あの頃も今も、コンピュータは楽しい機械です。仕事でも趣味でも、コンピュータとともに過ごしてきた読者諸氏は多いことでしょう。コンピュータ史に名を刻んできたマシンたちを、「あの日あの時」と一緒に振り返っていきませんか?
発売日が「パソコン記念日」になった名機
1979年(昭和54年)9月28日、NEC(日本電気、注1)は、同社初となる本格的パーソナルコンピュータ「PC-8001」を168,000円で発売しました。のちにこの発売日が「パソコン記念日」となり、製品名でもある「PC」(Personal Computer)を日本中に広めたともいえるマシンの登場です。
ちなみに、国立科学博物館はPC-8001を、「国民生活の発展、新たな生活様式の創出に顕著な役割を果たしたもの」と認定し、2015年度の「重要科学技術史資料」(愛称:未来技術遺産)に登録しています。
(注1)NECのパーソナルコンピュータ事業は、2011年7月からNECパーソナルコンピュータ株式会社に引き継がれています。
PC-8001外観は、タイプライターサイズの(当時としては)コンパクトなキーボード一体型で、シックなアイボリーと茶色のツートンカラーで仕上げます。マイクロソフト製のN-BASICをROM(24KB)で実装し、CPUにはZ80互換のμPD780(4MHz)を、RAMには16KB(最大32KB)を搭載しました。画面表示は160×100ドットの分解能を持ち、8色のカラーグラフィックスを表示可能です。
発売当初、3種類の純正ディスプレイが用意されます。12型グリーンディスプレイ「PC-8041」(48,800円)、12型カラーディスプレイ「PC-8042」(109,000円)、12型高解像度カラーディスプレイ「PC-8043」(219,000円)です。
ディスプレイこそ別売でしたが、168,000円でこれらのスペックを備えたPC-8001の性能は大変魅力的でした。さらに、CPU、CRTC(グラフィックスコントローラ)、ROM、RAMといった主要パーツを自社製品で構成する国産コンピュータであり、新しい時代の幕開けを感じさせます。
RAMは16KB、ROMは32KBを実装。CRTインタフェースは、CRTコントローラにμPD3301D、DMAコントローラにμPD8257C-5を採用。文字構成は8×8ドットマトリックス、グラフィック性能は160×100ドット、カラー機能は8色(黒、青、赤、マゼンダ、緑、シアン、黄、白)です |
発売当時を振り返ると、世界的には海外勢の御三家と呼ばれた、PET-2001(コモドール)、Apple II(アップルコンピュータ)、TRS-80(タンディ)がコンピュータ市場をリード。一方の日本勢は、日本市場に合わせた日本語マニュアルやソフトウェアの開発、ハードウェアの提供が期待されるも、まだ黎明期といった状況でした。
具体的には、日立製作所のベーシックマスターレベル2(MB-6880L2)や、セミキットであったシャープのMZ-80Kが新規市場(国内のパーソナルコンピュータ市場)を開拓していました。本コラムの第6回で取り上げたシャープのMZ-80C(完成品)は、1979年(昭和54年)11月1日の発売です。
NECはというと、基板むき出しのトレーニングキットTK-80がまだ主力。その発展形であるTK-80BS、COMPO-BSなどを追加投入するものの、カラー表示には対応せず、マニアックな製品を脱しきれませんでした。一般に広く支持される完成品の登場が待ち望まれていたのです。
このような時代背景のもと、1979年5月9日のPC-8001を発表、同月16日から東京流通センターで開催されたマイクロコンピューターショウでデビューします。8色カラーグラフィックを生かしたマンガのキャラクター(まことちゃん)の表示に、驚かされた方も多かったことでしょう。
発表から発売まで半年近くを要しますが、販売店は予約で対応します。東京・秋葉原駅前にあったラジオ会館7階のパソコンショップ「Bit-INN」では、日本電気の説明員もいたため、情報収集に訪れるユーザーで賑わったものです。PC-8001は3年間で約25万台を売り上げ、その後「PC-8001mkII」など後継機にバトンタッチします。
1979年11月、あの日あの時
PC-8001が発売された1979年(昭和54年)は、アニメ「機動戦士ガンダム」がテレビで初放映されました。9月のエピソード、第24話「迫撃!トリプル・ドム」では、ジオンのパイロット「黒い三連星」(ガイア・オルテガ・マッシュ)が駆るモビルスーツ、ドムの三位一体攻撃「ジェットストリーム・アタック」が有名すぎますね。ガイアの「俺を踏み台にしたぁ?」や、ガンダムを支援して戦死したマチルダを追悼するアムロの「マチルダさーん」など名セリフが生まれました。
家電では、ソニーが初代「ウォークマン(WALKMAN)」(TPS-L2)を33,000円で7月に発売します。世界初の携帯型ヘッドフォンステレオプレイヤーの登場で、音楽を持ち運ぶという新たなライフスタイルが誕生しました。
そのコンセプトを継承した機器は今でも愛され続け、商品名である和製英語「ウォークマン」は、英オックスフォード・イングリッシュ・ディクショナリーにも掲載され、一般用語になっています。TPS-L2もPC-8001と同様、未来技術遺産に認定されています。1979年は、こうしたパソコンや携帯型音楽プレイヤーといった、創造的な製品が誕生した年でした。
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