野原: 野原グループの「BuildApp」は、BIMをベースにした設計・製造・施工支援プラットフォームを作り、サプライチェーンのプレイヤー間の情報連携を図り、業界全体の生産性向上を目指す取り組みです。長谷部代表もいらっしゃるNTT東日本グループには、「BuildApp」の準備を始める初期段階からご協力いただきました。

ご相談させていただいた当時を振り返って、長谷部代表は率直にどのようなご感想を持たれたのでしょうか?

長谷部: 2020年に参加させていただいた際は、まだ「BuildApp」の名称はなく、トレーディングプラットフォームと呼ばれていたと記憶しています。

本当に壮大なビジョンで、建設業が変わっていく未来を見せていただいたようで、ワクワクしたことを覚えています。心躍るプロジェクトは好きなので、何とか当社をパートナーにお選びいただきたく頑張ったことを、懐かしく思い出しました。

私自身はさまざまな業界で、不確実性が高い中でも未来の構想を描いてそこに進み、新規事業の創出をいくつか経験していたので不安はないものの、一方で、これからプロジェクトに関わるメンバーの方たちが最後までついてこれるかは、少し不安でした。

野原: まだすべきことはありますが、解像度が上がると社内外の人がついてくるのは間違いありません。われわれもゼネコンなど実際の現場でPoC(概念実証)を2年ほどしていますが、始める前は頭でわかっていても実際に目にするまでは信じられませんでした。しかし、事例が積み上がるにつれメリットを疑う者はいなくなりました。もっと早く進める方法はあるかもしれませんが、われわれの中ではやりながら課題を解消しているのが現状です。

長谷部: 少し形にしてみるとか、できるところから仲間を巻き込んで進めるということを、私どもが参画する前から野原社長がリーダーシップを発揮され、取り組まれていたので、周りが自然とついていきたいと思え、巻き込まれていく感覚はありました。

野原: 「BuildApp」はBIMをベースとしたソフトウェアです。ゼネコンの中で関心度は高まっていますが、BIMが本来持つ「フロントローディング」(※10)の実現までは時間がかかることも想定されます。 いろいろな要因はありますが、既存の建設プロセスにBIMを当てはめようとするからうまくいかない面もあり、このことはさまざまなDX推進にも通底するかもしれません。建設産業の未来、日本の未来を心から願い、取り組む仲間を集め、タッグを組み、共創していきたいと考えています。

野原グループはその旗振り役を務めたいと考えていますが、どのように社外の関係者に伝え仲間に加わってもらうか。長谷部代表のご経験からア ドバイスをお願いします。

※10 フロントローディング:初期工程(フロント)に力を入れて後で問題が起こりそうな負荷を前もって処理することで品質を向上、納期短縮を実現する取り組み

長谷部: 前段の中でも出てきましたが、サプライチェーンでいろいろな方々がついてくるような状況を作るのに、一つは最終顧客である発注者視点でどんな価値が生まれるのかを言語化して共有しながら、サプライチェーン全体で実現に向かうことです。そこでは、共感してくれるイノベーター企業を募り、共創していくことがポイントです。

ただし、このタイプのデジタルプラットフォームには、参加者が多ければ多いほど効用が高まるネットワーク効果というメカニズムが働くので、早期にクリティカルマス(※11)に到達することが重要です。

ところが、自由な取引市場で新サービスを提供しても参加者が増えず低空飛行になる恐れがあるので、発注者を起点とし、このプラットフォームを活用するサプライチェーン上のトライアルユーザー(参加者)をプロジェクトベースで募り、参加者が短期的に成果を得られるような状態を作って進めることが、成功のポイントになると思います。また参加者を早期に増やすためにはプラットフォームがオープンかつ中立で、参加の障壁を下げる工夫も求められます。

※11 クリティカルマス:商品やサービスなどの普及率が急速に上昇する分岐点のこと

野原: 「BuildApp」の開発コンセプトは、裾野が広く縦に重層的な建設業界の中で、現場で働く方やそこに物を届ける人にBIMのメリットを共有してもらうこと。そのため、使いやすく単純なインタフェースには当初からこだわっています。また、クリティカルマスに速く到達する仕組みを作ることは非常に重要で、今はそれに向けて特定層のユーザーを対象だと考え事業を進めています。

それでは最後に、これからDXを推進する人、特に建設DXに携わる人に向けメッセージをいただけますか?

長谷部: 私はIT業界で大規模システム開発のマネジメントを数々経験してきましたが、建設業のプロジェクトはIT以上に複雑性や不確実性があるように感じています。そうした中、日々たゆまぬ努力をされて、安心安全な社会インフラを支えていただいている建設業の皆さんには、尊敬と感謝の念に堪えません。

また、ITプロジェクトの世界において、フロントローディングの考え方は重要な役割を果たしてきたと思います。後工程で品質の問題などをカバーするのは非常に苦しく、上流でいかに品質を作り込むか、フロントローディングで対応することにより救われてきました。建設DXに関わる皆さんにもBIMベースのフロントローディングにチャレンジし、業界全体の生産性・品質を向上させていただきたいと思います。

野原: 本日のお話で何度も出てきましたが、最終顧客をどのように巻き込んでいくかは大切なポイントだと感じました。建築であれば発注者であり、フロントローディングの果実を一番取りやすいポジションにいます。BuildAppとしても、きちんと価値を提供したいと思います。いただいたアドバイスを参考に、今後も建設業界のDXを進めていきます。

本日はありがとうございました。

  本連載は、『建設DXで未来を変える』(マイナビ出版)の内容を一部抜粋したものです。
書名:建設DXで未来を変える
著者:野原弘輔
書籍:1100円
電子版:1100円
四六版:248ページ
ISBN:978-4-8399-86261
発売日:2024年09月13日