NTTドコモが2019年9月からの5Gプレサービス開始に向けて、5Gを活用したソリューション協創の拡大、具体的なビジネス化を加速することを決起する「DOCOMO 5G Open Partner Program 5G BUSINESS CAMP」を開催した。

  • NTTドコモ代表取締役社長の吉澤和弘氏は、5Gの進化を「ムーアの法則以上」とアピール

    NTTドコモ代表取締役社長の吉澤和弘氏

冒頭の基調講演では、NTTドコモ代表取締役社長の吉澤和弘氏が、より豊かな未来を築くために、パートナーとしてどんどん参加してほしいと有志を募った。

5Gの意義は暗中模索

ちょうど30年になるモバイルの進化の先にあるものとは何なのか。

「最初は2,400bpsだった通信速度は今、1,288Mbpsになった。26年間で54万倍の高速化。これはムーアの法則以上の進化だ。その象徴としての5Gで豊かな未来を創るにはパートナーとの価値・協創が不可欠。そして新たな価値を創出し、社会的課題を解決するための太い柱が5G」(吉澤社長)。

別フロアには各社の展示ブースを集めたショーケースもあった。ただ、どの展示も、5Gでなければならないという必然性がない。有線ネットワークやWi-Fiで実現が可能で、5Gのサービスが始まらなくても、今夜からでもできることばかりだ。いくつかのベンダーにも聞いてみたが、サービス提供側も、この新しい通信インフラとしての5G活用法に悩んでいるようだ。

ちなみにドコモでは5Gを通信領域ではなく、ライフスタイル領域でのビジネス基盤だと考えている。通信インフラとしての5Gが、それだけではビジネスとして成立しないことをわかっているのだ。だからこそ、多方面に声をかけてパートナーを募り、5Gインフラが、いったいどんなことに使えるかを積極的に模索していこうとしているわけだ。そのくらい5Gの意義は暗中模索状態だ。

遅延が許されない遠隔医療で

5Gの特徴は、高速大容量通信に加えて、低遅延、超大量接続があげられる。だが、それらは有線のネットワークではすでに実現済みのことで、そこで提供できるサービスがモバイルネットワークでもできるようになるにすぎない。

ただ、さまざまなサービスがワイヤから解き放たれることの意義は大きい。日本全国いたるところに光ファイバが届いているFTTH(ファイバーto the Home)が目指された時代もあった。2000年頃の話だが、そのインフラの実現は今、モバイルネットワークが担っているといってもいい。いわゆるラストワンマイルを光ファイバではなく、モバイルネットワークで実現しようとしているわけだ。そして、固定電話が携帯電話にとってかわられていったように、固定インターネットはパーソナルインターネットに変わりつつもある。

  • 展示会場では多数のベンダーが出展していたが、5Gならではのインフラ活用を明確に提示できているソリューションは見当たらなかった

たぶん、スマートフォンでの日常的な利用については、その接続が5GであろうがLTEであろうが、あまり違いを感じることはないかもしれない。4K動画コンテンツを6型前後のスクリーンで楽しむためには数十Mbpsあれば十分だからだ。

ところがこれがインフラのない地域における遠隔治療だったらどうだろう。離れたところにいる医師が、患者の様子や患部をじっくりと診ながら、問診し、症状を判断して適切な処置を施す。そして、リモートでロボットを使って内視鏡手術をするといった用途だ。患者はその場から動かせない。施設のある大病院には行けないのだ。

映画を見るなら圧縮動画でもいいが、内視鏡映像はそういうわけにはいかない。理想的には非圧縮での映像で確認したいはずだ。さらに遅延も許されない。こうした現場で5Gネットワークが利用できれば助かる命は増えるにちがいない。

  • 高性能接写カメラで撮影した患部の映像を遠隔地に送信

  • 受信側では高精細な映像で患部を確認できる

5Gネットワークはオンデマンドから?

エンタテイメントではどうか。たとえば10万人を収容するスタジアムの観客全員の端末をWi-Fiにつなごうとしたら、おそらく破綻する。だからといって、観客全員のスマートフォンを5Gネットワークにつなぐことができるかというと、それだけの収容ができる基地局をスタジアム周辺に常時整備するというのも無理がある。

だが、イベントの開催されるときだけ、スタジアムローカルの5Gネットワークが稼働し、そこにつなぐような形態なら現実的だ。技術としての5Gネットワークを使い、たとえば、アンライセンス周波数帯を使った接続環境を提供するわけだ。観客はそのインフラを使って目の前で進行中のプレイをプレイバックしたり、ミラクルプレイを別角度から見たりすることを楽しめる。

同様に、大量のデバイスが接続される工場などの現場におけるIoTでも、5GのローカルエリアネットワークがWi-Fiではハードルの高かった問題を解決するだろう。

つまり、5Gネットワークはまず、オンデマンドの出前サービスから浸透していくのかもしれない。こんなことに使えるというビジネスモデルを先に成立させ、そのために5Gネットワークのニーズが高まることで、次第に浸透していくことになりそうだ。

2020年の東京オリンピックは、そのためのショーケースとして世界各国から注目を集めそうだ。こんな5Gならいらないと言われないようにするためには、周到な準備が必要だ。

(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)