2022年4月17日、ミライロハウスTOKYOにて、ePARAが主催するeスポーツイベント「心眼CUP」が開催されました。

ePARAは、eスポーツを通じて、障がい者が自分らしく・やりがいをもって社会参加できるよう支援する団体です。

今回の心眼CUPでは、対戦格闘ゲーム『ストリートファイターV CE(SFV)』を採用。視覚情報を一切使用せずに、音声のみで状況判断して対戦します。

  • 会場となったミライロハウスTOKYO

  • ミライロハウスには、パラリンピックで注目されたボッチャのボールなどの製品展示が行われていました

第1回となる今回は、国内外から全盲eスポーツプレイヤー6名が参戦。出場メンバーのうち、現地参加者は、ePARAの社員で声優やエンジニアもこなす、ルーク使いのなおや選手。視覚障がい者でも楽しめるゲームを開発するGalaxy Laboratoryのリーダーを務める、ララ使いのMM選手。大学院で言語教育の研究をし、イギリスへの留学が決まっている春麗使いのチョコタルト選手の3名です。

そして、オンラインでは、作曲やライター活動をしていて、NHKのど自慢大会グランプリ経験を持つあきら使いのいぐぴー選手。Galaxy Laboratoryでサウンドを担当するリュウ使いのKYOU選手。Galaxy Laboratoryの海外マーケティング担当で、カナダから参戦したケン使いのクレ選手の3名が参加しました。

  • なおや選手

  • MM選手

  • チョコタルト選手

試合は、2つのブロックに分かれてリーグ戦を行い、上位2名が決勝トーナメントに進出。リーグ戦もトーナメント戦もBO3(2勝勝ち抜け)で行われ、トーナメントはシングルエリミネーション方式を採用しました。

グループAはMM選手、いぐぴー選手、クレ選手、グループBはなおや選手、KYO選手、チョコタルト選手に決まり、それぞれ、クレ選手とMM選手、なおや選手とKYO選手が勝ち抜けました。

  • グループAの選手

  • グループBの選手

トーナメントの初戦はグループA1位通過のクレ選手とグループB2位通過のKYO選手が対戦し、クレ選手が勝利。グループB1位通過のなおや選手とグループA2位通過のMM選手が対戦し、MM選手が勝利しました。MM選手が下剋上を果たしたことで、決勝戦はグループB勝ち抜け同士の対戦です。カナダとの通信のため、決勝戦ではたびたび通信不良を起こしてしまい、選手にとって満足のいく試合とはならなかったと思いますが、なんとか試合を最後までやりきり、クレ選手が見事優勝を果たしました。

  • 最後はケンのしゃがみ強キックが決まり、クレ選手が優勝しました

対戦格闘ゲームは視覚情報に頼る部分が多く、全盲プレイヤーがどのような戦いをするか注目していましたが、ゲームの画面を見ている限りでは、健常者がプレイしている様子となんら変わらないものでした。パラリンピックで視覚障がい者が競技する場合、視覚を補助する伴走者やアシストの存在がありますが、心眼CUPではアシストはなし。すべて選手が音の情報のみで判断しています。

ゲームの設定で、SEを10、BGMを2、キャラクターの声を10として、相手キャラクターがどんな状況にあるかをわかりやすくしていましたが、その情報だけで画面の様子を判断することは至難の業と言えます。しかし、最初から視覚情報に頼っていない彼らにしてみれば、それだけである程度の画面情報は得られるのでしょう。

  • 現場で対戦したMM選手(写真左)となおや選手(写真右)。ヘッドホンから入ってくる音声以外の情報はなく、アシストもいない状態で対戦します

たとえば、相手がジャンプした場合、ジャンプのSEとキャラクターの声でジャンプしたかどうかを判断。さらに、めくり(相手を飛び越してガード方向を逆にするジャンプ攻撃)をした場合、ジャンプのSEとキャラクターの声が右から左、もしくは左から右に切り替わるので、めくり攻撃だと判断できると話していました。

音によるヒット確認も正確で、攻撃が当たった場合のみコンボをつなげるようにプレイ。相手をダウンさせたときも、起き上がりのタイミングを見計らって技を重ねており、視聴者のコメントでは「なんで起き上がりのタイミングわかるんだ。すごすぎる」といった意見も見られました。

