前編から続く)

パナソニックが2023年9月に発売し、持ち手のない、手のひらサイズのこれまでにない新感覚の電動シェーバーとして注目を集め、ヒットを記録している「ラムダッシュ パームイン(以下、パームイン)」。前回に続き、本製品のデザインと企画担当者の2人に、知られざるこだわりのポイントと開発秘話を伺った。

  • パナソニックの電動シェーバー「ラムダッシュ パームイン」。手のひらサイズによる新しい感覚での操作性や、生活空間におけるインテリアとしての自然な佇まいも意識してデザインされている

    パナソニックの電動シェーバー「ラムダッシュ パームイン」。手のひらサイズによる新しい感覚での操作性や、生活空間におけるインテリアとしての自然な佇まいも意識してデザインされている

新素材「NAGORI」が美しく見える理由

今回、注目されるポイントとして「NAGORI」という素材の採用も挙げられる。海水から抽出したミネラル成分から生成された新素材で、陶器や天然石のような質感と熱伝導性を併せ持つのが特徴で、家電製品で使われるのは初めてとのこと。樹脂を金型に流し込んだ際に模様が発生することで、大理石のような自然な風合いをもたらすというが、この模様の調整も苦心した部分だという。パナソニック くらしアプライアンス社くらしプロダクトイノベーション本部デザインセンター AD2部のシニアデザイナー別所潮氏は次のように語る。

「NAGORIの模様は着色剤の溶ける硬さや温度などによって変わり、模様が強すぎると汚れのように見えてしまう難しさがあります。置いた時の佇まいとして納得できるような模様にするために、設計部門と一緒に金型の成形機の前で何回も調整しました。発売時期も決まっている中で、答えのないものを作り続けるのは非常に大変な作業でした。NAGORIの質感に合わせて、刃の周りのフレームや樹脂の部分もマットな質感に統一しています」

  • 新素材の「NAGORI」を採用。樹脂を金型に流し込んだ際に発生する模様が、大理石のような自然な風合いをもたらす

同ビューティ・パーソナルケア事業部 パーソナル国内マーケティング課・主幹の山本健司氏は「パームインは1つ1つの商品でそれぞれ模様が異なります。これまで家電というのは、むしろ仕様が同じであるべきという考えが主流でした。特にパナソニックは品質基準が非常に厳しく、あえて逆の方向を目指すことは大きなチャレンジでした」と補足した。 美しい佇まいを意識したことで、収納場所や使用場所の自由度も広がった。「置き場所を限定せずに置けるというのは、逆に言うと剃りたい時に剃れるということにも繋がります。洗面空間だけでなく、書斎やリビングにもオブジェとして置いていただける可能性が拡がります」と別所氏。

山本氏は「ユーザーの声として、生活感が出てしまうのが嫌でシェーバーを隠しているという方がファミリー世帯を中心に多くあります。そこでまず目指したのが、洗面空間にそのまま置いておける、むしろインテリアに昇華しているようなデザイン。基本は隠すものだったものから人に見せつけたいぐらいのところまで感性価値を高めたい。そのためにはどうあるべきかについて、社内でもずっと議論をしていました」と話した。

新素材NAGORIは安全性への配慮からも採用されているとのこと。「形をパッと見た時に、落としやすいのではないかとよく言われます。特に水で濡れている時の懸念は社内でも多くありました。下側に少し膨らみのある形にしているのは、下に向けた時にも落としにくいようにするためです。ツルツルしていると滑って落としてしまいやすいので、インテリア性だけでなく、安全性も考慮した上でNAGORIのマットな仕様を採用しました」(別所氏)と説明する。

