プロバイダー大手のインターネットイニシアティブ(IIJ)が、創業30周年の記念施策として、同社がこれまで培ってきたサービス開発・運用の知見をベースに実践的な知識・スキルを習得できる学びの場を提供することになったそうだ。

IIJアカデミー」を来春に開講し、ネットワーク技術者とソフトウェア開発技術に精通したエンジニアを育成するという。受講者募集開始は2023年1月(2023年度第1期分)、対象は18歳以上の社会人や学生等で当初の募集人数は20~30名で、実習期間は12週間、受講料金は20万円(学生は半額)となっている。

  • IIJ代表取締役会長 Co-CEOの鈴木幸一氏

ネットワーク事業者の知見から生まれた課題を解決

そのカリキュラム例として、実習課題項目のサンプルも公開された。ひとつは「クラウドサービス(IaaSを作ってみる)」というもの、もうひとつは「ロードアベレージの意味と計算方法を調べて実装する」というもの。こうした課題を解決するために、創業以来30年かけてIIJが開発運用で培った知見をもとに育成を行うという。

受講者は経験豊富な現役社員の指導を受け、事業者ならではの環境にふれることができる。ただし、課題に対するIIJの考え方などがオープン化されるわけではない。検索して理解したつもりになってしまうことがもっとも危険と考えているそうだ。

  • 教育プログラム設定と実習カリキュラムのイメージ。実習期間は12週間で、IIJが開発運用で培った知見をもとに技術者を育成する

「IIJアカデミー」発表記者会見に出席した同社会長の鈴木幸一氏は、次のように語る。

「本当は今から10年前のタイミングでやろうとしていたのだが、難しかった。でも、今、ようやくできる。そもそも日本にはネットワークエンジニアの数が少ない。通信の考え方が抜本的に変わり、社会全体は、ちょっとしたことで通信が止まったらたいへんなことになるようになった。あらゆることがネットワークで成り立っている世の中だ。瞬断や運用ミスで大きな社会的影響が発生する。

コンピュータサイエンスあってのITなのだが、ちょっとしたトラブルが国中のあらゆることを止めてしまう可能性を秘めている。量子やAIが本格運用されるようになったとき、本当にそれをやっていけるエンジニアはいるのだろうかという疑問に突き当たる。

だからこそ、エンジニアの力を育むことで、社会的貢献につなげたいと考えている。技術者諸君は、この講座に参加することで、その素養、運用力を高められるはずだ」

やってみることが大事、というネイティブIIJの思想

そして続ける。「IIJは運用面では世界一を自負している。だからこそ社会的な使命もある。他社を含めてネットワークを理解してほしいと思う。

初期のUNIXエンジニアを含めて創業当時からのエンジニアが多いIIJだが、ちょっとしたことで深刻な事態になりかねない世の中において、ネットワークの先駆者として、技術者を育てることに貢献できたらいいなと思っている。IIJが30周年でようやく具体化した事業だ。

そもそもIIJを始めたころのエンジニアは大学のネットワークを自分で作ってきた。ところが今、学生はネットワークをさわれない。私などが、そのくらいいいじゃないかといったら怒られるありさま。だからこそ、そうしたことを含めて体験できる社会的な育成の場にしたい。思い込みが激しい分野だが、次の社会向けて大きな貢献をしていきたい」

つまり、知識としてはあるかもしれないが、それを実装した経験はあるかどうかが問われるのが現在のネットワーク社会だという。その点で、エンジニアによってはまったく経験が足りていないし、手が覚えていない可能性があるとも。

だからやってみるということは大事で、それがネイティブIIJの思想なのだそうだ。それは要所要所に出てくるし、実践するという行為で解決できる。

卒業生の活躍が、近い将来の日本を支える

鈴木氏はこうもういう。

「国家レベルの構想かもしれないが、国家レベルでいっしょにやろうとするとろくな事がない。いっしょにやってもいいけれど、新聞に載るようなことしかしない組織といっしょにやることが本当に役にたつとは思えない……」

やはり、誰かが無茶をしないと世の中はうまく回っていかないようだ。卒業生の活躍が近い将来の日本を支える。IIJがやってきたことをこの30年間見てきた立場からすれば、実に心強くうれしい計画だ。