今回も燃料に関連するということで、空中給油を取り上げてみよう。民間機では縁がない、軍用機の専売特許である。燃費が悪くても、燃料搭載量が足りなくても、空中給油を使えば飛行時間の延伸が可能になる。ただし、燃料があるからといって長いこと飛行させると、今度は搭乗員の過労が問題になるので注意が必要だ。

燃料は大きく分けると2種類

空中給油 (aerial refueling) とは、給油機 (tanker) が受油側の機体 (receiver) に対して、飛行中に燃料を送り込む行為を指す。もともと別個の飛行機として飛んでいるものが、給油の間だけつながって燃料を送り込まなければならないので、両方の機体をつないで燃料を運ぶ手段が必要になる。

そのための方法は、大きく分けると2種類ある。

1つはフライング・ブーム方式。給油機の尾部に取り付けた給油ブームを伸ばしていって、受油側の機体の上面に取り付けてあるリセプタクル(受油口)に差し込む方法。

この場合、給油ブームを動かしたり、伸縮させたりする操作は、給油機に乗っているブーム・オペレーター(ブーマー)が担当する。受油側の機体は、給油機の後ろ下方に占位して、相互の位置関係が大きくずれないように調整するのが主な仕事になる。

フライング・ブーム方式の利点は、燃料の供給速度が速いこと。大量の燃料を必要とする大型機に向いている。その代わり、前方斜め上からブームを伸ばしてくるので、頭上でローターが回っているヘリコプターが相手では使えない。

KC-10エクステンダーが、F-22Aラプターに給油しているところ。これはフライング・ブーム方式 Photo:USAF

もう1つはプローブ&ドローグ方式。給油機から後方に燃料補給用のホース(ドローグホース)を繰り出して伸ばすのだが、ただ単に細いホースがブラブラしているだけではつかまえられないから、先端にバスケットのようなものがついている。受油側の機体は、受油用の「プローブ」と呼ばれる棒を備えていて、その先端をバスケットの部分に差し込む。

KC-10が後方にドローグホースを展開、そこにF-35Bが接近してきているところ。F-35Bの機首右舷側(写真ではキャノピーの左側)に、空中受油プローブが展開している様子がわかる(使わない時は機内に引っ込めておく) Photo:US Navy

この場合、給油機はホースを繰り出して水平直線飛行を安定して行うことに専念して、後は受油側の機体任せである。受油側では、機体を操ってプローブをバスケットに差し込み、接続(コンタクト)した後はプローブが抜けないように機体を操る。

こちらは燃料補給速度で見劣りするものの、ヘリコプターでも燃料を受け取れる利点がある。また、道具立てが全体的にコンパクトになるので、小型の機体でも給油機にできる。ドローグホース一式をポッドに収めて戦闘機の胴体下面にぶら下げれば、戦闘機同士の給油もできる(いわゆるバディ給油)。

つまり一長一短があるので、給油機によってはフライング・ブームとドローグホースの両方を備えていることもある。具体例としては、横田基地の一般公開に登場したことがある、オーストラリア空軍のA330-200給油機ことKC-30Aがある。

フライング・ブームの指定席は後部胴体下面だが、ドローグホースは胴体下面に取り付けることも、主翼下面に取り付けることもできる。胴体下面と左右の主翼、合計3ヶ所にドローグホースを取り付ければ、理屈の上では同時に3機に給油できる。

といっても実際には、受油側の機体の幅が問題になる。あまり幅が広いと接触する可能性があるから、同時に3機というわけにはいかない。主翼下面のドローグホースだけを使って同時に2機、の方が現実的かも知れない。

コンタクトすると自動的に配管がつながる

フライング・ブームとリセプタクルの組み合わせにしても、ドローグホースとプローブの組み合わせにしても、接続する部分にはふたがついていて、コンタクトするとふたが開いて配管がつながる仕組みになっている。たぶん、ふたをバネで押さえる仕掛けである。

ヘリコプターの場合、回転するローターにドローグホースが絡むと一大事なので、機首に伸縮式の空中給油プローブを装備している。給油のときだけ、ローターの回転面より前方に出るようにプローブを伸ばす仕組み。

ちなみに、V-22オスプレイも同じである。機首とプロップローターの回転面があまり離れていないので、プローブを前方に伸ばして距離をとるほうが安全である。

米空軍の救難ヘリ、HH-60Gが装備している空中受油プローブの先端部。これをドローグホースの先端にあるバスケットに突っ込む

給油の開始・停止は給油機の側で操作する。コンタクトできたことを確認したら給油を開始して、所定の量の燃料を給油したら給油を止める。余談だが、接続するだけで給油を行わない時は「ドライ・コンタクト」、接続して給油まで行うと「ウェット・コンタクト」という。

フライング・ブームは空力操縦

フライング・ブームは付け根の部分にヒンジ機構を組み込んであって、ある程度、上下左右に動くようになっている。その動きを決めるのは、ブームの先端部・左右に取り付けられた翼面の仕事。つまりフライング・ブームは空力操縦である。

ブーマーがブームを動かす指示をすると、フライング・ブームの両側についている操縦翼面が動いて、所望の向きにブームを動かすように働くわけだ。上で取り上げたKC-10の写真を見ると、後ろ下方に伸びた給油ブームの途中に操縦翼面が付いている様子が分かると思う。

一般的に、給油ブーム操作員(ブーマー)は機体後部に後ろ向きに陣取る。そして、後部下面に設けられた窓からブームと受油側の機体を見て、リセプタクルに向けてブームを操って差し込む。そのついでに、カメラマンが横合いから広報用の写真を撮ることも、よくある。

ところが、米空軍が開発を進めているKC-46Aや、航空自衛隊のKC-767、オーストラリアやイギリスなどの空軍で使っているエアバスA330-200給油機といった最近の機体は、ブーマー席が後ろにない。ブーマー席は操縦席のすぐ後ろにあり、尾部に設けたカメラの立体映像を見ながらブームを操るようになった。赤外線センサーの映像なので、夜間でも使える。

そのブーマー席のシミュレータが、2016年に開催された「国際航空宇宙展」のボーイング社ブースに登場した。操作を容易にするために立体映像を表示する仕組みになっていて、そのために専用のゴーグルをかけてブーマー席に座る。

「国際航空宇宙展2016」のボーイング社ブースに登場した、KC-46A用ブーマー席のシミュレータ

それを体験できる機会は滅多にない。遠慮なく名乗りを上げてチャレンジしてみたのだが……なにしろ、タンカーもレシーバーも空を飛んでいる飛行機だから、相互の位置関係はどんどん変わる。そうした中でブームを正確にリセプタクルに差し込むのは簡単な仕事ではなかった。

そしてどうなったかというと、画面に映っているF-15のリセプタクルにブームを差し込もうとして失敗してしまい、機体の背面をブームでガリガリとこすってしまった。これが本物だったら事故である。シミュレータで良かった。

ちなみに、フライング・ブームをコンタクトした時につながるのは給油の配管だけではなくて、通信用の回線もつながるようになっている。つまり、空中給油をやっている間だけ、タンカーの搭乗員とレシーバーの搭乗員は会話ができる。有線だから無線封止中でも大丈夫だ。

そして、これから敵地に乗り込む戦闘機のパイロットに対して、ブーマーが「しっかりやってきてくださいよ !」と声をかけるようなこともあるらしい。