あの頃も今も、コンピュータは楽しい機械です。仕事でも趣味でも、コンピュータとともに過ごしてきた読者諸氏は多いことでしょう。コンピュータ史に名を刻んできたマシンたちを、「あの日あの時」と一緒に振り返っていきませんか?

目の付けどころがシャープだった代表作のひとつ

ツインファミコン(ブラック)

シャープは1986年(昭和61年)7月1日、8ビットゲーム機「ツインファミコン」(twin FAMICOM、AN-500B・R)を発売しました。任天堂のファミリーコンピュータ(以下、ファミコン)の互換機で価格は32,000円。ROMカセットとディスクシステムが一体となった、画期的な製品の登場です。

初期のマーケティングメッセージは、「さっすが~合体ファミコン、カセットもディスクも、両方、楽しめるよ」。イメージキャラクターには、あの「1秒間にボタンを16連打」で有名な高橋名人を起用します。

当時は、カセット方式の「スーパーマリオブラザース」(1985年発売)やディスク方式の初代「ゼルダの伝説」(1986年発売)が大ヒットし、ファミコン本体や人気ソフトの売り切れが続出している状況でした。カセットもディスクも使えるツインファミコン、ファミコン完全互換機の高機能版であることを前面に出し、安心・手軽さをアピールします。

本体サイズは、幅275×奥行255×高さ94.5mm。本体重量は1.8kg。カラーはレッドとブラックの2色展開でした

前面の左側にはディスクスロット、右側には電源ボタンとカセット取り出しレバー、リセットボタンがあります。ファミコンとリセットボタンの関係は非常に深いものがありますが、リセットボタンを上から押す本家ファミコンと、前から押すツインファミコン、どちらが使いやすかったでしょうか……

カセットとディスクは、本体正面のスイッチで切り替えます

スロットカバーのおかげでホコリが入り込みにくかったのですが、カセットの調子が悪いときに息を吹きかけるのは、お約束中のお約束

映像と音声の出力には、当時は一般的であったRFコンバータ接続端子のほか、先進的なRCAピンジャックの映像・音声出力を装備し、鮮明な画面表示ができるなど、本家ファミコンを凌ぐ機能を備えます。ビデオ入力端子を備えているテレビはいまでこそ当たり前ですが、当時は極めて少ない状況でした。

映像の美しさと機能拡張性を重視した最新テクノロジーを積極的に採用したシャープは、多少早すぎた感もありますが、先見の明があったといえるでしょう。ただ、ファミコン本体価格の14,800円に対して、ツインファミコンは倍以上の32,000円。ファミコン+ディスクシステム+専用ACアダプタの合計31,500円より高く、子供たちには高嶺の花、憧れの存在でした。

コントローラー「1」(写真左)と、コントローラー「2」(写真右)です。両者のデザインは異なるものの、ファミコン準拠。大きく「1」「2」と数字がデザインされています。コントローラー2のマイクが泣かせます。AボタンとBボタンのそれぞれで、連写機能が使えたのもありがたかったですね

本体上面の背面側。コントローラーを収納しておけます

任天堂とシャープの関係

話が逸れますが、シャープといえば任天堂との協業について少し触れたいと思います。1983年には、ファミコンの機能を内蔵したテレビ「ファミコンテレビC1」(19C-C1、14C-C1)を発売しています。また、ハードウェアだけでなく専用ROMカセットとキーボードから構成される「ファミリーベーシック」(1984年発売)の起動画面には、「NS-HUBASIC (c)NINTENDO/SHARP/HUDSON」と表示されるなど、開発段階からのパートナーシップが見て取れます。ファミコンの開発をリードした上村雅之氏がシャープ出身だったことも有名な話ですね(任天堂WEB、スーパーマリオ25周年時の掲載記事)。

背面です。RCAピンジャックの映像出力が斬新でした

左側面には何のインタフェースもありません(写真左)。右側面には「拡張端子A」と「拡張端子B」があります

底面には「拡張端子C」と「拡張端子D」がありますが、使われませんでした

ツインファミコンの後も、1990年には任天堂のスーパーファミコンの機能を内蔵したテレビ「SF1」(14型14G-SF1、21型21G-SF1)を発売しています。また、シャープの商品名である「ツインファミコン」と「TWIN FAMICOM」という商標は、1986年の発売時から任天堂が権利を所有しているのも面白いところです(登録番号2074195、2074196)。

その後シャープは、ニンテンドーDSや3DSの液晶を供給するなど、数々の名機を支え、現在にいたっています。現在(2016年8月時点)、シャープは経営再建中ですが、今後も任天堂とどのような協業をしていくのか目が離せません。ワクワクするような製品の登場を心から期待したいと思います。

1986年7月、あの日あの時

ツインファミコンと同じ1986年(昭和61年)7月1日は、富士フイルムからレンズ付きフィルムの初代「写ルンです」が発売されました。フィルムの入れ替えが不要(撮り切り)で、誰でも簡単に写真を撮れる安価なカメラは、爆発的なヒットを飛ばします。フィルム装填や取り出しが不要で、フィルムを使い切ったら本体ごとDPE店へ引き渡し、現像後のネガフィルムと同時にプリント写真が渡されるというものでした。1997年には8,960万本の出荷を記録し、ピークを迎えます。

DPEも、コンビニなど数多くの店舗で取り扱っていたので、筆者もよく利用したものです。写ルンですは2014年8月に、国立科学博物館によって「重要科学技術史資料(未来技術遺産)」に登録されました。

そして30年の時を経て、デジタルカメラやスマートフォン(のカメラ機能)が主流となった今、写ルンですが再び注目されています。若者を中心に、SNSの写ルンです投稿が増え、Instagramでは「♯写ルンです」投稿が53,000件を超えています(本記事の執筆時点)。2016年3月には「写ルンです30周年アニバーサリーキット」、2016年8月にはアニメ「おそ松さんと」のコラボモデルが発売されるなど、独特の風合いが得られる写真、仕上がりが人気のようです。

DPEも取り扱い店舗こそ減りましたが、デジタル化に対応した各種サービスが充実しています。好みのカットだけ現像したり、データ加工も自在だったりという、進化は見逃せません。

忘れ去られそうになった存在から復活し、今の10代、20代から熱視線を受けているというのは、何だか嬉しい気持ちにさせてくれますね。シンプルで良い製品は、いつの時代であっても受け入れられるのでしょう。今後、若者たちがどのように活用していくのか注目です。

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