KDDIが大規模災害時の事業継続計画(BCP)拠点である、大阪の運用拠点(大阪府大阪市)のDX(デジタルトランスフォーメーション)を強化し、複数サービスの効率的で統合的な運用と、運用自動化機能を活用したサービス監視を新たに導入する。
通信事業者のBCPは、ストレートに企業や個人のBCPに直結するだけに重要な施策だ。
大規模災害に備え東西の拠点でバックアップ
今回のDX強化によって、仮に災害などで設備故障が発生した際の復旧時間は、従来比最大40%短縮できるという。
また、厳選された要員が確固たるセキュリティを確保した上で、自宅などいつでもどこからでもリモート監視できる環境を整備、安定した通信サービスの提供を目指すとともに、新しい働き方を推進していくという。
KDDIは、大規模自然災害に備え2021年7月に、先行して東京・多摩に同機能を持つ運用拠点を開設したが、 これに大阪が加わり、大規模な災害が発生した場合などにおいても、互いが完全なバックアップとして機能し、安定した通信の提供を目指す。仮に、東西の拠点のどちらかが崩壊するようなことがあっても、通常通りのネットワーク運用を継続できる。
基地局の故障、最後は人力で重い機材が運ばれる
従来、ネットワーク運用業務は、そのすべてが匠の技に依存していた。今回は、それをDXにより、スマートオペレーション基盤として確立、さまざまな障害に自動的に対応できるようにした。
もちろん、それは匠の持つ経験やカンをアルゴリズムに落とし込んで自動化した結果だ。それによって従来の半数近くの人的リソースが、さらに高度な別の業務に移行できるという。
ただ、災害時の障害は、ネットワークセンターだけで取り除けるものばかりではない。モバイルネットワークは全国津々浦々の基地局機能に依存するからだ。
携帯電話基地局への影響は、主に、基地局への光ケーブルの遮断と、電力の遮断がある。電源については、基地局バッテリーが24時間稼働し、電源車やポータブル発電機といったバックアップ処置までの時間を稼ぐ。
光回線断については、自社、他社回線を問わず、全力で復旧を目指すが、基地局そのものが損壊している場合もある。その場合は、車載/可搬型の基地局を設置し、衛星回線を利用してエリアを普及する。
基地局へアクセスするための物理的なルートについても、その途絶に対応するため、オフロードバイクや水陸両用車、4輪バギーといった特殊車両を導入して万が一に備える。だが、最終的には徒歩で移動し、手搬入で復旧機材を運搬しての復旧となる。ここばかりは最終的に人力だ。原始的ではあるが、それしか方法はない。何十キロもの機材を担いでとにかく人が歩く……。
幅20メートルの大画面で情報収集、Twitterの検索結果も
今回の東西ネットワークセンター連携システムの完成にあたり、東京・多摩のネットワークセンターがプレス向けに公開された。
この地は地震災害が起きにくいところとしても知られている。広々としたオペレーションセンターでは、運用・監視に必要なさまざまな情報が、監視室前方に配置された縦約2m×横約20mの大画面モニタに表示され、重要な情報をリアルタイムに把握することができる。
興味深かったのは、モバイルネットワークの障害を予想させるさまざまなキーワードでのTwitter検索結果が頻繁に更新されて表示されていたことだ。
何らかの障害が起こればSNSが騒がしくなる。それが予兆でもある。同時進行的にアラートが発生されれば、このオペレーションルームは警報が鳴り響き修羅場と化するはずなのだが、実際には数回のクリックで復旧作業が完了する。これが今回のスマートオペレーション基盤だ。
公開されたのはダミー画面の表示だったので、その深刻度はそれなりにたいへんなものだったのだが、リアルライフの中では、ちょっとした障害でも、1日一回あれば多いほうだという。
素晴らしいバックアップ設備も、実際に稼働することがないならそれにこしたことはない。モバイルネットワークの料金については、いろいろな議論があるが、こうした目に見えない、そして、役にたつ機会がめったにない設備にも多大なコストがかかっている。そのことも頭の片隅においておいたほうがよさそうだ。