年頭なので、今年1年を予想してみることにしました。今年の注目ポイントは、「タブレット」です。スマートフォンについては、「順当な変化」で1年が終わることになると思われます。というのも、アンドロイド、iOSのポジションは変わらず、ここにWindows 10 Mobileが食い込むのはそうそう簡単ではなく、競争もあまり激しいものにはなりそうもないからです。しかし、タブレットは、一波乱ありそうな感じがします。

アンドイロドだけでなく、iOSやWindowsを含めて、2016年は、タブレットに注目すべきなのかもしれない

というのも、タブレットという形状で見た場合、Windowsタブレットが順当にシェアを拡大しているのに対して、アンドロイド、iOSともにシェアを落としています。全世界でみると、1位のApple、2位のSamsungがシェアを落とし、2014年には4位にあったLenovoがシェアを上げ、3位に浮上してています。これは、おそらくは、Windowsタブレットの分だと思われます。また、2015年は、タブレットの総出荷もわずかですが、2014年より減っています。このため、タブレット全体での減少傾向が続き、Windowsのシェアが上がると、アンドロイドやiOSのシェアは相対的にも絶対的にも減少することになります。

なお、国内では、タブレットの出荷は増えていますが、Windowsタブレットが増えているのは同じようです。調査会社によれば、2015年上期のタブレット出荷では、マイクロソフトが上位5社に入ったほか、富士通、ASUSとWindowsタブレットを製品として持つ企業が2位、3位となりました。

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実際、Windows 10を搭載したタブレットは、1万円程度で入手可能です。Windows 10では、32bit版の必要スペックでメモリが1ギガバイト、ストレージが16ギガバイトと大きく下がったからです。プロセッサ性能的には、Intel AtomのBay Trail(37xx)である程度の性能は確保でき、あとは、メモリ次第という状態で、メモリやストレージデバイス自体は、アンドロイドとほぼ同じものが利用できるため、Windowsのタブレットも低価格で作ることができるようになったというわけです。もっとも、Windowsでも、メインストリームの機種では、メモリが2ギガバイト、ストレージが32ギガバイト以上であり、この程度あれば、少なくともアンドロイドのタブレットと比較してパフォーマンスはさほど変わりません。

アンドロイドでは、その上のハイエンドだと64bit版ARMコアどまりなのに対して、Windowsでは、IntelのCore-MシリーズやCoreシリーズといった高性能なプロセッサもあり、Atomクラスでも64bitプロセッサという選択肢も可能です。この点、上位のPCから下りてきたWindowsタブレットのほうが有利といえます。

さて、こうしたWindowsの動きに対して、アンドロイド陣営やAppleも対抗策を出してきています。Apple社は、昨年iPad Proを発表しました。12インチのディスプレイ、ペン、一体にできるキーボードというハードウェアに加え、iOSがようやく画面の分割表示に対応しました。

アンドロイドでは、グーグルがPixcel Cというキーボードとタブレットを組み合わせた製品を出しています。また、次世代のアンドロイドとなる「Android N」では、画面の分割表示に対応するという話があります。なお、機能的には、現在のMarshmallowにも画面の分割表示機能は入っているのですが、動作が禁止されています。

アンドロイド陣営で先頭を走るSamsungも、Windows 10タブレットを投入しました。これは「Galxy TabPro」と命名されており、アンドロイドのスマートフォン、タブレットであるGalxyブランドが使われています。従来Samsung社は、PCは別事業部が担当していたため、Galaxyブランドを使っていませんでした。

「専用キーボード(一体化して持ち運べる)」、「スタイラス/ペン」、「画面分割」は、おそらく、2016年以降のタブレットの必須機能となりそうです。これは、閲覧が中心のスマートフォンとの差別化点でもあり、かつ、急速にシェアを伸ばしているWindowsタブレットとの対抗上必要なものと思われます。また、タブレットの実用性を上げようとすれば、いずれは実装しなければならない機能といえます。

