コンサルタントに求められる資質で欠かせないのはコミュニケーション能力である。とりわけ人材育成系コンサルティングでは、顧客企業の社員から仕事に対する熱意や潜在能力を引き出すのだから、クライアントと対面して実施するのは当然だ。

この常識を打ち破り、遠隔地へテレビ電話によるコンサルティングを提供する新たなサービスに乗り出した関総研アドバイザーズは、売上が60~70%増加するケースも出現するなど、順調な滑り出しを見せている。

「経営参謀」と名づけられたサービスは、FaceTimeやクラウドなどの機能を活用したiPad用独自アプリを使って、遠隔地にコンサルティングを提供する。全国各地に支店を持つ企業にとって、コンサルタントの出張経費が不要となる分、安価に全社的な経営改善活動を実施できるのが魅力だ。

「経営参謀」を使った遠隔コンサルティングの様子。iPadのFaceTimeを立ち上げて実施する

下記の動画が実際の活用の様子だ。


顧客のコスト負担を軽減しつつ、きめ細かなサービスを提供

関総研アドバイザーズは、会計系コンサルティング会社「関総研」を母体としたコンサルティングファームであり、第二創業支援と人材の育成を基軸とした人事労務・会計財務・税務・ITコンサルティング・医業向けサービスなど多岐にわたるコンサルティングを展開している。経営参謀を使う以前の状況について、同社の取締役 兼 人事労務事業部 マネージャー 下村勝光氏は次のように語る。

関総研アドバイザーズ 取締役 人事労務事業部 マネージャー 下村勝光氏

「費用の面で現地に行けず、やむなく電話でコンサルティングを行っていたときと比べて、経営参謀ではiPadの画面を通してリアルタイムに表情が見えるので、相手の理解度を確認しながら進められます。また、資料を見せながら『これがこうなっていますよね』という指示名詞を使えるのが大きく、短時間で確実に意図を伝えられるようになりました」(下村氏)

コンサルタントを地方へ派遣せずにサービスを受けられる顧客メリットは、大幅なコスト削減だ。経営参謀を利用するには月額使用料は必要だが、コンサルタントの交通費や拘束時間に掛かっていたコストは大幅に圧縮されるので、顧客はコンサルティングの回数を増やせる。例えば、従来は地方拠点での講習を年1回しか実施できなかった企業でも、経営参謀を使って毎月1回の継続的な講習を展開できるようになる。

しかし、テレビ電話を使ったコンサルティングは効果が出るのだろうか?

「経営参謀を使って月1回の行動改善チェックをしているケースでは、報告書に書く内容がより具体的な記述になるなど、1カ月ごとに明らかな改善が見られます。テレビ電話は相手の顔を見ながら実施できるので、対面の場合と同様に、指導すればその分だけ確実に改善していきます。依頼された経営者の方からも『課長の部下に対する発言内容が変わった、より具体的な指示ができるようになった』などの反響をもらっています」と、下村氏は経営参謀の効果を強調する。

コンサルタント側にも変化は現れている。以前と違い、飛び飛びの隙間時間を経営参謀で活用できるようになったことで、隙間時間の有効利用が進み、より密度の濃い時間の使い方ができるようになった。

「顧客の負担を減らしながら、きめ細かな部分までサービスを提供できるのは、コンサルタント冥利に尽きます」と下村氏。

経営参謀を使わず、すべて出張ベースで実施した場合の請求額に比べ、経営参謀を使った地方へのサービス提供では、費用は半分以下に抑えられるという。

「お客様から電話が掛かってきて『今からつなげていいですか』といわれても、すぐに対応できます。ファーストフード店内や地下鉄の駅、一度は移動中に公園に駆け込んでiPadを開き、コンサルティングを提供したこともあります。お客様のご都合に合わせて柔軟に対応できるようになりました」(下村氏)

実際に経営参謀を使ったコンサルティングを受けている水産物加工販売業の水研 福岡営業所の西村正孝氏は、そのメリットを次のように語る。

「経営参謀のテレビ電話を使うと、対面と同じようにコンサルタントの顔や表情を見られるので、電話に比べて安心感があります。現在は月1度、月間目標や先行計画書などの書類を作って、経営参謀を通して下村様に添削していただいています。iPadを使って『ここをこういうふうにして』など具体的なアドバイスをいただけるので、非常に助かっています」(西村氏)

