今回のテーマは「LINEスタンプの制作」についてである。

まず、私はLINEを使っていない。LINEはFacebook以上のリア充ツールという印象だからだ。Twitterがたとえフォロワー0でも延々ひとりごとを言い続けられるのとは対照的に、LINEはなんと相手がいないと使えないのである。これがリア充以外の何だというのであろうか。

しかし昨今の若者にとって、LINEは主要連絡ツールになっているようで、高校などに入学する前からネットで「この春〇〇高校に入る人つながりましょう」と募集をかけ、あらかじめLINEグループを作ってしまうらしい。

恐ろしい世の中である。私がそんな時代に生まれていたら、戦国時代より早く死んでいる。いや、戦に行く前から勝負が決しているあたりそれ以上にシビアだ。もはや今の高校生にとって、スマホを持たずに学校へ行くというのは全裸で出陣するようなもので、どこからともなく「そんな装備で大丈夫か?」という声が聞こえてくるぐらいの行為なのだろう。

じゃあ、スマホを持たせてもらえない学生はどうしているのか。死ぬしかないのか、と思ったが、おそらく持ってない者は持ってない者同士で、いつの時代の教室にいる「イケてないグループ」を形成しているのではないだろうか。私もどこに出しても恥ずかしくないイケてないグループ出身だが、そのグループ内でも当時普及しかけていた携帯を持っている者は誰一人としていなかった。

スマホを持ってないからイケてないのか、イケてないからスマホを持ってないのかはわからないが、結局、持っている道具が違うだけで、教室内の勢力図はいつの時代も同じなのかもしれない。私は戦国時代でも、具足の着こなしがダサい「イケてないグループ」に所属するのだろう。

カレー沢氏のスタンプ制作の「現状」

そんなわけで私にとって、LINEは無用の物であったが、スタンプで小遣いが稼げるかもしれない、と聞いたら話は別である。

LINEで使用するスタンプを個人が制作・販売できるようになってから久しく、商業作家でも自分のキャラクターなどをスタンプにして販売している人は多い。全員が私のように金目当てではないだろうが、何せ明日も知れない職業である。収入源は多い方がいい。しかも在庫を抱えることもないし、全く売れなかったとしても、制作時間をドブに捨てただけで赤字にはならない。作るか作らないかで言うと、絶対に作った方が良いのである。

そう思いながら、1年の月日が経った。

私のパソコンには「line」という名前のコミックスタジオのデータがある。開いてみると、線画を途中で投げ出した絵が1枚と、41枚の白紙という私の性格の全てを表した物が出てくる(※個人が販売できる「LINE Creators Market」のLINEスタンプは40個を1セットで販売。申請には、購入ページ用の画像と使用時のタブ用画像を含む計42種類が必要となる)。

世のクリエイターたちは簡単にLINEスタンプを作ってリリースしているように見えるが、何の締め切りや強制力もなしに40個+αものイラストを完成させるなんて、どんな精神力だよ、と思う。私は「デビューするまで漫画を完成させたことが一度もなかった」ということを再三にわたって言っているが、その気質は全く変わってないのである。

また、時間がないという理由もある。スタンプ作りは個人的なもので、それよりはまず締め切りがある仕事の方を優先すべきであり、そうするとスタンプ制作に割く時間はない…ともっともらしいことを言ってはみるが、これも何度も言っている通り、描かない奴は時間があっても描かない。

カレー沢氏がスタンプを完成させるためのふたつの方法

逆に、このような人間がLINEスタンプを完成させるにはどうしたら良いかを考えてみる。確実なのは、仕事としてスタンプ制作の依頼が来ることである。自分で決めた締め切りなら破るに決まっているが、よそからの依頼であれば原稿と同じく、期限どおりに制作するだろう。

次に確実なのは「本当に金に困る」ことである。小銭でも拾わなければいけない状態にまで追い込まれれば、さすがに作ると思う。そうなると、おそらく連載も全部切られているであろうから、作る時間も潤沢にあるだろう。ただ、「電気を止められているため作れない」という新たな問題が浮上するかもしれない。

両方ともかなり有効な方法であるが、スタンプ制作の仕事はそうそう来ないだろうし、「LINEスタンプを作りたいから今の連載を全て終了させてくれ」と言うのも何か違う気がする。では一番手っ取り早い方法は何かというと、やはり「懲罰」であろう。描く手を止めたら電流が流れるペンタブレットがあればバカ売れ間違いなしなので、ぜひワコムさんは次の新製品候補に入れてほしい。ただしバカ買いするのは漫画家ではなく担当編集のような気もする。

ここまでしないと描かないのか、と思われるかもしれないが、本当に描かないのである。 こんな人間でも、毎月決められた日までに漫画を描いて提出しているのだから、締め切りというシステムを考えた奴は天才としか言いようがない。

原稿を完成させるのは努力や根性、まして情熱でもなく、締め切り(もしくは電流が流れるペンタブレット)なのである。

カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。連載作品「やわらかい。課長起田総司」単行本は1~2巻まで発売中。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は8月25日(火)昼掲載予定です。