「全国高校eスポーツ選手権」や「STAGE:0」など、高校生を対象としたeスポーツ大会の開催とともに、eスポーツ部を立ち上げる高校が増えつつあります。
愛知県立城北つばさ高校も、その1つ。2018年にeスポーツ部を発足させ、「STAGE:0」では中部ブロック準優勝を果たすなどの実績を残します。
今回は、城北つばさ高校のeスポーツ部立ち上げに携わった顧問の鈴木佑哉先生と、eスポーツ部発足当初からの部員であるラハト・ホサインさんに、部活動についてお話を伺いました。
憧れだった部活。入れたのはeスポーツ部発足のおかげ
――まずは、城北つばさ高校でeスポーツ部が発足した経緯を教えていただけますか?
鈴木佑哉先生(以下、鈴木):きっかけは、「ゲーム部を作ったらおもしろいんじゃないか」という校長先生のひとこと。当初は、囲碁や将棋なども含む幅広いゲームを想定していたのですが、ちょうどそのころ、2022年の「アジア競技大会」でeスポーツが正式種目に採用されるニュースが新聞に載っていたんです。
eスポーツが話題になりそうだなと思って調べてみると、サードウェーブさんの「eスポーツ部発足支援プログラム」で、ゲーミングPCを借りられると知りました。そこで「ぜひeスポーツ部をやらせてください」と伝えて、2018年9月に部を設立しました。
最近では、アニメやゲームが好きだと前面に出す子も増えているように感じます。でも、学校にはそういう子の活躍する場がなかなかありません。eスポーツ部は、そんな生徒にスポットライトを当てられる場所の1つになると考えたんです。
――ラハトさんは、eスポーツ部ができた年に入部されたそうですね。部ができてよかったと思うことを教えてください。
ラハト・ホサインさん(以下、ラハト):部活に参加できるようになったので、いままで以上に学校生活が楽しくなりました。中学生のころから、「放課後に部活をしてみたい」と思っていたんです。でも、僕は車椅子で生活しているので、なかなか入れる部活がなくて――。
そう思っていたところ、2年生のときにeスポーツ部ができたんです。もともとゲームが好きだったこともあり、入部を決めました。
――eスポーツ部を立ち上げる際、ほかの先生からの反応はいかがでしたか?
鈴木:特に反対意見は出なかったです。eスポーツ部の発足に必要なゲーミングPCも、サードウェーブさんのプログラムでお借りできましたしね。
――eスポーツ部で扱うゲームタイトルの選定は、どのように行ったのでしょうか。
鈴木:まずは「全国高校eスポーツ選手権」で採用されている、『League of Legends(リーグ・オブ・レジェンド)』(以下、LoL)と『ロケットリーグ』の2タイトルを扱うことに決めました。
「ゲームが好きだから、eスポーツ部に入りたい」という生徒もいるのですが、タイトルを限定しないと、ただゲームをするだけで、部活ではなくなってしまいます。なので、この2タイトルのどちらかでチームを組んで活動していく意志のある生徒のみ、入部を許可しました。
ただ、最初は2タイトルで様子を見ていたのですが、生徒の反応や指導のしやすさなどの観点から、結果的に『LoL』をメインで取り組むことになりました。
――ラハトさんがプレイするタイトルを『LoL』にしようと思った理由を教えてください。
ラハト:僕を含めた部員全員、入部するまで『LoL』にも『ロケットリーグ』にも触れたことがなかったので、最初は両方プレイしていました。しばらくやっていくうちに、僕としては『LoL』のほうが真剣に向き合えるタイトルだと感じたため、『LoL』でチームを組みました。
『LoL』は、たった1つのミスで一気に試合が逆転するような、最後まで油断できないゲーム。チームで協力して戦っていくところも魅力ですが、「諦めなければ勝てる」ところがすごくおもしろいと思っています。
eスポーツ部の活動が増やした「チームメイトの笑顔」
――eスポーツ部に入部した生徒たちを見ていて、感じた変化や反応はありましたか?
鈴木:自分はラハトを含め、部員4人のクラス担任です。毎日見ているので小さな変化には気付きにくい部分があるでしょう。でも、たまに会う校長先生からは、表情が明るくなったとか、大きな声であいさつされたとか、ずいぶん雰囲気が変わって驚いたとか、そう言っていただきました。
特に、eスポーツ部に入部したのは、いままで授業が終わったらすぐ帰っていた生徒ばかり。部活という新たな居場所ができたことによって、学校そのものを楽しいと感じられるようになったのかなと思います。
ラハト:本当にそうなんですよ。僕自身は、もとから明るくてよく喋るタイプなんですけど、チームメイトは皆もともと静かで大人しいタイプ。でも、部活に入ってからは、いつのまにか大声で冗談を言うようにもなりました。
「授業が終わったあとの期待感」があるのとないのとでは、やっぱり全然気持ちが違います。チームメイトの笑顔が増えたのは、eスポーツのおかげでもあり、部活のおかげでもあると思います。
――部員がチームを組んで部活に取り組む様子をご覧になって、いかがでしたか?
鈴木:チームでの練習が始まると、私が指導したわけでもないのに、自分たちの試合の録画を見返しながら、どうしたら勝てるか5人で意見を出し合うようになったんです。
これまで私は、テニスやバドミントンなど運動部の顧問をしてきた経験はありますが、生徒たちが自主的に相手校のプレイを録画して分析するなんて、見たことがありませんでした。純粋にすごいなと思いましたね。
――eスポーツ部の活動を通じて、ラハトさんが自身の成長につながったと思うことはありますか?
ラハト:普段から友達と仲良く過ごしていますが、チームで一丸となって1つの目標に向かっていくのは、これまで僕にとってなかなか経験できなかったこと。部活を通じてそれを経験できたことは、本当によかったと思っています。
『LoL』は本当に難しくて、チームでは壁にぶつかる場面しかなかったと言ってもいいくらい(笑)。でも、毎日のようにチームメイトと話し合いながら練習をして、一つひとつ壁を乗り越えられたので、すごく満足しています。
――鈴木先生がeスポーツ部の顧問として指導するにあたって、難しさを感じたことはありましたか?
鈴木:生徒たちも全員、部活に入ってから『LoL』を始めたので、スタートは同じだったんですけど、私よりも部員のほうがあっという間に知識をつけて、追いつかないところまでいってしまいました(笑)。
ただ、『LoL』はすごく難しいゲームなので、2カ月ぐらい経つと頭打ちになり、「勝てなくてつまらない」という雰囲気になってしまったんです。これはちょっとまずいなと思っていたところに、たまたま『LoL』を昔からプレイしている非常勤の先生がいることがわかって、教えに来てもらうことになりました。
その先生が、「初級編」や「中級編」など、テスト対策のようなプリントまで作って、基本的なところから指導してくださったのです。生徒たちも、そこから一気に勝てるようになり、「楽しい」と話すようになりましたね。
ラハト:もし非常勤の先生のサポートがなかったら、僕は『LoL』を続けていなかったと思います。この場でインタビューを受けることもなかったでしょう(笑)。