コンサルティングに必要な機能をすべて盛り込んだオールインワン仕様

経営参謀を開発するきっかけは、個人病院を経営する医師向けコンサルティングでの課題解決からだった。自身でも診療を行う院長は非常に忙しく、コンサルタントとの面談に割ける時間は限られていた。やっと予約を取れても、急患への対応でキャンセルになる。一方で急に時間ができたからと連絡されても、コンサルタントの時間が合わなかったりと、互いの時間調整に苦労していた。

関総研アドバイザーズ 経営支援事業部 コンサルタント 田中浩敬氏

「『コンサルティングを受けたいけれど時間を作れないという医師のお客様に、ボタンを押すだけですぐにサービスを提供できるツールがあれば面白いよね』、という弊社社長である前田の一言がきっかけでこのプロジェクトがスタートしました。当初は、従来型のテレビ会議システムも検討しましたが、コストが掛かるので大企業でないと導入は難しい。当社のターゲット顧客は、小規模のクリニック経営者だったので、もっと身近にあるデバイスでツール化しようとタブレット端末を選択しました」と語るのは、経営参謀の企画・開発を主導した経営支援事業部 田中浩敬氏だ。

iPadを選択した理由の1つは、基本機能としてテレビ電話のFaceTimeが搭載されているため、アプリ画面からスムーズにテレビ電話を呼び出せることだった。Skypeなど、代表的なテレビ電話システムも検討したが、iPadアプリとの親和性を考えてFaceTimeを選択した。また、医師の間でiPadを診察に利用する流れがあったことも、iPadを選択した大きな要因だった。

「お客様視点で重視したコンセプトは、低コストで簡単に操作できること。一方、コンサルタント側の希望としては、コンサルティングに必要なツールはすべて盛り込んだオールインワンの仕様でした」(田中氏)

経営参謀は、ワンクリックですぐにFaceTimeが立ち上がる「テレビ電話」機能を中心に、「PCコンサル」「電子会議」「共有フォルダ」「レポート・セミナー情報」の5機能から成り立つ。「PCコンサル」では、コンサルタントのパソコン画面で開いた資料(スライドやスプレッドシートなど)をクライアントのiPadに映し出す機能だ。FaceTimeを通して音声はつながったままなので、資料を見せながら言葉による説明が可能だ。

「リアルタイム性を必要としない相談内容は、『電子会議』を使って掲示板のように書き込みをしておくと、時間があるときにアドバイスの返信を受けられるのでとても便利に使っています。また、関係資料は『共有フォルダ』に一元管理できますので、資料探しに時間を取られることはありません」(西村氏)

経営参謀の「電子会議」

「共有フォルダ」の画面

新しいコンサルティング手法で業界に旋風を

当初、多忙な医師向けに開発された経営参謀だが、遠隔地へのサービス提供にも使えることに気づいた同社では、多数の地方拠点を抱える顧客へのサービス提供に、経営参謀を積極的に活用し始めている。このツールは自社限定にとどめず、将来的には汎用的なコンサルティングツールとして外販することも視野に入れているという。

企画・開発を主導した田中氏によれば、今後の展開として初期バージョンではコスト的な理由で搭載を見送ったSNS機能をぜひ追加したいという。同社の顧客同士が、業種・業態を超えて自由に意見交換する場を提供すれば、顧客が相互に刺激し合うことで業務改革のモチベーションアップにつながるだろう。

また、顧客から動画ファイルを共有できる機能追加の要望も寄せられているという。これが実現すれば、本社で実施した講習会を動画として地方拠点の社員と共有したり、社員の業務風景を動画撮影して、それを見ながらコンサルタントが改善指導をするなど、さまざまな使い方が想定できる。こうした現場からの要望を取り入れていけば、より洗練されたコンサルティングツールになるだろう。テレビ電話を使った遠隔コンサルティングの今後に注目していきたい。