しかし、アンドロイドやiOSのでの対応は、今年いっぱいはかかるでしょう。たとえば、画面分割では、システム側の対応だけでなく、アプリ側の対応も必要になります。実際、Android 6.0(Marshmallow)には、機能が入っているにもかかわらず、有効にされていないのは、まだ準備が不完全だからです。画面を分割すると、アプリからみて解像度やアスペクト比などが変化します。そもそも、もともとのハードウェア解像度によっては、分割してしまうと、アプリが想定している最低解像度やアスペクト比と違ってしまい、その結果アプリがクラッシュする可能性があります。また、一般に画面分割機能が公式に提供される以前に作られたアプリは、ダイナミックな解像度などの変化に対応できないのが普通です。このため、追従できないだけでなく、クラッシュしてしまう可能性があります。

ペンの対応も、単にハードウェアとして使えるだけでなく、オペレーティングシステムで「インク」(ペンの軌跡や文字認識結果など組み込める複合的な情報)として扱えるかどうか、手書き文字の認識エンジンの用意、ペンによる範囲指定、ジェスチャーなど、対応すべき項目は多数あります。アンドロイドでは、OS側でペン(スタイラス)には基本的な対応はしていますが、実際の製品としては、一部のメーカーのみしかペンが利用できるハードウェアを作っていません。このため、メーカーの個別対応部分が大きく、ハードウェアさえ用意すれば、ペンが簡単に利用できるというわけではありません。

Windowsはすでに対応済みだが……

ペンや画面分割は、すでにWindowsがPCで対応してきた部分であり、アンドロイドやiOSはこれを追う立場になってしまうのです。また、マイクロソフトは、OfficeをアンドロイドやiOSに対応させており、アンドロイドやiOSがPC的な機能を充実させるほど、Officeの利便性が高まっていきます。なんだか、出来のいい詰め将棋の問題をみているかのような感じがありますが、いつも答えは1つとは限りません。アンドロイドにしてもiOSにしても、取り得る方法はいろいろとあります。

また、最近では、LTEを搭載するタブレットの比率が増えているといいます。データ通信コストが安価になってきたからです。電話はスマートフォンではなく携帯電話、データ通信はタブレット側でという使い方も十分可能です。

逆にいうと、モバイルネットワークは、Windowsが弱点としている部分です。Windows PhoneがWindows 10 Mobileになったので、Windowsにもモバイルネットワーク機能が搭載されるようになりました。しかし、実際Windows 10 Desktopでは、モバイルネットワークへの対応は不十分な感じがあります。手元あったLTE搭載PCでは、Windows 10(TH2)でSMSの受信は可能でしたが、送信ができませんでした。こうした部分は徐々に改良されていくと思われますが、2016年内にどれだけできるのかは未知数といえます。そもそも、Windows Phoneは、限られたハードウェアでしか動作していなかったため、アンドロイドのように多種多様なハードウェアに対応しておらず、かといってWindowsタブレットは、Appleの用にハードウェアの種類がごく少ないというわけではないからです。

実際、アンドロイドも、Nexus 7では、最初通話アプリが付属せずSMSを扱うことができませんでした(現在はHangOutから利用可能)。実際、システムとしての成熟には長い時間がかかります。どんなシステムでも、これで十分というレベルに達することはないし、新しい機能が導入されたり、利用者の数が増えれば、対応しなければならない問題も増えてくるのです。通話しないデータ通信のみの契約だからSMSが不要というのは机上の理論でしかなく、海外には、SMSを使ってデータ通信プランを切り替えたり、購入するという事業者もあります。国内でも、コミュニケーションアプリであるラインの登録にはSMSが必要なため、データ通信契約でも、SMSオプションが追加できるようになっているのが普通です。

競争の1つのメリットは、こうした問題の解決を高速化してくれることです。競争が激しければ、激しいほど、ハード、ソフトの進歩は速くなります。

現状、アンドロイド、iOS、Windowsのそれぞれに有利、不利な点があり、一方的な勝負にはならないと思われます。だとすると、さまざまな試みがなされる可能性があり、いろいろと面白いものが出てくるのではないかと筆者は想像しています。

本稿は、2016年1月14日にAndorid情報誌「AndroWire」に掲載した記事を再構成したものです。