各自治体で新型コロナワクチン接種の予約が始まっている。まずは高齢者からだが、その電話予約のための通信についての影響が懸念されている。NTT東西や各携帯電話通信事業者は、一部で音声通話接続の制限措置を講じる場合があるなどの案内を出した(関連記事:NTT東西と国内4キャリア、新型コロナワクチン接種の電話予約で接続制限)。

新型コロナのワクチン予約で電話に制限

措置は各地方自治体のワクチン接種の電話予約開始日に行われる。たとえば、ドコモの場合、電話による予約受付が集中したとき、110番や119番などの重要通信を確保し、ネットワークの安定・継続運用の観点からドコモの携帯電話から予約番号への音声通話の接続を制限する措置を講じる場合があるとしている。

  • ドコモからの告知。音声通信の制限は災害時などの非常時にも各キャリアの判断で行われる

    ドコモからの告知。通信の制限は災害時などの非常時にも各キャリアの判断で行われる

また、楽天モバイルはさらに具体的だ。「特定電話番号に着信が集中した場合、固定電話全体のつながりやすさの維持のために、通信量の制御に関する協力を行っております。当該番号への着信が集中した場合、固定電話全体へのつながりやすさ維持のため、当該電話番号にかかる呼び出しの一部を制限する等の措置を行います」としている。この特定電話番号というのは、自治体ごとの予約に使われている電話番号なのだろう。

音声通話の増強は仮想マシンのようにはいかない

高齢者が最初の対象ということで、スマホやパソコンを使った予約に慣れ親しんでいないのも音声通話での予約がメインになる原因なのだろう。コンピューターとちがって、当たり前の話だが通話の場合は人間の相手が必要だ。予約のプロセスを音声認識するAIが的確に処理できるようになるまでには、まだちょっと時間がかかるだろう。特に今回は間違いは許されない。

だから、予約を受ける側が混雑を回避するために回線を増強したとしても、増強した分のマンパワーが必要になる。仮想マシンを暫定的にいくつか増やして最初の1週間だけ受付キャパシティを増強するというわけにはいかない。

規制中は「ただいま電話がたいへんこみあっています」というアナウンスが流れる場合もあれば、話し中が続く場合もある。いずれにしても、こうした状況に遭遇すれば、反射的にすぐにリダイアルするだろう。しばらくなんて待っていられないからだ。それがまた輻輳の原因になる。

ワクチン予約はチケットの入手と似ている?

この一連のシステムで連想するのがコンサートなどのイベント予約だ。いわゆるプラチナチケットの予約のために、予約開始初日に秒単位で時間のわかる時計を目の前に、電話機の前に待機した経験があるかたは決して少なくないはずだ。

人気アーティストのコンサートでは、100万人を超える動員がある場合もあるわけだが、その予約を一気に受け付ける。当然、予約のスタート時には電話もインターネットも通信が殺到し、インターネットサイトにさえうまくつながらかったり、システムが重くて操作ができなかったりで、予約を成立させるのに苦労する。コロナ禍に開催することの是非はともかく、五輪のチケット予約システムは、待ち行列を使って、通信の集中を回避し、さらには抽選でというシステムだったが、あれはあれでよくできていたように思う。

このワクチン接種予約という重要なイベントは、コンサートのプラチナチケットの入手と似ている。ならば、コンサート予約大手のチケットぴあやイープラスなどの事業者、あるいは、ジャニーズ事務所といった人気コンサートの主催者、そして五輪の予約システムなどが持つ優れた知見を活用し、そちらに委託するようなことはできないものなのだろうか。

また、先着順ではなく、抽選方式の可能性や、ハガキやメールでの応募などは視野に入っていなかったのかどうか。とにかく電話の先着順という方法では、トラブルが起こるのは容易に想像できる。もしかしたら、予約のために便利屋を雇うような場合もあるかもしれない。

従来型の「イベント予約システム」が役立ちそう

21世紀のこの時代に、電話回線の輻輳ですかと、ちょっとあきれてしまっている。とにもかくにもデジタル後進国になってしまった日本、そして、デジタルに慣れ親しんでいない市民が多くを占める高齢社会など、現実的な状況は決していいとはいえない。そんな中でも、前に進まなければならないし、そのためには、既存のインフラを最大限に活かすことも視野にいれてもいいのではないだろうか。

すべてを新規にすることだけがデジタルトランスフォーメーションではない。コンサートやイベントの予約システムは、ユーザーインターフェースを含めて、決して手放しで褒められるものではないが、土台にはなりそうに思う。