アドビが、デジタルガバメントサービスのユーザー体験に関するグローバル調査結果を説明するミーティングを開催した。英国に拠点を置く広告代理店、WPPグループとの協業によるグローバル調査によるもので、デジタルガバメントサービスを使う国民の視点からの評価を、政府とともに共有することで、国民と政府の両方がベネフィットを享受できることを目指しているという。

  • アドビが開催したミーティング

調査の結果は特に新しみはなかった。「国民は政府が運営しているデジタルサービスにも、民間と同等レベルのデジタル体験を期待している」「現状の行政サービスモデルでは国民の求めるデジタル体験のニーズに応えることはできない」というごく当たり前の結果である。

その結果を、各関係者、識者はどのように受け止めたか。説明会には東京大学大学院情報学環・学術情報学府教授・博士の須藤修氏、三菱総合研究所ICTイノベーション本部ICT・メディア戦略グループ主席研究員の村上文洋氏、内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室内閣参事官の奥田直彦氏らが出席し、調査の結果についてのディスカッションを披露した。

行政サービスの理想は国民中心の「12か条」

内閣参事官の奥田氏は政府の取り組みを「利用者中心の行政サービス改革」を「サービス設計12か条」の切り口で紹介した。デジタル技術を徹底的に活用するというこの施策、政府が用意するものに軸足をおくのが普通だった過去をたちきり、国民を中心にしたデジタルガバメントに移行するべき時期にあると奥田氏はいう。

  • 内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室内閣参事官の奥田直彦氏

「デジタルガバメントへの取り組みは、横断的施策による行政サービス推進のために行政サービスの100%デジタル化、行政保有データの100%オープンデータ化、デジタル改革の基盤整備など多岐にわたる。サービス設計12箇条も。国民目線に立ってといっている時点ではダメ。サービスを受ける立場で考えなければならない」(内閣参事官 奥田直彦氏)。

【サービス設計12箇条】

  • 第1条 利用者のニーズから出発する

  • 第2条 事実を詳細に把握する

  • 第3条 エンドツーエンドで考える

  • 第4条 全ての関係者に気を配る

  • 第5条 サービスはシンプルにする

  • 第6条 デジタル技術を活用し、サービスの価値を高める

  • 第7条 利用者の日常体験に溶け込む

  • 第8条 自分で作りすぎない

  • 第9条 オープンにサービスを作る

  • 第10条 何度も繰り返す

  • 第11条 一遍にやらず、一貫してやる

  • 第12条 システムではなくサービスを作る

また、三菱総研の村上氏は「高齢化社会がやってくるなかで、AIでもIoTでも何でも使って生産性を上げる必要がある。一日でも早く機械でできることは機械に任せる状態にもっていかないと日本はやっていけない。今の発想は今あるものをデジタル化しようとしている。発想をもう一段階あげて、何が求められているのかを考えるべき」だという。

紙の文書が多すぎるがゆえに改ざんは起こる?

こうした動きの中、国民が政府の電子行政をまるで信用していないという懸念もある。

直近では、IT周辺の業界からみるとありえないこととして、本来なら3秒もあれば判明するはずの文書の改ざん履歴や、日報が見つからないといったことが起こるのはなぜかを奥田参事官にきいたところ「現状ではまだまだ紙で管理されている部分が多すぎるがゆえに起こってしまっている。今後、文書管理も高度な電子化をすることで、内部の管理もしっかりデジタル化できるようになる。公務員の仕事の進め方を含む業務の改革も進め、二度とこうしたことが起こらない世の中にしたい」というコメントをもらった。

今、旬でもあるこの話題について言及する中で、奥田参事官は「2年くらいでそこまでもっていきたいといいたいところ。ただ、自分の公務員人生はあと13年あるが、そのうちにできるかどうか。いや、生きているうちにできるかどうかというくらいに難しいテーマだががんばりたい。いったん江戸時代に戻ってゼロからスタートできたらどんなにラクかと考えることもある」という。

国の文書管理、ゼロからのデジタル化は至難の業

国の文書管理については東大の須藤氏からもコメントがあった。

「キーとなるのはブロックチェーン。通貨のみならず、文書の改ざんなどにも応用するべき。個別に稼働するネットワークはバラバラかもしれないが、関係するネットワークで改ざんなどがすぐにわかるような仕組みが求められし、技術的にも実現可能。中央集権的な情報を改ざん防止するのは難しいかもしれないが、ブロックチェーンですぐにわかるようにすればいい」と須藤氏。さらに、会計検査院がこの6月に高度な監査制度をスタートするにあたり、須藤氏がその座長に就任することを明らかにした。須藤氏は、モラルも重要だが、ITで監査を厳格なものにすることを考えるべきだとした。

とにかくバラバラなかたちで中途半端にデジタル化が進んできている中で、それらをゼロリセットして理想の方向に進ませるのは至難の業だ。奥田氏らは、電子申告などのシステムでは、国がすべてを担うのではなく、情報を出し入れするAPI的なものを用意し、国民との接点は民間に委ねるようなことも視野にいれながら、理想的なデジタルガバメントの実現に向けて努力したいとした。

政府官邸のサイトを見ると、いろんな議論が行われていることがわかる。ずいぶん未来の話ばかりだが、奥田氏ではないが、さて、本当に生きているうちに世の中は変わるのか……。

(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)