空調総合メーカーとして、エアコン、空気清浄機などをグローバルに展開しているダイキン工業。業務用の空調機器のシェアが高いこともあり、性能面においては業界内で高い信頼と実績を獲得してきたものの、家庭向けの商材においてはデザイン面で他社に少し引けを取る……という印象を持っていた人も多いのではないだろうか。

しかし、そんな同社が2015年に発売した当時の新商品「ストリーマ空気清浄機 MCK55S」(以下MCK55S)では、加湿空気清浄機としては目新しいスリムタワー型という機構を採用し、省スペース性やポップなカラー展開などで消費者の注目を集めた。そして、同社は今秋市場に新商品「ストリーマ空気清浄機 MCK70T」(以下MCK70T」)と、「ストリーマ空気清浄機 MCK55T」(以下MCK55T)の2製品を投入した。

ダイキン工業「ストリーマ空気清浄機 MCK55T」。個室向けの加湿空清として、同社が昨年初めて発売したスリムタワー型加湿空気清浄機の2016年モデル

「ストリーマ空気清浄機 MCK70T」(以下MCK70T」。デザインが刷新されたリビング向けの加湿空清の新モデルだ

前編では、空清としては目新しいカラーの選定理由などを伺った。後編では近年空気清浄機のデザイン性の向上に力を入れるダイキン工業の取り組み・こだわりについても、同社テクノロジー・イノベーションセンター 先端デザイングループの吉川千尋氏に話を聞いていく。

操作部インターフェースを整理した狙い

MCK70Tの操作部においては、新たな機能として"おまかせボタン"が追加されている。これは、ボタン1つで部屋の状況に応じて加湿機能も空清機能も自動で制御してくれるというモードだが、今回を機に操作パネル全体のインターフェースの見直しも図られている。

MCK70Tの操作部は、色と形の違いで差異を示していた従来のインターフェースを見直し、新搭載の"おまかせボタン"を中心に、優先度の高いボタンから中央部に配置する構成に変更されたという

具体的には、優先度の高さによって操作ボタンが大きく3つの構成に分けられており、中央部分に電源や自動設定機能などのよく使われるボタンを配備。その右側に加湿、風量設定といったマニュアルで操作するボタンを設け、タイマー設定や表示ランプの明度などオプション的な設定が行えるボタンが左端に整理された。その狙いを吉川氏は次のように説明する。

「空気清浄機が多機能になるにつれ、操作ボタンの数も増え、だんだんと煩雑になってしまっていました。今までのモデルを見直してみると、ボタンの優先順位を色と形の両方で説明しており、ユーザーが迷いやすいのではないかということに気付きました。そこでボタンのサイズ感と文字の大きさだけで説明するように変更しました。それにより過度な説明情報をそぎ落とすことができた上に、見た目的にもスッキリさせることに成功しました」

一方、スリムタワー型のMCK55Tに関しても、操作パネルや表示部のデザインが密かに変更されている。「例えば、操作ボタンの縁取りのシルバーの印刷を前のモデルよりも少し控えめにしてあります。表示ランプの窓の部分も各サイズを統一しました。全体的に機械的な印象を少し落ち着かせるようにデザインしているんです」と吉川氏。

操作パネルの新旧比較。上が旧製品。LEDの表示部分の窓のサイズが統一され、ボタン部分を縁取るシルバー色もトーンを落とし、メカメカしさがより薄くなり、女性的なデザインに

役割に応じたかたち・カラーを選定

確かによく見ると、非常に細かい部分でところどころ前年モデルとは異なることに気が付く。例えば、旧機種では本体上部の中央にあったロゴマークが新製品では右端に移動している。

MCK55Tの操作部と表示部。一見、旧製品と同じように見えるが、ロゴの位置なども微妙に変わっている

また、カラーに関しては、MCK55T同様にMCK70Tもホワイトとブラウンの2色を展開する。しかし、同色ではありながら、ニュアンスや質感は大きく異なる。吉川氏によると、その理由はそれぞれ設置される空間が異なるためだという。

「リビングは幅広い年代の家族が集まる場所なので、高級感のあるしっとりと落ち着いた色が望ましいということで、ダークトーンで細かいパール加工を施してあります。これに対して、小部屋の場合は空気清浄機の色自体が部屋のインテリアの一部として映えるようにトーンも明るめで、ツヤのある質感に仕上げました。リビング向けに比べると、小部屋空間の中でユーザーにフレンドリーな立ち位置で愛着を持ってもらえるようにという思いが込められています。しかし、色選びはどのような光源下に置かれるものか、量産する上での再現性なども考慮する必要があり、そのせめぎ合いの中で繰り返しサンプルをチェックして妥協できるギリギリのところまで追求しています」

MCK55Tの新色で使用されたカラーチャートやカラーサンプル。インクによる印刷である操作部分とプラスチック自体の色である本体部分との色差や質感の違いを近づけるために、デザイナー自身が製造の現場に何度も足を運んでチェックをしたそうだ

空気清浄機市場のトレンドを聞く

前述のとおり、「空気清浄機にデザインの追い風が吹いている」と語った吉川氏だが、昨今の空気清浄機市場全体におけるデザインのトレンドについてはどのように分析しているのだろうか。

テクノロジー・イノベーションセンター 先端デザイングループの吉川千尋氏

「空気清浄機に限らず、大型家電はこれまでは丸くすることによって小さく見せる傾向があったとように思います。ユーザーもコンパクトに見えるものを選びたい、という思いがあったと思うんです。ただ、最近は大きさだけでなく、置いた時に空間でどう見えるかということをユーザーも重視して選ぶようになってきていて、作る側としてもそういうニーズに応えるデザインを出していかなければいけないと思っています」

そうした思いの上で、同氏が担当する空気清浄機に関しては、「家庭内にあって当たり前の存在にまで普及してきたので、登場時の"目新しさ"はもうなくなり、製品の存在自体を主張する必要はなくなってきたのかもしれません」と、時代の変化についてコメントした。

ダイキン工業は、2015年11月に大阪府摂津市内に「テクノロジー・イノベーションセンター」という大規模な技術開発拠点を設置している。それまで国内3拠点に分かれていた研究・開発技術者約700人を集約し、日本発のイノベーションの創出に力を注ぐ。吉川氏が所属している部署もその中にあり、内部では"ダイキンらしさとは何か?"というテーマで議論されることも多いという。

「空気を扱う会社として、空気を"キレイ"と感じさせたり、いい空気を生み出す空調機器でることを感じさせるデザインというのはどうあるべか…といった議論をよくしています」と吉川氏。

そんな中、最近の同社におけるデザイン哲学を表わすキーワードとして掲げられているのは、"セクシー"だという。一般消費者からすると、長年業務用空調メーカーとして硬派で質実剛健なイメージのあった同社だが、その意外なキーワードの真意について吉川氏は次のように説明した。

「セクシーと言うと官能的な意味に捉えられてしまうかもしれませんが、そうではありません。外国のクルマに対して"セクシーだ"と形容することがあると思いますが、それに似たイメージです。決して華美でも派手なものでもないけれど、よく見ると細部にまで気配りやこだわりがあって、どことなく惹きつけられるような感じです。弊社が長年培ってきた信頼感や質実剛健なイメージは大事にしつつも、ユーザーに愛着を持ってもらえるもう一歩上の次元を目指していきたいと考えています」

空気清浄機のみならず、エアコンについても高いデザイン性の追求に力を入れ始めた同社。空調機器専業メーカーとして、機器のデザインも含めて空間を快適にするというさらなる高みを目指して舵を切り始めたことが伺える。今後の同社の新製品にも注目したい。