コロナ感染拡大防止のために、印鑑手続きの廃止に取り組む企業が増えてきた。もちろんIT関連企業がその先頭を切る。

たとえばGMOインターネットグループでは、1月末から在宅勤務態勢に移行していたが、在宅勤務期間中におけるグループ内でのアンケートにより、捺印手続きのために出社しなければならない事態が多いことが発覚、4月にグループ内での印鑑手続きの完全廃止を決定した。

GMOはまた、先週には、印鑑廃止の取り組む各社のために、公的機関などからの情報をまとめたリンク集を公開している。このリンク集には、同グループが廃止を決めてから完全廃止に至る44時間44分の記録も公開されている。

一方、ヤフーは民間取引先との契約手続きの100%電子サイン化に着手したと公表した。2021年3月末までの実現を目指すという。

同社は日本のデジタル化が諸外国と比べて進んでいないとし、国際経営開発研究所(IMD WORLDCOMPETITIVENESS CENTER)の調査結果を引用、2019年に発表した「世界デジタル競争力ランキング」で23位にとどまっていることを憂う。また、「日本IT団体連盟」が提言する「withコロナ時代を見据えたデジタル化・オンライン化推進のための政策提言」に賛同し、自社におけるデジタルトランスフォーメーションに加え、啓発活動をおこなっていくと表明した。

ハンコは足かせ、IT企業で進む電子サイン

企業間取引のための社印撤廃などには周到な準備と検討が必要かもしれないが、少なくとも、誰でも容易に入手できるような三文判の捺印が、会社組織内部の手続きの中でどうしても必要というのは、組織内の意志決定でどうにでもなる。もちろん、そのために決済の仕組みを考える必要はあるが、ソリューションはいくらでもある。

コロナ感染拡大防止のために在宅勤務が求められるようになった最初の頃、テレビのインタビューで、顧客からのメールを読むために会社への出勤が必要と応えるビジネスマンのコメントを聞いてびっくりしたことがあるが、この時代にも、三文判の捺印のために出社を余儀なくされている従業員、管理職はたくさんいるのだろう。すべての会社がGMOやヤフーのように即座に動けるわけではないとは思うが、できることから取り組むというのは大事なことだ。

こうした状況とは別に、コロナによる自粛は、日々の暮らしの「無駄」が、いかに自らの暮らしに刺激を与えて、生産性を高める方向に貢献していたかを痛感させる。それは特定の場所に人が集まることや、そのための移動、ミーティング前後の四方山話などなどだ。

移動時間が皆無になって、電車にも乗らなくなり、オンラインで開催されるミーティングをPC画面に向かったまま一歩も動かずに着々とこなすことで、確かに無駄はなくなったが、それによって失われたものも少なくないということだ。

地域の問題を地域で解決、ICT技術も活用

世の中から無駄を無くすことは大事だが、無駄をうまく利用することも必要だ。そして、無駄には役に立つ無駄と役に立たない無駄がある。ハンコの存在は役に立たない無駄と考えていいが、通勤はどうなのか。出張はどうなのか。

そんな中で、會津(あいづ)価値創造フォーラムとKDDIが、5G、IoT、AIなどのICT技術を活用する地域人財の育成と地域企業との事業共創に向けた包括的連携協定 (以下 本協定) を締結した。

  • 會津価値創造フォーラムとKDDIによる締結式もオンラインで開催された

会津地域では、製造業における雇用の縮小や若年層の地域外への人口流出から、生産年齢人口の減少が課題となっているそうだが、同フォーラムでは、これらの課題に対して自治体ごとに対策するのではなく、会津地域の17市町村がICTを活用し広域で連携することで、官民一体となって課題解決に取り組んでいるという。

KDDIはこの協定を通じ、5Gなどを活用した遠隔教育のプラットフォームの整備、KDDIグループの持つ“人財育成”のコンテンツの提供、地域企業やスタートアップ企業との事業共創などを行い、会津地域の課題解決を支援することで、地域主体の地方創生を推進していくという。

「一極集中」のないアフターコロナ時代を考える

松野茂樹氏(KDDI理事 経営戦略本部 副本部長)は、そのオンライン締結式のプレゼンテーションでKDDIの地方創生の方法論を説明、地元の企業やベンチャーを育てることで地域の問題を解決していくという。

地方がなんらかの事象を実装するために東京の大企業に依頼すると、補助金を頼ることができず、地元経済での負担が必要になる。そのコストが高すぎて実現不可能だったり、仮に費用がまかなえても、地域外にカネが流れてしまう。それを抑止するには現地でICTを支える企業、人材を育成、支援すればいい。KDDIはその方法をとる。地方に乗り込んでお膳立てから実現までを全部引き受けるのではなく、育成、支援する側にまわるということだ。

こうした状況をひとつひとつ冷静に見ていくと、近い将来、つまり、アフターコロナの時代は、東京がもっとも恵まれない地方都市になってしまっている未来も垣間見える。

今回のコロナショックによって、落ち着いたら地方に戻ることを検討するかたも増えているという。東京に一極集中するというのは、大企業のオフィスに全員が出勤して仕事をしているのに似ている。これからはそうではない世の中も想定しなければならないはずだし、地方創生はそのためのステップのひとつだといえそうだ。

(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)