シャープから4月23日に発売された「プラズマクラスター除加湿空気清浄機 KI-LD50」。空気清浄、加湿、除湿に加えて、衣類乾燥機能まで搭載した1台4役となる製品でありながら、設置面積を雑誌(A4版)見開きサイズ以下までコンパクト化したのが最大の特長だ。本製品の開発背景をはじめ、小型化の実現のカギを握った機構・設計上の先進性、開発過程における秘話などを、商品企画担当者と商品デザイナーの2人に伺った。

気候や暮らしの変化が小型化のニーズに

商品企画を担当した、シャープ Smart Appliances & Solutions 事業本部 国内空調・PCI事業部 PCI商品企画部 主任の松村勇樹氏によると、空気清浄機の販売台数というのは下期に比べると上期が少ない傾向にあるという。また、PM2.5や花粉の飛散など屋外の空気環境の悪化に伴い、日本でも年々需要が高まっているが、少人数世帯への普及はまだ足踏みをしている。

  • シャープがプラズマクラスター除加湿空清の「小型化」でやったこと (前編)

    シャープ Smart Appliances & Solutions 事業本部 国内空調・PCI事業部 PCI商品企画部 主任の松村勇樹氏

そうした中、シャープでは2019年に冷風機能付きの衣類乾燥除湿機「コンパクトクール」や脱臭に特化した「除菌脱臭機」といった春から夏にかけての上期のニーズに響く商品を発売し、いずれも好感触を得たという。「特に日本では近年、天候の変化によって部屋干しをされる方が増えており、衣類乾燥除湿機への需要が高まっています。また、共働きや一人暮らしなど日中家事ができない世帯も増えてきていますが、場所が狭くて空気清浄機も衣類乾燥除湿機も設置ができないという声が多い。そこで組み合わせて何かできないか。業界最小サイズのフットプリントの衣類乾燥機能付き空気清浄機を開発しようということになりました」。

本製品は、従来製品よりも設置面積を約27%抑えた。「加湿空気清浄機のボリュームゾーンの製品のサイズを維持しながら、サイズが変わらないのに衣類乾燥除湿機も搭載している、"ちょうどいいサイズにちょうどいい機能"を目指しました」と松村氏。「結果的にこのサイズにできたというよりも、サイズを小さくすることに、技術のすべてをつぎ込んだという感じですね」と振り返る。

  • 従来モデル(それぞれ写真左)との比較。設置面積の比較では3割近くもサイズダウンした

小さなボディに「技術のすべてをつぎ込んだ」

コンパクト化を実現するにあたって、まず見直されたのはトレー構造だ。従来の除加湿空気清浄機では、加湿をする際に使用する給水用、除湿をする際に発生する排水用に独立したトレーを内蔵していたが、本体内の容積を大きく占有していたことから、小型化の大きな課題となっていた。

「加湿用と除湿用のトレーを単純に1つのトレーにしてしまうという考えもありましたが、加湿をする水と排水した水が混ざらないように衛生面にも配慮する必要があります。そこで、技術部門とも協力してたどり着いたのが現在の"2階建て"の構造です。これにより、それぞれの水が混ざることがなく、サイズを抑えることが実現できました」と松村氏。

  • 本体下部に備えられた除加湿トレー。上段が加湿用、下段が除湿用の2階建ての構造にすることで、水が混ざらない

しかし、次に課題となったのは、2つのトレーをロックする方法だ。最終的に、上下重ねたトレーをスライドしてはめ込んだ上に、白いキャップを留め外すことで固定する現在の方式に落ち着いたという。

「もともとは単純にそれぞれのトレーを重ねてツメで固定する形でしたが、ツメが固くて取り外しにくい、重心が傾くなどの課題が発生したため、形状を見直し、スライド方式に辿り着きました。しかし、この方式にもスライドさせる際のスムーズさや強度の保持との両立といった新たな課題があり、スライド部の溝の形状やすき間を調整したり、素材の硬さや強度などを比較・検討し、なおかつ直観的に取り外し方がわかるかなど事細かな部分に至るまで、かなり時間をかけて改良を重ねました」

商品デザイナーを担当した、同事業本部 国内デザインスタジオの清水栄一氏は、2階建てという独自の構造ならではの苦労話を次のように明かす。

「トレーが2階建てになっていることで、外側から水位窓を見た際に、そのままだと下と上で深さが違って見えてしまうのです。それぞれの窓自体の厚みが違うので、中に水が入ってるのが見えづらくなったりしてしまうところを、デザインと技術で相談しながら、形状をうまく詰めていき、どちらの窓の見え方も変わらないように調整しました」

  • 上下のトレイは重ね合わせてはめ込んだ上に、横にスライドさせて白いキャップで留める方式に

  • 水位窓も加湿用と除湿用に分かれているが、それぞれのトレーの厚みが違うため、そのままだと外側からは見え方が変わってしまうが、同じに見えるように形状が調整されたという

もう1つ苦戦したのは、風量の出し方だ。吸い込んだ空気を内部のフィルターでろ過して吐き出すのが基本的な仕組みの空気清浄機では、いかに圧損がなく風量を出せるかということが性能に関わってくるが、コンパクトな本体に4つの機能を持たせた本製品では、所狭しと内部に部品が配備されており、一筋縄ではいかない。

松村氏は「当初は、加湿空気清浄機と同じく1つの風路構造を検討していましたが、本機では加湿空気清浄機に搭載されている集じん脱臭フィルター、加湿フィルターに加えて、除湿に使用する熱交換器も搭載されているので、この方式ではかなり圧損してしまい十分な風量が確保できない状況になりました。そこで、2つの風路を設け、熱交換器を通る風路と通らない風路に分けることで解決をしました」と明かす。清水氏も「中にファンは1つしかないのですが、裏側と正面側の両側から空気を吸えるよう構造を採用しています」と説明した。

  • 製品のカットモデル。4つの機能を実現するためのさまざまな部品がひしめき合っている

  • 表裏両側から空気を吸い込める構造を採用したファン

風をいかにして空間に効率よく放出するかという"気流"の制御も、開発に時間を要した部分だ。衣類乾燥除湿機も兼ねた空気清浄機である本製品は、1枚のルーバーで前方と後方に吹き分けることができる構造が採用されている。

「衣類乾燥時はルーバーの手前が開いて、前方に風が吹きます。空気清浄の時は前方の風は絞られて、斜め後方にも風が出て壁、天井伝いに気流を作る仕組みです。ただ、1枚のルーバーを動かすだけで2つの気流を作ろうとしたところ、風路後方の斜めになっている操作面に風が引っ張られてしまってなかなかうまくできませんでした。そこでどの条件だったら最適な気流を作れるかをCADでシミュレーションしました」と、松村氏。しかし、実物は理論どおりにはいかず、「本体上部の面を盛ったり削ったりして、実はアナログに微調整を行った部分も少なくありませんでした」と、清水氏は開発過程における裏話を付け加えた。

  • 空気清浄モード時のルーバー。後ろ側へ風を送り出す

  • 衣類乾燥モード時のルーバー。手前のみが開き、前方に向かって直進的な風を送る

次回後編、「きれいな空気」をデザインで伝えたい

従来の除加湿空清に衣類乾燥機能も追加しながらもサイズダウンが図られた本製品。前編では、機構・設計面での秘話を中心にご紹介した。連載の次回後編では、外観デザインのこだわりについて語っていただく。