数年前から、UX(ユーザーエクスペリエンス)を含む製品のデザイン性の向上に取りんでいる、空調機メーカーの富士通ゼネラル。エアコン室内機のパネルにファブリック調のデザインを取り入れ、注目を集めた「ノクリア SVシリーズ」(2020年)に続く、第2弾のデザインモデルとしてこのほど発売されたのが「ノクリア Zシリーズ(以下Zシリーズ)」だ。

世界三大デザイン賞のひとつ「レッド・ドット・デザイン賞2021」も受賞したZシリーズのデザインに対する思い、そして開発・製造上のエピソードについて、同社デザイン部・部長の三宅学氏に話を伺った。

  • 富士通ゼネラルが4月に発売した、デザインモデル第2弾となる「ノクリア Zシリーズ」

    富士通ゼネラルが4月に発売した、デザインモデル第2弾となる「ノクリア Zシリーズ」

「売れる」デザインモデルを創るために

SVシリーズに次ぐ、第2弾のデザインモデルとして発売されたZシリーズ。両シリーズ共通のコンセプトとして掲げられているのは、こだわりとぬくもりを感じる「CRAFT DESIGN series」だ。このコンセプトの根底には、エアコンの一ジャンルとして定着しつつある、インテリア性に特化した「デザインエアコン」に対する思いがあった。

「これまで『デザインエアコン』と言うと、見た目はお洒落だけれど、性能や機能を犠牲にしているため、実はそれほど売れていないものが多い印象でした。そのため、社内でも『デザイン上は変わったことをしないでほしい』との声もありました。一方で、お客様からの『欲しいデザインのエアコンがない』との声も強く、デザイン部としては、お客様のデザインへの諦めを払拭した、『売れるデザインモデル』を創りたいという思いがありました」(三宅氏)

  • 2019年に発売された、「SVシリーズ」。モチーフとしてファブリックの要素が取り入れられた

    2019年に発売された、「SVシリーズ」。モチーフとしてファブリックの要素が取り入れられた

「特にコロナ禍以降、在宅時間が増え、エアコンを目にする機会が否応なく増え、安らぎを与えてくれる空間の中で過ごしたいという意向が高まっています。Zシリーズは、こうしたニーズに応えるエアコンに仕上げました。SVシリーズよりも発売は1年後になりましたが、開発は両機がほぼ同時に進行していました」(三宅氏)

SVシリーズに続き、Zシリーズでも質感にこだわり、「脱プラスチック質感」がキーワードとなった。

「リビングにある家電製品の中で、テレビの次に大きなものはエアコンです。それなのに旧態依然として進化せず、プラスチック感丸出しなのはどうなのだろう? と、ずっと感じていました。居心地のよいリビング空間を構成する上質なアイテムの1つとして、長期間ご使用いただく設備機器の1つとして、慎ましく飽きの来ない存在であるべきだと考えました」(三宅氏)

意識されたのは、「あたたかみ」や「親しみ」だが、SVシリーズとは異なる方向性で差別化が図られている。その違いを三宅氏は次のように語った。

「世界のインテリア潮流としても、温かみや親しみやすさといった要素が好まれる傾向があります。先に発売したSVシリーズは、寝室や書斎など個室向けのラインナップ。対してZシリーズは、リビング向けの製品です。そこで、上質でインテリアを引き立たせるデザインとして『クラフト感』を考えたとき、ファブリックに続いて着目したのが土でした。日本各地に根づく様々な陶器や漆喰、珪藻土(けいそうど)の土壁など、温かみを感じさせる自然素材が伝統的に多く用いられ、日本の根底にある価値観の中で上質なモノとして捉えられています」(三宅氏)

プラスチックで陶器の風合い、試行錯誤して実現

こうして、一番の特徴とも言える、素焼きの陶器をモチーフとしたデザインが採用されたZシリーズ。しかし、本物感ある陶器の自然な風合いをプラスチックで出すための製造過程は、想像を超えた試行錯誤の連続だった。

「陶器特有の素材の不均一感を出すために、パネル表面の粒々に見える部分には微細な着色フレーク樹脂を混ぜたものを用いています。白い下地となる樹脂の中に、0.5%刻みでフレークを増減できるのですが、これを上げたり下げたり何度も微調整しました。そもそも粒々の色や粒形などの種類自体も何パターンもあって、粒の混じり具合により印象が大きく変わります。さらに、下地の白い樹脂の色も変えると組み合わせが無限にあり、樹脂メーカーと相談しながら、A4サイズの試作を30種類以上も作ってもらって検討しました。メーカーの人も悲鳴を上げるほどこだわりましたよ(笑)」(三宅氏)

よく見ると、表面には本物の陶器に見られるような自然な線の文様も施されている。繊細な陰影を表現するために、わずかな違いで何パターンも試作と検証を繰り返した。

「波文様の部分は、最初は手作りの切削で検討しました。深さも0.08㎜単位で調整して、手作り感をもたらすような仕掛けを施しています。実はパネルの端のほうで、波文様をランダムに消してもいるのです。他にも、パネルの前面に曲面を付けていることから、波の間隔が太い、細いなど、ほんのわずかな違いでも、野暮ったく見えてしまったり逆に神経質な印象になったり。室内機のパネルは、モックアップを何度か作って決定するのが一般的ですが、数種類のモックアップで形状決定した後も、深さや凹凸を変えたA3サイズの樹脂成型の金型を5パターンほど作成し、最終的に製品用の大きな金型を加工する念の入れようでした」(三宅氏)

  • 表面パネルのアップ。樹脂で陶器の質感を再現するために、ランダムな波文様をはじめ、複数の加工が施された。本物の陶器と見紛うほどの仕上がりだ

    表面パネルのアップ。樹脂で陶器の質感を再現するために、ランダムな波文様をはじめ、複数の加工が施された。本物の陶器と見紛うほどの仕上がりだ

製品立ち上げの際には、通常は海外の製造拠点に出張して立ち会うのが通例だそう。だが、コロナの影響で開発・製造期間中に渡航できず、「最終的には工場や現地の技術スタッフに頼り切りになってしまいました」と三宅氏。

しかし、現地のスタッフの努力や金型業者などともオンラインで何度もやり取りをして仕上げていき、最終的に生まれた完成品は、「触れたとき、多くの人が『粉がついてる!?』と思わず指を確認してしまうほど本物と見紛う質感に仕上がりました」と自信を見せた。

「CRAFT DESIGN series」第2弾のラインナップとして誕生した、富士通ゼネラルの「ノクリア Zシリーズ」。陶器の造形を樹脂成型のパネルで表現するという試みは、驚くほどの精緻な細工によって実現されたのだ。

その質感は、1つひとつ職人の手作業で作られたもののようで、量産の工業製品とは到底思えないクオリティの高さだ。機会があれば、ぜひ実物を見てみてほしい。