

すでに限界であることは薄々感づかれていたが、それを頑なに認めず「ガチヤバイ!? リアルガチでやばいかも!? 新社会人のみなさまへ 受け取る年金少なくなってない!? ねんきんネットで確認だ!」などと煽り、ツイッターアカウントを燃やしてまで「将来のために」年金支払いを促してきた政府だが、ついにヤバいどころか「オワコン」であることを認めたということだ。

つまり、我々が老になるころには年金だけで暮らせるような額が支払われることはまずあり得ず、明言はされていないが「正直ゼロまである」ことを視野にいれ、今の内から年金を当てにしない老後の資産形成を各々しておくようにという「自助」を呼びかけたのだ。

まさにその「老後の準備」のつもりで「自助」のために年金を収めていた国民はこの宣言により、軒並みスペースキャット顔と化した。さらに、年金は崩壊したのでこれからは年金を徴収しないし、今まで取った分は返すのでそれを元手に自助をしろと言うのかと思ったら、「これからも取る」し「返しもしない」ようだ。

そう宣言しているわけではないが、今後の年金徴収と今までの徴収分については全く触れていない以上「何も言わずに続ける」と考えるしかない。

これは八甲田山での現地解散に似ている。

八甲田山で自助宣言は「とても、つらい」

私の大好きな史実を元にした創作「八甲田山」は、八甲田山の雪山での訓練中、軍隊が遭難する話だ。

隊は這う這うの体になりながら、何とか統率を取って進んでいたものの、ついには断崖絶壁の行き止まりにぶち当たる。とうとう隊長が「天は我々を見放した」と宣言し、隊は事実上解散状態。あとは各々フリースタイルで帰路を目指すように、ということになってしまったのだ。

年金の終了を宣言しながら「よって年金に変わる物を政府が考える」のではなく「各々の努力で何とかしましょう」と言ってしまっている点がまさに、それである。創作なら良いが、自分が同じようなことをやられると「とても、つらい」ということがわかった。また一つ八甲田山の解釈が深まったという点だけは良かった。

しかし「天は我々を見放した」と言われた軍隊がどうなってしまったかと言うと、多くの者が希望を失い、その場に倒れ絶命してしまった。それと同じように怒り以前に「絶望」してしまった国民も多く「この国に生まれて来たメリットが見いだせない」「自助より安楽死を合法化した方が早い」と、悲観的なコメントが相次いだ。

スマートに老後を生き抜く方法、素人にはオススメできない

しかし、政府も全くノーヒントで雪山を下れと言っているわけではなく「人生100年時代を生き抜くための年代別資産形成モデル」を提示している。

このモデルが、また国民を脱力させ、多くを雪の上に倒れ伏せさせたと話題だ。このモデルはグラフ状であり、横軸は30歳ごろ40歳ごろという年代、そして縦軸は「預貯金などの資産額」だ、この縦軸には何と数字がない。

確かに、家族人数や住んでいる場所などで、必要老後資金の額は全く違うので、具体的数字を示すのは難しいのかもしれないが「何歳までにこのぐらい貯めておこう」という指針もないまま、ただ年代が上がるにつれ「預貯金額は右肩上がりに上がるはず」ということだけが示されている。もしかしたら、画像のトリミング段階で金額部分をカットしてしまったのかもしれないが、この時点で、東西南北が描かれていないに地図を渡されたに等しい。

途中「結婚」「住宅購入」「教育費」など、大きな支出イベントも記載されているのだが、それらがあっても資産グラフは全く「減り」を見せず「何があっても年齢に比例して資産額は上がる」ことになっている。大体、どんなモブキャラでも、ライフイベントがこれしか起こらないことはないだろう。病気や失業など、資産が思うように貯められないアクシデントはいくらでも起こる。

そして定年年代になると「働く期間を延ばす」とザックリ言われ、その期間もさらに資産現役時と同じペースで増えるようになっている。

そして70過ぎたら、その潤沢に貯めた老後資産で計画的に生活し、90過ぎても運用継続を考え、自分の葬式代も用意しておこう、となっている。

せめて、すがりつく希望が欲しい

果たして90歳過ぎて資産運用ができるだろうか、その年になったらせいぜい「振り込み詐欺に気をつける」くらいしかできないような気がする。

つまり誰が見ても「こんなに上手くいくわけがない」とわかる代物だ。これだけ渡されて、雪山を降りろと言われたら、それより楽に死にたいですと言いたくなってしまうだろう。

年金がもう無理なのは仕方がないし、「今の段階で素直に認めてくれてまだ良かった」という人もいる。しかし、国民を絶望させるのは良くない、絶望は人間のやる気を奪う上、やる気の残っている人間が国外に逃亡でもしたら、ますます国力が落ちてしまう。また、絶望した人間は何をしでかすかわからない、という危険性がある。

年金がオワコンなのだという事実を発表するのは良いが、だがこうすれば生きられるという「希望」を、もっと具体化させてから発表して欲しかったような気もする。

今回示したモデルは「救助隊が助けにきた幻覚」に近い気がする。