広島県教育委員会に続き、東京都教育委員会が動いた。日本マイクロソフトも「東京都教育委員会と、都立学校における学習支援サービスの活用に向けた協定を締結」とアナウンスしている。コロナの影響下、都立学校でオンラインによる教育を実施できるように、ハード、ソフト両面の環境整備を進める取り組みの一環だ。

同教育委員会とマイクロソフトは協定を締結し、2020年11月からICT利用の学習支援サービスを全都立高校に導入する予定だったが、それを前倒し、準備が整い次第、5月中旬を目処に事業を開始するということだ。児童、生徒への課題の配信、回収、そして学級会活動やホーム・ルーム活動の実施、双方向による個別・集団による学習指導の実施などにOffice 365を利用するという。TeamsやOneNote、OneDriveが使われ、そして11月にMicrosoft 365 Educationに切り替える。

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    日本マイクロソフトによる、都立学校で活用するMicrosoft Teamsのイメージ

企業がアカウントを用意、教育委員会が割り振り

前回(第226回)書いたように、各学校はすでに独自のドメインを所有している。東京も例外ではない。その多くはmetro.tokyo.jpドメインだ。

まず、今回の取り組みのために東京都内の生徒用16万アカウント、教員用2万アカウントが必要だ。

そのアカウントの所属するドメインとして、東京都教育委員会は別ドメインを取得して用意した。日本マイクロソフトに取材したところ、同社側でそのドメイン用に合計18万アカウントを用意し、それを東京都教育委員会がそれぞれの学校に割り振って利用できるようにするという。そのため、日本マイクロソフト側ではどのアカウントがどの学校の誰に割り当てられているかを把握することはない。個人情報を扱わず、アカウントの発行だけを引き受けたとのことだ。

こうして少しずつではあるが教育の現場は動いている。解決しなければならない課題は山積みだし、法整備も必要だろうが、とにかく行動を起こさないことにはどうしようもない。こうした動きの中で、日本全国の自治体の小中学校も動いてくれればいいのだが。

電話だけでも参加できるZoom会議

大人の世界ではZoom飲み会などがトレンドだ。特に用事がなくても、Zoomの会議機能を使って顔をつきあわせることでコロナ鬱などの予防に貢献しているともきく。

実は、Zoomの会議はPCやスマホがなくても、普通の電話があれば参加することができる。もちろん音声だけだが、それなりのコミュニケーションは可能だ。リモート学習が、いろいろな事情で始められないまでも、児童、生徒向けのホームルームをZoomで開くくらいなら今日からでもできるのではないだろうか。

パソコンやタブレット、スマホを持ち、自宅にインターネットが完備されている家庭がすべてではないが、電話ならどうなのだろうか。Zoomの会議を開始すると、ミーティングIDが決まるが、特定の電話番号にダイヤルし、そこでこのミーティングIDを入れると音声で会議に参加できる。この機能を併用すれば参加できる児童、生徒の数が多くなる。

そんな中、国立情報学研究所が「データダイエットへの協力のお願い:遠隔授業を主催される先生方へ」と呼びかけた。情報通信回線は全国民が共有する有限の資源であり、通信量が回線の限界を超えるとすべての利用者が大きな影響を受けるので、オンライン授業は通信量ができるだけ小さくなるようにデータダイエットに協力しようというものだ。

それによって空いた通信回線の容量は小学校低学年などのFace-to-Faceが必要となる教育や障がい者への合理的配慮など必須の分野へ使ってもらいましょうと呼びかけている。「先生が話す映像を送信する必要はありません」というのは失礼ながら笑ってしまった。不要不急のカメラはオフにして通信量を削減しようということだ。

単純計算ではデータひっ迫の可能性も

国立情報学研究所では、国内の生徒・学生の数を約1,600万人としている。それにしても、我が国のインターネットは1,600万人がオンライン授業を受けたくらいでパンクするほどひ弱いのだろうか。

プロバイダー大手のIIJは「その後の新型コロナウイルスのフレッツトラフィックへの影響 | IIJ Engineers Blog」を解説している。コロナの影響で平日昼間のトラフィックは増えたが、それでもピークはあいかわらず夜の時間帯だし、設備そのものにも余裕はありそうだ。IIJでも仮にピークの時間帯が平日夜から平日午後に変わるかもしれないという予想はしているものの、パンク寸前ということではないようだ。

改めてIIJに問い合わせたところ、オンライン授業のトラフィックを1Mbps/人と仮定し、100万人が同時に授業を受けると1Tbpsのトラフィックが発生するため、単純計算では1,600万人で16Tbpsとなる。それに対して現在の日本国内の回線バックボーンの余力は数Tbpsであるとし、そこに16Tbpsが上乗せされるとたいへんなことになる、とはいう。また、日本国内のブロードバンドサービスの現時点での総トラフィックを12.8Tbpsと試算し、遠隔授業を遠慮無く行った場合に想定される数Tbpsの上積みはかなり大きなインパクトにはなるようだ。

また、各校はMicrosoftやGoogleのサービスを利用するが、これらのサービス基盤は日本国内に閉じているとは限らず、各ISPの海外回線についても考慮する必要があり、そのひっ迫も考えなければならない。

回線に余裕を持たせる必要はある

そういう意味ではある程度のデータダイエットは必要だともIIJはいう。だが、それはインターネットバックボーンの問題以前に、アクセス網として、NTT東西 NGNの網終端装置の問題、マンション建物内配線の問題、モバイル回線しか持っていない(ギガが足りない)問題などで、アクセス網側で律速(りっそく。ボトルネック)がかかってしまい、それだけのトラフィックを発生させようにも発生できない可能性も高いと考えられるという。

アクセス網のひっ迫を考えると、公平な遠隔授業を成立させるためには、多少品質の低い回線でも大丈夫にしておくことが求められ、そのための方便としてデータダイエットの考えが必要になるだろうという。

それに、遠隔授業が始まるとそのぶん自宅での動画視聴ができなくなり、ある程度は動画トラフィックが減ることも想定されるかもしれず、結果として単純にトラフィックが積み増されるようなことにはならないとも考えられるため、最悪値を想定するのもやり過ぎかもしれないというのがIIJの現状での見解だ。

加えて同社は、スマホの普及で有線インターネットが軽視される傾向があったが、遠隔授業(リモートワーク含め)には有線のインターネットを利用することは必須ではないかとし、その前提に立って、高品質な有線インターネットのために適切なコストをどうやって社会が負担するか、改めて議論が必要ではないかとコメントした(IIJ広報部)。

教育の現場がクラウドサービスを利用すると、それぞれの現場でサーバーの能力を考える必要もなくなる。となると、有限の資源としての通信回線は、インターネットバックボーンというよりも、スマホなどの移動体通信が使う電波だということになる。少なくとも4G/LTEで今後のトラフィックを受け止めるのは無理。5G通信のサービスインがもう1年早かったらと、ちょっとくやしい。

(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)