特定の行動を起こした理由は?:必要なのは体験データ

多くの企業では、顧客の属性データ、年間購入額、来店履歴、購入履歴、Webサイト上の行動履歴、商品の購入検討の状況などのデータが蓄積されていると思います。クアルトリクスでは、このような定量的なデータを「Oデータ」(オペレーション・データ、業務データ)と呼んでいます。

顧客体験の改善においては、「なぜ購入したのか」「なぜ購入をやめたのか」といった定性的なデータを取得していくことも同様に重要です。クアルトリクスではこのようなデータをXデータ(エクスペリエンス・データ、体験データ)と呼んでいます。顧客体験の改善には、定量的なデータと定性的なデータの両方を取得して、「検討」「購入断念」「購入」といった事象がなぜ起きたのか、消費者の感情も取得しながらその背景・原因を理解することが重要です。

  • OデータとXデータの具体的なイメージ

その気持ちや感情を推し量るために、クアルトリクスで注目している3つの要素があります。それは「成功」「努力」「感情」です。

「成功」とは、やりたかったことができたか否かをYesとNoで測定することです。「努力」はどれだけの工程があったかをOデータで計測しても良いですが、お客さまがどれくらい負担に思ったかという感覚を聞きます。最後に、「再度購入意思があるのか」と未来の行動を聞くことで、顧客が抱く「感情」を推測していきます。つまり、やりたかったことが終わるまでの間、安心感を持ちつつ信頼を築きながら、再購入をする意向が生まれたのかを図っていく中で、気持ちや感情をくみ取っていくのです。

これを包括して数値化したものとして代表的なのが、「どの程度友人や同僚に勧めるのか」を図る指標であるNPS(顧客推奨度)となります。

  • 顧客体験に影響を与えるドライバー

NPS などの数的指標は、例えば月ごとなどの定点観測をしていくことで、その変化がアラートとしての役割を果たし、改善が必要なタイミング、つまり顧客が悪い感情を抱き、悪い体験を起こしているかもしれないタイミングを把握できます。また、カスタマージャーニー上の接点ごと、または各製品、各店舗、各担当者、顧客の属性と掛け合わせ、そのポイントが高いか低いかを比較することで、「カスタマージャーニーにおいて、どのタッチポイントが顧客体験を悪くしているのか」「どの製品が良いのか、どの担当者が良いのか、どの店舗が良いのか」を、予測することができます。これにより、次のステップを把握できます。

改善アクションへの落とし込みにはテクノロジーも活用

改善の余地があることを把握できた後に行うことは、もちろん分析と改善です。しかし、例えば読者の皆さんがサービス業で働いているとした上で、とある店舗で「体験が著しく悪い可能性がある」と把握できたとしましょう。その要因は、「接客が悪かった」「店員の商品に対する知識が低くて納得できる答えを得られなかった」「レジが混雑していた」「掃除が行き届いていなかった」など、さまざまなことが考えられます。これらのうち、一体どれを改善すればいいのでしょうか。

こうした体験を悪くしている事象をさらに理由を深く理解するため、クアルトリクスでは、多変量解析といった統計学の分析方法を活用しながら、どの要素が著しく悪くしているのか、つまりどの要素を上げれば顧客体験の向上につながるのかという統計分析の結果を提供しています。

  • 統計分析を行い、顧客体験の向上につながる要素を提示

下図は、架空のECサイトの分析結果を表示したものです。横軸は体験への評価の良し悪し、縦軸は総合評価(NPSや満足度)への影響の度合いを示しています。改善余地があるのは左上の項目のため、このECサイトでは、「商品比較機能」「配達状況確認」「商品説明」が体験を悪くしている事象だと示しています。ここまで分析できれば、後はECサイトで何を改善すればいいのか、かなり明白化します。

  • 架空のECサイトにおける顧客体験の分析結果

さらに、統計分析で改善の余地があるとわかった事象について、生のお客さまの声であるフリーコメントを読むことで、また一歩気持ちに寄り添うことにつながります。お客さまの言葉だからこそ、数字分析だけでは予想だにしなかったコメントに遭遇する場合があるでしょう。

例えば、下図は架空の保険会社のフリーコメントです。フリーコメントを見ながら、どんな言葉が多く書かれているのか、それがネガティブなのかポジティブに書かれているのかを分析するだけでも、何が喜ばれ、何が悪いと思われているのか、改善する要素が顕在化していくと思います。

  • 架空の保険会社に対する顧客のフリーコメント

ここまで、顧客体験の改善のために必要なデータ、その収集の仕方、また分析方法や改善アクションまで説明してきました。多くの企業で顧客の声を元にした体験の改善が行われてきたと思いますが、テクノロジーを活用することで、顧客の考えや気持ちを深く迅速に分析し、改善アクションまで落とし込みやすくなります。

しかし、顧客起点の体験改善には、テクノロジーだけではなく、顧客体験を改善し続ける、それを会社全体で推進していくというマインドと文化も必要です。テクノロジーに任せられる部分があるからこそ、どう改善するかは人の手でやらなければいけません。改善を続けることで、最終的には自社独自の体験を創造・確立できますし、それが他社との揺るぎない体験の差別化につながっていくと思います。

著者プロフィール


クアルトリクス CX ソリューション ストラテジー シニア ディレクター 久崎智子

お客さまの声を起点とした業務改善・プロセス改善・システム開発プロジェクトのリード及びコーチングを金融サービス・製造業・ヘルスケア・エネルギー事業等多岐にわたり提供、20年以上の経験を有す。クアルトリクスでは経営戦略にエクスペリエンスマネジメント(XM)を導入するアドバイザリー支援を担当。