コロナ禍拡大の様相にもかかわらず、在宅/テレワーク勤務率が元の木阿弥に近くなってきているのを受け、政府がテレワーク率70%を目指すように経済界に要請するという。

ITの積極利用促進からハンコの撤廃まで、いろいろな方面での取り組みは、後手後手に回っているとはいえ、それなりに一歩ずつ前には進んでいるようだが、この要請には頭を抱えるかたが少なくないようだ。しかも、働く側も働かせる側も、双方がだ。

  • 緊急事態宣言が出た頃は(一時的にせよ)企業のリモートワーク導入が進み、PC用のスタンドマイクなどが売り切れになっていた

自分で仕事の環境を整える

在宅勤務ができるかどうかは、家族構成や家屋の規模、環境などにも依存するため、すべての従業員に在宅勤務を要請するというのはなかなか難しい。逆に、在宅勤務大歓迎という層もそれなりの割合でいるようだ。

在宅勤務をする場合、従業員は会社にいるときと同等、または、それ以上の効率で仕事をするために、ある程度の自己投資も求められる。コストを会社が負担してくれるかどうかも大きな問題だが、会社の分室が自宅に設置されるようなものだから、そこでの行動についても会社にいるときと同様の考え方に準拠したものにしなければならない。

また、あらゆるプロセスがどうしてもインターネットに依存することになるわけだが、その接続に際する回線、そしてセキュリティの確保なども問題になる。会社では、そうしたことをまとめてめんどうをみてくれる担当者がいたかもしれないが、自宅で働くということは、自分一人ですべてのめんどうをみなければならない。専任の担当者がいなかったとしても、誰かがそれを担ってくれていたのだ。

会社のほうが働きやすい業務も

聞こえてくる話によれば、このコロナ禍によって、5月末頃までに、ノートパソコンに接続する外部モニタやヘッドセットなどが品不足を起こすくらいに売れたそうだが、同様に、プリンターの売れ行きもずいぶん増え、自宅においての印刷需要も急激にあがってきているという。

自宅で仕事関係の文書を印刷するという行為は、考えれば考えるほど重要な問題をはらんでいる。個人的には、今の世の中で、わざわざ印刷しなければならない文書というのは、どのようなものなのかといぶかしくも思う。でも、これはおそらく自宅のパソコンの画面が小さくて、印刷して参照しなければ、大量の資料を参照しつつなんらかの文書を作成するといったことが難しいのもあるのだろう。

印刷した請求書などを封筒に入れ、切手を貼って、取引先に送るといったことが実際に行われているかどうかはわからないが、そのためには、社用封筒も自宅に在庫しておく必要がある。業務次第ではあるが、どの現場でも、いきなり自宅でと言われてもとにかくたいへんだ。この数カ月で、もうカンベンと音を上げたくなる気持ちも理解できる。

  • テレワークで自宅にプリンターを導入した家庭も多いのではないだろうか

仕事の資料を家でどう廃棄するか

一方、参照のためだけに文書を印刷するにしても、テレワーク中のVDI/DaaS端末パソコン(仮想デスクトップ)に接続されたプリンターでの印刷は許可しないというポリシーの会社も少なくない。

仮に印刷が許されていた場合でも、印刷済み文書については、破棄の際にそれをどうすればいいのかが明確に規定されていないかもしれない。傍らのごみ箱に捨ててしまえばいいのかというと、それもセキュリティ的には問題だ。かといって、自宅にシュレッダーを用意しているかというとそれも難しい。

外から見えないように封筒などに詰め、生ゴミなどといっしょに袋に入れて目立たないようにして可燃ゴミとして処理するのが関の山ではないだろうか。

働かせる側・働く側の意識改革が必要

テレワークを始めてみると、会社という「場所」は、いかに人とカネをかけて従業員の働き方を支えていたのかということを痛感するに違いない。それは何から何までめんどうを見てくれる大企業はもちろん、社員が数人しかいないような個人事務所だったとしても、同じ事業のために毎日通勤してくる同僚がチームで仕事をする場所は、いろいろな気遣いや約束ごとによって維持され、成り立っているのだ。

テレワークでは、それをいっさいがっさい、自分だけで管理していく必要がある。だからたいへんだし、在宅勤務などまっぴらごめんと音を上げる従業員が続出するというのも無理はない。

それでもテレワーク率は高めなければならない。投資も必要だし、何よりも、働かせる側、働く側双方の意識の改革が必要だ。そのために何をすればいいのかをとにかく考えよう。Go toトラベルキャンペーンで旅行を推奨する一方で、テレワークを推奨するなど、なんだか矛盾が多いように感じるかもしれないが、今できることはそれしかない。

(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)