1. 倫理的な原則

コンピューティングのプロフェッショナルは、以下の規定を順守する必要がある。

【1.1】 すべての人々がコンピューティングのステークホルダーであることを認め、社会と人間の良好な状態(well-being)に貢献する

この原則に従い、コンピューティングのプロフェッショナルは、その持てる技術を社会とすべての人々とそれを取り囲む環境に役立つように使わなければならない。また、コンピューティングのプロフェッショナルは、コンピューティングの結果から生じる健康や安全性、個人のセキュリティやプライバシーへの脅威を最小化することを目指す必要がある。

そして、複数のグループの利害が対立する場合は、不利な立場に置かれているグループの利害により多くの注意を払い、優先度を高めることが必要である。

【1.2】 害を与えることを避ける

この文書における「害(harm)」は負の結果を意味し、特にその結果が重大で不公正であるものを指す。「害」の例としては、正当化できない物理的、あるいは精神的な負傷を負わせること、正当化できない情報の破壊や漏洩、また、正当化できない財産や名声、環境などにダメージを与えることなどがある。しかし、これらは「害」の一部を例示したものであり、すべての「害」を列挙するものではない。

善良な意図に基づく行動で、意図した目的を達成した場合でも、結果として害を生じることがある。そのような意図しない害の場合でも、責任者はその変更を元に戻す、あるいは害の影響を最小化する責任を負う。害が意図されていたものである場合は、その害は倫理的に正当化されるものでなければならない。また、すべての害の損害を最小化する責任を負う。

コンピューティングのプロフェッショナルは、害を与えるかも知れないシステムのリスクの兆候を報告する義務を負う。しかし、誤った報告は、それ自体が害になり得るので、注意が必要である。

【1.3】 正直に、信頼されるように行動する

コンピューティングのプロフェッショナルは、システムの性能や制約、潜在的な問題などを適切な機関・組織に報告しなければならない。意図的に虚偽や誤った主張をしたり、虚偽のデータを作ったり、賄賂を与えたり、受け取ったり、その他の不正直な行いをすることはこの規定に反する。

【1.4】 公平で差別を行わないように行動する

平等性、寛容性、他者の尊重と正義は、この条項を貫く基本的な価値である。コンピューティングのプロフェッショナルは、すべての人々の公平な参加を推進しなければならない。年齢、肌の色、障害、民族、家庭の状況、性自認、労働組合への加入、兵役の状況、国籍、人種、宗教や信条、性別、性的指向、その他の不適当な要素で差別することは、明確な規定違反である。

セクハラを含むハラスメントやいじめ、権力の乱用は、差別の一形態であり、仮想または実空間のアクセスを制限することになる。

情報やテクノロジーの使用が新しい差別を生んだり、現存する差別を強めたりすることがある。コンピューティングのプロフェッショナルは、システムが一部の人々の利用を排除することが無いようにしなければならない。包含性やアクセス性を確保していない設計は、不当な差別と判断されることがあり得る。

【1.5】 新しいアイデア、発明、創作、社会に役立つ価値を作り出す仕事を尊重する

コンピューティングのプロフェッショナルは、アイデアや発明などを作った人を認め、著作権、発明、トレードシークレット、ライセンス契約などを尊重しなければならない。

【1.6】 プライバシーを尊重する

コンピューティングのプロフェッショナルは、個人情報を正当な目的だけに使用し、個人やグループの権利を侵害してはならない。これには、無名化したデータの個人認識を行ったり、許可されていないデータの集積を作ったりすることを防いだり、データの出所を理解し許可されていないアクセスやデータ流出事故を防いだりすることが必要になる。

また、システムとして最小限必要となる以上のデータを集めてはならない。

【1.7】 秘密事項を守る

コンピューティングのプロフェッショナルは、信用され、秘密情報にアクセスできるようになっている場合が多い。コンピューティングのプロフェッショナルは、法律の違反、組織の規則やこの規定の違反の証拠として示す場合を除いて、秘密を守らなければならない。違反の証拠として示す場合も、情報の開示先は適当な監督機関に限定される。コンピューティングのプロフェッショナルは、情報の開示がこの規定に照らして妥当であるかどうかをよく考える必要がある。

(次回は8月23日の掲載予定です)