各社のノートパソコン夏の新製品の発表が相次いでいる。コンシューマー向けで目立つのは14型超のスクリーンを持つ製品で、FCCL(富士通クライアントコンピューティング)のLIFEBOOK NHシリーズやデルのNew XPSシリーズなどで17型スクリーンの新製品が発表されている。

また企業向けでもデルのPrecisionシリーズに17型がラインアップされた。これまでのコモディティパソコンの15.6型がひとまわり大きくなるイメージだ。いずれもこのコロナ禍を狙って企画された製品かというと、決してそうではないのだが、タイミング的に在宅勤務の形態が強いられつつある現状のニーズに応えることができそうだ。

  • デルのNew XPS 17。15インチノートPCと同等サイズの本体に17インチディスプレイを搭載している

大画面ノートPCはテレワーク向き

やってみたことがある方は多いと思うが、ZoomやTeamsなどを使ったオンライン会議を13.3型程度の画面でこなすのは相当のスキルが必要だ。出席者の発言に応じて、その場で調べものをしなければならないし、必要なら過去に作った資料のファイルを探し出してそれを開き、該当箇所を相手に見せたりしなければならない。そんなことをやっている最中に、大事な顧客から問い合わせのメールが届き、それに対応しなければならないかもしれない。

当面、持ち歩いて使う機会はないことがわかっているなら、新しいPCを探すとき大きな画面のノートPCを選ぶことも考えたい。もし設置スペースが許すなら、小型PCと外部モニタの組み合わせの方が安上がりにもなる。

そもそもいつでもどこでも仕事ができるというのはモバイルノートPCの真骨頂ではあるが、まわりの目を気にしなくてもいい場所に腰を据えてノートを開いて仕事をするモバイルワークが現実的に可能かどうかも、これからの世の中では重要なテーマになっていくはずだ。いや、以前から重要なテーマだったのだが、そこを見て見ぬふりをしてこなかっただろうか。

  • ノートPCだけではテレワークしにくい。写真は13.3型ノートPCと24型ディスプレイの組み合わせ

オンライン会議、音量調整の難しさ

カフェの片隅でパソコンを開き、ヘッドセットをつけてオンライン会議をするかというと、それが現実的にできるかどうかは別問題としても、セキュリティ的なことを考えると厳しい。

さらに、ZoomやTeamsのアプリは自分自身が全画面を独占するのが当たり前のように設計されているので、13型程度の画面では、最大化していないウィンドウでの表示で使うにはせせこましい。何より、全画面で表示しないと相手の顔さえ判別ができなかったりもする。

しかもこれらのオンライン会議アプリの両横綱には自アプリ個々の再生音量を調節する機能がない。音量を調節すると、システム全体の音量が変わってしまう。これは自アプリのことしか考えていないことの表れだ。さらには、1台のPCでは複数の会議に同時に出席するカケモチができないといった難点もある。たまたまZoomとTeamsに分かれていれば2つの会議がカケモチできて効率もいいのだが、その個々の音量を調節するには、Windowsのサウンドミキサー機能を使うなどのやや煩雑な手順が必要で、誰にでもできるようなものではない。

  • FCCLのLIFEBOOK NHシリーズは17型大画面が売りのノートPC。家族が集まって使うような用途を目的とした大画面だが、編集部員宅では「画面が見やすい」と高齢の親が専用で使っているという

こうしたことを考えると、今、デジタルトランスフォーメーションが進む中で、それを駆動するために本当に必要なのは、モバイルパソコンではなかったのかもしれないということがわかる。個人的にはモバイルノートパソコンは、あくまでも2台目以降のパソコンであって、メインで使う1台目のパソコンではないと思っていた。なくてはならない存在だが、それだけではすまない。百歩譲って唯一無二のパソコンとして使うにしても、腰を据えて仕事に取り組む際には外部モニタを接続することをすすめてきた。

だが、世の中の企業は、モバイルノートパソコンを唯一無二の相棒として従業員に与え続けている。トレンドはモバイルノートパソコンということで見かけはおしゃれになるかもしれないが、結果的に窮屈な画面での仕事を強いることになる。そのモバイルノートを自宅に据え置き、在宅勤務を経験することで、それだけでは仕事の効率があがらないことがあぶり出されたということでもある。

「一人一台」では不十分な時代に

Windows 7のEOS(サポート終了)での特需が終わって下降が予測されていた今年のパソコン市場を、コロナ禍が救うという皮肉な現象が起こっている。

それに拍車をかけようというわけではないが、これから働き方が大きく変わっていく中で、一人一台のパソコンというのは不十分だという事実が突きつけられている。世の中のシステム管理者は従業員に複数台のパソコンを使わせることを今のうちに考えた方がいい。もちろん管理はたいへんかもしれない。コスト的にも負担は大きいだろう。だが、パソコンの需要が今の二倍になったからといって、コストは二倍にはならない。その方がパソコンを供給する側も、利用する側も活路を見出せるのではないだろうか。

(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)