コールセンター運営やBPOサービスを展開するビーウィズは、2019年にeスポーツ事業を開始しました。バリアフリーeスポーツ大会「ePARA」に出場する選手の雇用や、選手活動と仕事を両立しながら働くことができる「eスポーツ選手養成プログラム」の実施など、eスポーツに関連する積極的な取り組みを行っています。
今回は、ビーウィズでeスポーツ事業を進めている、伊東雅彦さんにインタビュー。同社が推進するeスポーツ関連の取り組み内容や意図について、そして障がい者が活躍するeスポーツ大会「ePARA」に期待することなどを伺いました。
ビーウィズがeスポーツ事業を始めた理由とは
――まず最初に、ビーウィズの会社概要について教えてください。
伊東雅彦さん(以下、伊東):ビーウィズは、コールセンター・コンタクトセンターの運営や、人事・経理のアウトソーシングを担うBPOサービスなどを展開している会社です。2020年で20周年になりますが、その中でゲーム企業のコンタクトセンターも、10年以上にわたって運営してきました。
――伊東さんは普段どのような業務に携わられているのでしょうか?
伊東:ビーウィズには、全国14拠点のコールセンター・コンタクトセンターがあり、それらを運営するオペレーション本部の統括をしています。そして、その業務と平行する形で、新規事業の一環としてeスポーツに関連する取り組みを行っています。
eスポーツ事業には、私と九州事業部の羽生というメンバーに加えて、数名が携わっています。活動の幅は広がっているのですが、まだeスポーツ事業としては収益化できていないこともあり、本業と兼務しながら進めている状況です。
――伊東さんご自身は、もともとゲームやeスポーツに関心を持たれていたのでしょうか。
伊東:私は今47歳で、いわゆるファミコン世代。子どものころから、さまざまなゲームに夢中になってきました。今も趣味としてゲームが大好きなので、私が中心となってeスポーツ事業を進めています。
最近では、凸版印刷さんやサイバー・コミュニケーションズさんらの主催する社会人eスポーツリーグ「AFTER 6 LEAGUE」に、ほんぶちょーという名前で出させていただいています。ブロスタ部門に出場しているのですが、今ビーウィズはランキングで最下位なので、これから勝ちたいと思っています(笑)。
――ビーウィズがeスポーツに関連する取り組みを始めた経緯について教えてください。
伊東:国内でeスポーツが盛り上がりつつあった2017年ごろ、ゲーム企業のコンタクトセンターで働いているスタッフから、eスポーツ大会に出場しているという話を聞くようになりました。ただ、収入面で選手活動を生業としていくのは厳しいとも聞いていて、ビーウィズで何かeスポーツ事業を作ることができないかという話が上がってきたんです。
それから、プロeスポーツチームの代表の方など、いろいろなところへヒアリングに行きました。皆さんがおっしゃっていたのは、やはりお金にならない難しさ。加えて、10代の若いプレイヤーがいきなりプロになる世界なので、十分な選手教育ができていないという課題も耳にしました。
コンタクトセンターを運営してきた我々は、人材育成のノウハウを持っています。人に何かを教えたり伝えたりするコミュニケーションが主となる仕事ですから、そういったノウハウを選手にレクチャーし、かつ彼らがお金を稼げる形にしたい。それを実現できるシステムを作ろうと、2019年12月にeスポーツのコーチとプレイヤーをマッチングするプラットフォーム「JOZ(ジョーズ)」をリリースしました。
「ePARA」優勝プレイヤーをスタッフとして雇用
――バリアフリーeスポーツ大会「ePARA」との関わりについては、どのようなきっかけがあったのでしょうか?