  • 音でヒット確認をし、的確にコンボを入れるララ

  • 相手をダウンさせたあと、受け身の有無を音で確認し、起き上がりに重ねるようにフラッシュナックルの溜めを調節するルーク

ほかにもVゲージ、EXゲージが溜まったときのSEもしっかり聞き分け、VトリガーやCA(クリティカルアーツと呼ばれる必殺技)を発動する判断も、音のみで行っていました。

唯一わからないのが、体力ゲージ。これについては、攻撃をヒットさせた数や、被弾の数から判断しているとのことです。

「たくさん攻撃を食らうと、当然ダメージが大きい印象を受けます。しかし、たとえば春麗の百裂キックは、手数が多いので、実際のダメージ以上に体力ゲージが削られたと思ってしまいます。逆に今回対戦したMMさんのララはコンボ以外の攻撃に多段技がないので、そんなにダメージを受けている印象がなかったんですけど、実際は1発のダメージが大きく、倒されていました」と、なおや選手は体力ゲージの予測の難しさを話します。

  • 春麗を使ったチョコタルト選手はまだ『SFV』を始めたばかり。プレイは初心者のものでしたが、それでもしっかりと戦えていました

  • KYO選手はリュウのスキルである「入り身」を多用。相手の攻撃を受け流して反撃する技で、使いどころが難しいのですが、おもしろいほどうまく決めていました。対戦相手もリュウが近くにいることが分かって攻撃し、KYO選手も対戦相手が近くにいて、攻撃を仕掛けてくると理解しているからこそ、入り身が決まるわけです

今大会は、格ゲーものまねでお馴染みのお笑いコンビ「NOモーション。」の2人がMCを担当していました。いつもどおり、こてつさんはE本田、矢野さんはケンの格好で登場。さすがに全盲プレイヤーにはその姿は届きませんでしたが、数々の『SFV』のキャラクターの声ものまねには反応し、楽しんでいました。

一般的には細かすぎて伝わらないキャラクターのものまねかもしれませんが、そのゲームをプレイしている人、とくに音声のみで楽しんでいる全盲プレイヤーにとって、これ以上にないパフォーマンスになったのではいでしょうか。

  • 数々の『SFV』キャラクターものまねで会場や配信で楽しませてくれました。選手たちも大喜び

なお、配信終了後には、筆者もブラインドでの対戦を体験しました。対戦相手は「NOモーション。」の矢野さんです。

実際にプレイしてみると、確かにさまざまな音声により状況判断できそうな感じがしないでもないですが、相手がどんな行動をするかわからない状況で相手がジャンプしたかどうか、自分が左右のどちらにいるか、相手とどのくらい離れているかは、まったくわかりませんでした。

唯一音の情報だけで対応できたのは、矢野さんのサイコフリッカーをガードできたあと、ボリショイ・ロシアンスープレックスを決められた場面のみ。勘のいい人はわかると思いますが、また埋めました(笑)。そのほかはほとんど手応えなく、なす術無く敗北しました。

  • モニターにTシャツをかぶせ、画面が見えない状態で矢野さんと対戦。自分も相手も何をやっているかほとんどわかりませんでした

「もともと音声のみでプレイし始めた我々と、視覚情報を持っている人がブラインドでプレイするのでは、感覚が違うんですよね。なので、今回の心眼CUPは先天的に全盲の人か、全盲になって50年以上経過した人のみが対象になっているんです。ですが、視覚障がいのない人のブラインドと対戦して勝ちたいという気持ちもあります」(MM選手)

MM選手が言うように、ブラインドでやってみると、音の情報を映像化しようとしている感覚がありました。少ない情報をいつも通りの情報に置き換えようとするわけです。

全盲のプレイヤーは、我々が視覚で得ている情報を、音声のみで感じているので、ブラインドに慣れたとしても全盲プレイヤーと対戦した場合は、かなり不利になるでしょう。

なお、5月28日には、J SQUARE品川にてバリアフリーLANパーティ「ePARA CARNIVAL」が開催されます。そこでは今回参加したメンバーを中心に先天性全盲プレイヤーによる3チームの団体戦を予定しています。今回の大会で興味を持った人は、ぜひePARAの公式サイトをチェックしてみてください。

©CAPCOM CO., LTD. 2016,2020 ALL RIGHTS RESERVED.