前回は日本でのスタートが発表されたSamsung Walletの情報をお届けしましたが、今回もSamsung Walletを取り上げます。本サービスの日本の担当者に話を聞くことができたので、Samsung Walletのさらなる詳細をご紹介していきます。
クレジットカードのタッチ決済普及が追い風に
Samsung Walletは、グローバルではすでに30カ国で提供されています。全世界で発売された対応端末は4億台、ユーザーは1億人だといいます。そんなSamsung Walletですが、今、なぜこのタイミングで日本でも投入されるのでしょうか。
鈴木氏は、「グローバル全体でウォレットを広げていく戦略」であり、大きな日本市場での展開は以前から検討されてきたと言います。ただ、グローバルと日本では決済業界の状況も異なっていたことが、導入の遅れに繋がったと説明。特にスマートフォン決済においては、日本でFeliCaによるおサイフケータイが普及している点が大きな違いだと言えるでしょう。
グローバルではNFC Type A/Bによる決済サービスが一般的ですが、日本でのサービスにあたってはFeliCaへの対応が必要な点から足踏みをしていたと鈴木氏は説明します。ただ、日本でも最近はクレジットカードのタッチ決済が普及してきており、NFCだけでも一定の理解が得られると判断。「このタイミングは追い風ではないか」と鈴木氏は言います。
そして2023年夏頃から日本国内での展開に向けて交渉をスタートさせたそうです。
交渉先となったのはクレジットカードの発行会社(イシュア)やQRコード決済事業者など。様々な事業者に声をかけていったそうですが、その交渉はなかなか難しかったようです。世界的に見れば大きなエコシステムを構築しているSamsungですが、国内では初めてのウォレットサービスであり、Samsung Walletの機能やメリットをアピールして交渉していったそうです。
「Googleウォレットもある中で、Samsung Walletの必要性は何か」――そうした声に対しては、グローバルの状況や日本での展開プランを丁寧に説明し、「Galaxy端末に最適化されたUI/UX」を紹介したと言います。加えて、ユーザー数とその利用動向の見込み、トランザクションの予測も説明して理解を求めたと言います。
結果として、リリースの2月25日の段階ではオリコカードがいち早く対応。その後、3月以降に三井住友カードや三菱UFJデビット、JCBプロパーカードが対応します。これは、最新モデル「Galaxy S25シリーズ」の発売に合わせた結果ということで、タイミングが少しずれる形になったようです。
国内での対応端末は「2021年以降に日本で発売され、Android 14以上のOSを搭載した『Galaxy』端末」です。日本での「Galaxy」ユーザーが一定数いるので、広く使ってもらえるよう、なるべく多くの対応を目指したと山崎氏は言います。2月25日から利用が開始され、28日までには対応する全ユーザーに展開できる見込みで、一気に対応端末が広がります。
大手のオリコ/三井住友カード/JCB/三菱UFJデビットが対応していることから、今後のイシュアの対応も期待はできるところ。鈴木氏は、イシュアの拡大に向けて今後も取り組んでいく意向を示しています。
おサイフケータイへの対応についても、諦めているわけではないようです。交通系ICやiD/QUICPayなどにも対応していきたいと鈴木氏は話しています。
PayPayに対応、さらなる拡大も期待
Samsung Walletの優位点としては、画面オフ時でも画面下から上にスワイプするだけでカードがポップアップして素早く支払いができるUI/UXがまず上げられます。
起動するとデフォルトカードがまず立ち上がり、クレジットカード/ポイント/PayPayを左右のスワイプですぐに切り替えられるなど、レジ前でも素早く起動してすぐに決済ができるといった点がメリットとされています。
筆者も複数のカードを切り替えて支払いをしているため、この機能は実際便利そうです。Googleウォレットの場合、デフォルトカードはカードを表示する必要はないのですが、切り替えの際にはアプリを起動してカードを探す動作が必要なので、Samsung Walletの方が動きは良さそうで、こうした点はAppleウォレットにも通じるところです。
「Galaxy」端末に最適化されているというのも、「Galaxy Z Flip」シリーズでは、折りたたんだ状態でカバー画面の下から上にフリックしてもカードが表示される点は、利点を生かしているところだと感じます。
加えて、PayPayアプリにも対応している点もSamsung Walletの強みです。ただ、SamsungとPayPayの双方がUI/UXにこだわった結果か、直接Samsung Wallet上にPayPayのQRコードを表示するのではなく、アプリのディープリンクを使うことで、Samsung WalletからPayPayの各機能にダイレクトにジャンプする形になっています。
例えば「バーコードを表示する」を選べばPayPayアプリのコード決済画面に、「クーポン」を選べばPayPayアプリのクーポン画面に、といった具合に、実際の機能はPayPayアプリ側で動作します。その代わり、「クレジットカードとPayPayの利用を切り替える」「Vポイントを掲示してPayPayで支払う」といった場合に、Samsung Wallet内で切り替えられるメリットがあります。
ちなみに、ポイントの場合はSamsung Wallet内のWebViewを使ってバーコードを表示する形になっています。これは、店頭でバーコードの見分けがつくように、同じ見た目で表示したいというポイント各社のニーズがあったそうです。
QRコード決済に関しては、PayPay以外にも声がけはしているとのこと。最大手のPayPayがいち早く対応したことで、各社が対応を進めるかは興味深い点です。PayPayと同様に各機能へダイレクトにジャンプできる設計になっていれば、対応は比較的簡単かもしれません。
ほかにも航空券のプラットフォームとしてエアトリ、搭乗券として大韓航空/エミレーツ航空/ライアンエアー/エールフランス/KLMオランダ航空に対応。公式に対応している搭乗券以外にも、航空会社から送られるQRコードやPDFを読み取って搭乗券として保存することができるそうです。
あくまで静的な搭乗券の話ですが、Samsung Walletに取り込んで利用できるのは便利そうです。日本の航空会社も搭乗券に対応してくれれば、遅延時などで情報が更新されるため便利と思われます。このあたりも期待したいところ。
いずれにしても、Samsung Walletはこれからいかに対応サービスを拡大できるか、ユーザーの利用を拡大できるかが鍵となります。
さらに今後はIDや自動車/ホテルのキーといった決済以外の展開も想定されます。すでに米国の一部州や韓国ではデジタル運転免許証に対応しているそうですが、日本では今後、マイナンバーカードがスマートフォンに搭載される見込みで、これに対応できるかどうかもポイントになるでしょう。鈴木氏は、中長期的にはぜひ対応していきたいとしています。
サムスンでは、まずはSamsung Walletアプリをインストールして利用してもらえるように、さまざまなキャンペーンやプロモーションを展開していくとしています。今後、さらなる機能強化とともに期待したいところです。