伊東:2019年に、eスポーツ関連のセミナーで知り合った方から、「ePARA」というバリアフリーeスポーツ大会があることを教えていただきました。その後、「『ePARA 2019』で優勝した障がい者の方を雇用しませんか」という提案をいただいたんです。それがきっかけで、格闘ゲーム『鉄拳7』プレイヤーの、まあくん選手とむぎちゃん選手の2名と出会いました。
2人と面談をしたら、とてもやる気があって「もっと強くなってプロとして有名になりたい」、そして「障がい者が活躍できることを自分たちで証明したい」という思いを、本気で熱く語ってくれたんですね。我々としては、その夢をぜひ応援したいと、2人の雇用につながりました。
将来的には、彼らに「JOZ」でコーチングをしてもらいたいという夢を持っています。障がいを持った方が、健常者に何かを教える側になる機会って、なかなかないと思うんですよね。それを実現できる場が、eスポーツにはあるのではないかと考えています。
――ビーウィズでは、もともと障がい者雇用を進められていたのでしょうか?
伊東:ビーウィズには7,000人以上の従業員がいるため、法定雇用率から考えると、かなりの数の障がいのある方を雇用する必要があります。なので、すでに社内では障がいのある方が、健常者と一緒にさまざまな役割を持って業務しています。
実業団形式で、選手活動をしながら社会人経験を積む
――2019年にスタートされた「eスポーツ選手養成プログラム」について教えてください。
伊東:「eスポーツ選手養成プログラム」は、選手活動と仕事を両立しながら働ける制度です。プロチームというよりは実業団のようなイメージ。午前はコンタクトセンターでのオフィスワークを行い、午後はeスポーツ関連の練習や活動を行います。
プログラムの就業スタッフは現在、まあくん選手やむぎちゃん選手を含む、障がい者が3名。『Apex legends』で実績を持つまさのりさんや、『Hearthstone』で活躍する女性プレイヤーのMasaruさんなど、選手やストリーマーとして活動する健常者が8名います。
このプログラムの目的は、ビーウィズの雇用によって安定的な収入を担保しながら、eスポーツ関連の活動を支援すること。そして、社会人としてのスキルを身につける機会を設け、選手生命が短いといわれるeスポーツプレイヤーのセカンドキャリア形成を支援することにあります。
――「ePARA」をきっかけに雇用した選手は、普段どのように働かれていますか?
伊東:例えば、まあくん選手は現在20歳で、半身に障害を持っています。これまで就労継続支援事業所の中で仕事をしたことはありますが、社会人として働くのは初めて。現在、彼にはオペレータースタッフの勤務日報の処理や、バックオフィスの庶務などの仕事を任せています。
これから彼が自立して生きていくために、オフィスワークのスキルを習得していくことは欠かせません。最初は教えてもらった通りにしかできなかったところから、今では効率的な進めかたを自ら考えて動けるようになるなど、社会人としても日々成長しています。
全盲のプレイヤーでも、eスポーツなら勝てる
――「ePARA 2020」の大会を通して、特にどのような内容が印象に残っていますか?
伊東:2019年の「ePARA 2019」で優勝したまあくん選手とむぎちゃん選手は、大きなプレッシャーを感じていたようですが、2020年11月に開催された「ePARA CHAMPIONSHIP」の『鉄拳7』でも全勝優勝を叶えました。「ePARA」は、バリアフリーeスポーツとして、障がいのある方と健常者が混合で試合を行いますので、そこで全勝優勝できたことは非常に誇らしく感じています。
まあくん選手は体調が万全ではなく、本人的には練習に十分な時間が取れていなかったようなのですが、『鉄拳7』で出たばかりの新しいキャラを使って試合に臨んでいました。普段から使っているキャラではなく、あえて新しいキャラを使って勝つという、エンタテインメント性も意識したうえでの勝利だったので、本人としてもかなり喜んでいましたね。
もう1つ印象に残っているのは、全盲のプレイヤーが『鉄拳7』で1勝を掴んだ試合です。本人は自宅でプレイしているのですが、オンライン上でゲーム画面を共有するサポーターがキャラの向きなどを見て報告し、本人はそれを聞いて技を繰り出します。
試合のゲーム画面だけを見ている観戦者は、全盲の選手がプレイしているとはまったくわからないほど。それを見ていて、ものすごく感動しました。障がいを持っているかどうかに関係なく、勝つことができるんだと。改めて、eスポーツの持つ価値を感じましたね。
――ビーウィズは「ePARA」に出場するだけでなく、大会協賛もされています。その理由について教えてください。
伊東:「ePARA」代表の加藤さんの考えに、強く共感したことが大きな理由の1つです。ビーウィズも若者を応援したいと考えていますし、障がい者の方々の自立を支援していきたい思いがあるので、同じベクトルを向いていると感じました。なので、一緒に取り組んでいくという気持ちで、大会への協賛をさせていただいています。
まあくん選手とむぎちゃん選手は、プロが多く出場する大会にも出ているのですが、そこで結果を残すにはまだ実力が及びません。彼らがもっと自分に自信を持つために「ePARA」のような大会は重要で、どんどんチャレンジして結果を残していくことが大切だと考えています。
「ePARA」を通じて、個性に応じた活躍ができる機会を
――「ePARA」のようなバリアフリーeスポーツ大会に、どのようなことを期待していますか?
