太陽系には、海が七つあります。
いや、地球に七つ海があるからー、ではなく、太陽系の七つの天体(図)に海があるという話なんです。
今回は、そんなお話をしますよ。
七つの海というのは、全世界といった意味がありますね。かつて七つの海を支配したのは19世紀の大英帝国で、今でも何にでも保険引受をすると言われるロイズ保険組合や、世界中にある英連邦の国々にその名残がございますね。いつぞやオーストラリアに行った時に「カナダから転職したのー」という人がいてびっくりして「いや、英連邦の中だから」と冗談だか本気だかわからないことを言われたのを今思い出しましたよ。
さておき、七つの海は、何かというと、北大西洋、南大西洋、インド洋、北太平洋、南太平洋、北氷洋、南氷洋なのだそうです。大西洋や太平洋の境目ってどこじゃい、とか思っちゃうわけですけど、まあ、そうなんだそうで。考えてみれば、これ、全部つながってますよね。そういう意味では、地球の海は一つと言っても良さそうですな。
で、地球の海を一つとカウントするとして、太陽系には現在、少なくとも七つの海の存在が確実視されているのです。え? 月の海? いやあれは、ガリレオが平らなところを海と言っただけで、溶岩の平原でございます。もちろん、海というからには、水が広い範囲にチャプチャプしているのを言っているのでございますよ。
それも当たり前で、水は宇宙では割とよくある存在なんですな。例えば、彗星。毎年多数が発見され、中には大きな尾をたなびかせるものもあります。あれは、数百メートルから数キロメートルの、氷の塊なのですよ。たった今、南半球ではSWAN彗星が天文ファンを楽しませていますが、これは彗星が太陽に接近し、蒸発している様子なのですな。
彗星の蒸発は火星の軌道の外側くらいから激しくなり、太陽に接近すればするほど蒸発して、壊れてしまうこともあります。こんなことは太陽系が誕生した46億年前から繰り返し行われてきたわけで、それでも尽きないくらい、太陽系には水があるということなのでございます。
ただ、ここで問題がございます。水がチャプチャプ、液体でいられるのは、意外と厳しい条件がありますな。まず、温度。地球の海抜0mでは、0℃~100℃までが液体の水です。ただ、地球の水深3000mくらいの深海では、周囲の圧力で400度くらいの熱水も存在できます。ただ、圧力がないとどうしようもなくって、彗星は、太陽熱で、氷→蒸発で、液体すっ飛ばしちゃってます。ええ、圧力がない、真空の宇宙空間では、液体でいられないのですな。太陽からの距離が地球とほぼ同じな月も、ほぼ空気がなく、液体の水は存在していないと見られています。
第3惑星の地球の隣に目を向けると、太陽に近い第2惑星の金星は、大気は分厚いのですが、暑すぎてダメ。少し遠い第4惑星の火星は、惑星サイズが小さいため、大気が薄く、表面に水が凍った氷は認められるのですが、氷→水蒸気になってしまうのでございます。ただ、火星の表面を見るとかつては、かなり広い海があったと思しき地形があります。昔はもうちょい大気が厚く、もうちょい暖かく、チャプチャプの海が存在し得たのではないかと考えられているんですな。
こうなると、もう太陽系の海は地球だけ! と言いたくなるのですが、事実はSF小説より…です。なんと、太陽系の他の天体にも海があると考えられているのが少なくとも六つあるんですな。木星、土星、海王星の衛星にそれはあるんでございます。
ところで木星というと、太陽から遠く、寒いため、水はどうあっても凍ってしまう環境です。木星よりさらに太陽から遠い、土星や海王星は言わずもがなの氷漬けの世界でございますな。実際、木星の衛星エウロパやガニメデを探査機が接近して撮影したところ、氷で覆われた姿でございました。
また、これらの衛星は、地球の3分の1から5分の1と重力も小さく、空気は薄く、火星や月のように圧力が足りず、氷→水蒸気になってしまいそうです。
ところが、熱源については、太陽に頼らなくてよいのですな。というのはこれらの天体は、4日とか8日という短い周期で、地球の11倍もでかい木星を回っており、それが原因で、内部で熱が発生するからです。空からの太陽光線は寒々しいのですが、温泉がわく環境があるということなんですな。
木星に近くでぶん回されると、なんで熱が出るか? というのは潮汐力の変化のおかげです。木星の衛星のイオやエウロパ、ガニメデ、カリストは、楕円軌道を描いており、木星に近づいたり遠ざかったりを周期的に繰り返します。これによって、地面が大きく変形する波ができ、モミモミされることで内部が温まるんですな。イオなどは温まりすぎて火山を吹いているくらいです。ムービーを見てもらったほうが、イメージがわくと思いますよ。3分くらいから見てくださいませ。
ということで、氷漬けの衛星が温泉が沸くことで、氷の下に巨大な海がチャプチャプしているということなのですな。同じようなものに土星の衛星エンケラドス(わずか33時間で公転)や、海王星の衛星のトリトン(5日で公転)があります。
そして土星の衛星タイタンは、公転周期が16日あり、木星の衛星カリストと同等ですね。ただ、タイタンの場合は、表面にも海があるのです。これは、タイタンに分厚い大気があるのがポイントです。土星の衛星なので、木星より倍ちかく太陽から遠く、寒いので大気が簡単に逃げないこと、大気の中に含まれるメタンが、水の代わりに雨となり、ガソリンの湖のようなものができているのでございます。
ただ、これだと水じゃないですね。実は、タイタンの地下には、水とアンモニアが混ざったような海があるのではと考えられているんですな。熱源は木星の衛星のモミモミよりも、地球の地熱と同じで、天体が元々持っていた熱も考えられています。
さて、太陽系の七つの海をご紹介しました。で、海があるなら、生き物は? というのが気になりますよね。エンケラドスからは水が噴出していて、そこには生き物由来かもしれない物質が含まれていたことが探査機のデータからわかっています。
でももっと詳しく調べたいですよね。そこで米国のNASAとヨーロッパのESAはそれぞれ、エウロパクリッパーと、JUICEという探査機を派遣する予定となっています。エウロパクリッパーは2023年にも打ち上げが予定されています。楽しみですな。ちなみにクリッパーというのは、19世紀にヨーロッパ諸国が地球の七つの海を踏破するために使った、貿易用の高速の大型帆船のことです。紅茶貿易に使われたカティ・サークなんかが有名ですな。人類が太陽系大航海時代に突入しているのを象徴するような名前であります。