日本マイクロソフトは2018年8月6日、2018年7月1日から始まった同社の2019年度に関して、経営方針記者会見を開催した。ここでは、エンドユーザーにとって興味深い部分をピックアップして紹介しよう。

  • 日本マイクロソフト 代表取締役社長 平野拓也氏

    日本マイクロソフト 代表取締役社長 平野拓也氏

まず目を引いたのは、1964年の第18回夏季オリンピック(いわゆる昭和の東京オリンピック)開催当時と現在の銀座を写した画像を並べて語った、日本マイクロソフト 代表取締役社長 平野拓也氏のプレゼン。

「当時はラーメン一杯60円だが、電卓は1台53万円と高額だった。現在の銀座は電柱電線もなく(編注:地下に埋め込まれている)、人々が多く行き交う。そこではスマートフォンやスタートビル、コネクテッドカーなど、すべてがセンサーでつながっている。世界はコンピューター化されたと述べても過言ではない」(平野氏)。

  • 日本マイクロソフト、FY19経営方針から

    左が東京オリンピック開催時の銀座。右が現在の銀座だが、こうして見比べると「世界のコンピューター化」というキーワードも納得できる

データが行き交う世界は実現されているが、日本マイクロソフトは2020年までにスマートデバイスが200億台まで増加し、利用データは1.5GB/日に増えると予測する。他の分野でも、スマートスピーカーに代表されるスマートホームデバイスも利用拡大に伴い、データ量は50GB/日に増加。自動運転車も5TB/日、スタジアムは200TB/試合あたりと予見し、「有機的に連携させた大容量のデータに価値を持たせる」(平野氏)と、事業戦略の概要を説明した。

Microsoftの注力分野が、MR(仮想現実)、AI(人工知能)、量子コンピューティングであることは以前から発表済みだが、「画像認識や音声認識、文章読解、機械翻訳は人間と同等、もしくは人間以上に達している」(平野氏)。

こうしたAIを活用した事例はMicrosoftに限らず、多くのIT企業が積極的に公開している。その中で日本マイクロソフトは、Carlsberg(カールスバーグ)が取り組む麦や酵母の香り、味を、ビールを製造する前にAIで予測する事例や、ドローンによるテレメトリーデータ分析で収集量を最適化する農業系事例を披露した。

  • 日本マイクロソフト、FY19経営方針から

    Microsoftの注力分野。特にAIに関しては人を凌駕する領域も出始めている

また、経年劣化や紛争によってダメージを受けた遺跡の写真と、1,000時間以上の映像とを組み合わせて数日で3D化する技術や、エイベックス・グループ・ホールディングスと共にMicrosoft Cognitive Servicesを活用した来場者分析システムの開発を紹介。

AI技術の進化に対しては、「責任が伴う。5~10年前とは異なるコミットメントが必要」(平野氏)と述べ、AIの倫理性における活動として「プライバシー」「サイバーセキュリティ」「AIの倫理観」の3方向から注力することを強調した。

本年度からはMicrosoft各国で、中長期的なAIの活用プランを作成して事業を進める「AI on Country Plan」を実施する。現時点で日本マイクロソフトの施策は未定だが、「ビジネスプランのボトムアップではなく、概念から落とし込んでいくアプローチ」(平野氏)と説明した。

2019年度の注力分野として日本マイクロソフトは、「インダストリーイノベーション」「ワークスタイルイノベーション」「ライフスタイルイノベーション」と3分野を掲げ、各所の変革を推進する。ここでは、最後のライフスタイルイノベーションに注目してみよう。

ライフスタイルイノベーションをざっくりいうと、「魅力的なデバイスの提供と、2000年代に成人もしくは社会人となるミレニアル世代、学生への対応」となる。日本マイクロソフトは、「Surfaceのファンが増えてきた。コワーキングスペースでも(Surfaceシリーズを)見かける機会が多くなった。過去のSurfaceシリーズと比較しても、Surface Goの先行予約数は1位2位を争う。8月3日から大手家電量販店で先行展示を開始した。日本のワークスタイルや学生向けのデバイスなので使ってほしい」(平野氏)とアピールした。

  • 日本マイクロソフト、FY19経営方針から

    2019年度注力分野の1つ「ライフスタイルイノベーション」。日本マイクロソフトはSurfaceシリーズの提供や、ミレニアル世代の学生に対する関与を明言した

このように、クラウドやOS、アプリケーション、デバイスと多岐にわたるMicrosoftの製品とソリューションだが、日本マイクロソフトいわく、“すでにソフトウェアの企業ではない”と強調する。

「昨年(2017年)は日経225採用銘柄に名を連ねる企業の8割が弊社のクラウドを利用していると述べたが、現在は92%まで拡大した。2020年までの目標として、日本No.1のクラウドベンダーを目指す」(平野氏)。

今回、日本マイクロソフトが明かしたグローバルの年間売上高は、前年度比14%増の1,104億ドル。そのうちコマーシャルクラウド売上高は230億ドル(前年度比56%増)だが、その好調な業績の背景には「ビジネスモデルの変革。WindowsやOfficeがプリインストールからクラウドソリューションがメインストリームとなった」(平野氏)からである。

今後も、Microsoftおよび日本マイクロソフトが、SurfaceシリーズやWindows 10に一定のリソースを割くことに変わりないとはいえ、長年同社を取材してきた筆者としては閑寂さを覚える。だが、これも世の流れ。クラウドシフトが加速する中で、エンドユーザーにどんな便利さを提供してくれるのか、また別の楽しみが生まれた。

阿久津良和(Cactus)