伊東:一般的なスポーツの場合、障がいのある方が参加するのはパラスポーツですが、eスポーツであれば、健常者も障がい者も同じ土俵に立つことができます。「ePARA」のようなバリアフリーeスポーツ大会では、そこで現れてくる個人の特性を、我々のような企業側が発見できる可能性を秘めているでしょう。
というのも、障がい者を雇用した企業が、どのような仕事を振っていいかわからず、十把一絡げに単純作業の仕事を任せてしまうケースが多いのも事実。でも、障がいのある方も個人ごとに、それぞれ特性や能力はまったく異なります。
まさに、我々が「ePARA」で優勝した選手を雇用したように、「ePARA」は障がいのある方が自身の持つ特性や能力を、企業に向けてアピールできる場になる。もっと多くの企業を巻き込んだ大会にしていくことで、そうしたチャンスを増やしていけると考えています。
――eスポーツプレイヤーとしての活躍だけでなく、さらにその先にも活躍の場を広げていくということですね。
伊東:その通りです。障がいを持っている方は、どこか引け目を感じていて、引っ込み思案な性格であることも多いんです。でも、できるだけ通常通りの仕事を任せて、できなければしっかりと教えていくべきだと考えていて。
そうすることで彼らが自分に自信を持って、ゲームを通じて知り合った仲間たちとも対等な気持ちで会話ができるようになってほしい。彼らが未来を切り開いていけるように応援したいと思っています。
今後目指すのは、eスポーツ事業での収益化
――eスポーツ関連の取り組みとして、今後の展望があれば教えてください。
伊東:もともと「JOZ」は若者をターゲットとしているのですが、お金を払ってコーチングを受けたい若者はあまり多くないというハードルがあるんですよね。一方で、最近は学生や社会人などを対象としたeスポーツ大会が増えてきていますから、そうした部活動におけるコーチの需要があるのではないかと考えています。
例えば、高校のeスポーツ部で、コーチを年間契約するほどの予算がなかったとしても、ワンショットや短期間だけコーチをつけるという方法があります。こうした可能性を模索するため、現在いろいろな学校とお話をさせていただいています。
それから、ビーウィズでは全国14拠点を展開していることもあり、地方自治体からeスポーツを活用した地域活性化の取り組みについても、さまざまなご依頼をいただくようになりました。
現在は2021年に向けて、商店街の一角にeスポーツのコンテンツを盛り込んだ施設をつくる計画や、とある県庁のロビーを使って、地場企業や誘致企業の方々を招いたeスポーツ企業対抗戦を開催する企画などを進めています。
そして、社内的な目標として掲げているのは、eスポーツ事業で収益化すること。やはりこれがなかなか難しいんですよね。定性的な部分でも成果を残しつつ、いずれは収益的なところでも結果を出せるように、がんばっていきたいと思っています。
――伊東さん、本日はありがとうございました!