  • NAGORIのマットな質感により、手に握った際の滑りにくさも両立する効果も。刃の周りのフレームや樹脂の部分もNAGORIの質感に合わせた質感で統一されている

サステナブルな価値も持つ引き算と足し算

“引き算”をしていくプロダクトの在り方は環境への配慮にもつながっている。引いた分のプラスチック使用量が減り、無駄な開発を減らすことにもつながったという。

「ヨーロッパなどでは環境に配慮されてない商品というのは全然受け入れられません。例えば海外の賞に応募する際にも、わざわざ募集要項に何パーセントぐらいの割合で何をしているかを記載するよう設定されていたりするぐらい、重要視されています。今回、そこに対しても多少は応えられたのかなと思っています」と別所氏。

山本氏によると、サステナブルな価値の上乗せを評価してパームインを購入した消費者も少なくないという。

「日本の消費者の感覚だと、エコ=コストがかかるという意識があるものの、エコ対応しているだけで追加でお金を払おうと思う人はあまりいないと思います。ただサステナブルな価値を上乗せするだけで事業化するのは難しいと思いますが、パームインは大理石のような質感だったり、より高いデザイン性の価値を上乗せして、それらも含めて選んでもらうというのを実現できたと思います。4万円を超える高価格帯の商品ですが、サステナブルな側面が響いて購入したという方が若年層のお客様を中心に多数いらっしゃいました」

一方、「本体を引き算すると、そのままだと単純にただ引き算しただけの部分になってしまいます」(別所氏)と語る。逆に足し算されたものもある。

「体験価値を強めるという意味で、新しい素材や、マグネットのキャップを採用したりしています。販促品として本体と同じNAGORIを採用した専用の置台をプレゼントするキャンペーンも実施しています。もともと、洗面台以外のところに保管して使うという構想がありましたので、そうした感性的なところに特化したものには妥協しないという考えでした。付属のケースもチープな布製とかの単純なものではなく、質感が感じられる革を使って、内側にも少し起毛のような素材を使用したり、外出先での体験だったり、製品を大事に使っていただくと満足度が上がるようにこだわって作りました」(別所氏)

  • 付属ケースも高級感ある素材で所有欲も満たす。シェーバーが出し入れしやすいながらも、無駄なすき間がなくフィットしたサイズにこだわって調整されているという

ものづくりとデザインが生んだ「新しいシェーバー」

昨年9月に発売して以来、今年1月1日時点までで累計販売台数が当初計画の12倍となる5.2万台に到達し、想定以上の大反響だというパームイン。引き算へのチャレンジと足し算へのこだわりの絶妙なバランスが、多くの消費者の心を掴む結果につながっていると感じる。最後に、これまでにはない感覚と付加価値を持ったプロダクトが誕生する道のりを、それぞれ次のように振り返った。

「バランスが整っていないと生まれなかったシェーバーだと思います。単純に小さければいいというものでないし、それ相応の性能との合わせ技でなければならない。性能が良くて、そこそこのサイズ感、あまり小さくもないというものだと、単純にコンパクトなシェーバーになってしまいます。サイズ感と性能に加え、佇まいも含めた三位一体の状態をバランスよく作れたことがポイントなのかなと思います」(別所氏)

  • パナソニック くらしアプライアンス社くらしプロダクトイノベーション本部デザインセンター AD2部のシニアデザイナー別所潮氏

「これまで機能価値を足し算しながらシェーバーとしての進化を続けてきましたが、対して引き算するのはすごく難しいと感じました。絶対に妥協してはいけない性能面の要素と、手のひらサイズを両立しなければならない中で、それぞれがトレードオフの関係であるために、ものづくり側とデザイン側が特に苦労し、何度も検討して試作を重ねながらパームインを世の中に生み出しました。また、同時にパームインの商品化を通じて、NAGORIというこれまで家電に使用したことがない新しい素材を採用してみるなど、これまでにないことに果敢にチャレンジし、新しい市場、シェーバー文化を創造するという気概ある風土を醸成することができたと感じています」(山本氏)

  • パナソニック くらしアプライアンス社ビューティ・パーソナルケア事業部 パーソナル国内マーケティング課・主幹の山本健司氏