第160回で、固定翼機や回転翼機を運用する艦艇のうち、空母と、その他の空母型の艦の話を取り上げた。回転翼機(ヘリコプター)であれば、普通の水上戦闘艦でも運用している。そちらの格納庫はどうなっているのだろうか。

水上戦闘艦とは

専門誌を日常的に読んでおられる方なら説明の必要はないだろうが、そうでない方のために、前置きを少々。

水上戦闘艦(surface combatant)とは、一般的に巡洋艦、駆逐艦、フリゲート、コルベットといった艦を指す。いちばん「軍艦」らしい艦といえるかもしれない。

昔は、こうした艦種ごとの区分が比較的ハッキリしていたが、最近は区分が不明瞭で、「当事者が駆逐艦だといっているから駆逐艦だ」といった按配になっているのが実情。そうなると、十把ひとからげに「護衛艦」にしている海上自衛隊が、いちばん実情に即しているといえるのかもしれない。

昔は、この手の水上戦闘艦ではヘリコプターの運用ができなかった。その理由は、まずサイズの問題。比較的小型の艦に、ヘリコプターを発着させるための甲板と、ヘリコプターを収容するための格納庫を設けなければならないのだから、当然ながら「十分なスペースを確保できるかどうか」という問題はついて回る。

そして、これもサイズと関係する話だが、揺れる艦上に安全に降着できるかどうか、という問題がある。素人目にも、大型艦より小型艦のほうが、荒天になると揺れやすそうである。実際にはそんな単純な問題ではなくて、大型艦でも設計に失敗すると酷く揺れるのだが。

その問題を解決する突破口になったのが、本連載の第154回で取り上げた着艦拘束・移送装置だった。その嚆矢といえるのが、カナダで考案された「ベア・トラップ」で、これが着艦拘束・移送装置の代名詞になっているぐらいだ。

これに加え、昔と比べて艦型が大型化してきていることにより、水上戦闘艦のヘリコプター搭載は一般的なものになった。そのヘリコプターの用途としては、対潜戦、救難、輸送などがある。ただ、格納庫や発着艦の話からは外れるので、用途の話については割愛する。

ヘリ格納庫の位置と構造

水上戦闘艦は空母と比べると小型だから、ヘリ発着甲板の位置は海面に近い。その分だけしぶきを浴びやすい。そんな状況下で機体を露天駐機していたのでは、いくら塩害対策をちゃんとやっていても、機体は傷みやすくなる。

第一、露天駐機では点検・整備もままならない。だから、使わない時は格納庫に入れなければならない。空母搭載機は露天駐機しているが、そちらも点検・整備の時は格納庫甲板に降ろしているのだから、やはり格納庫は要るのである。

まず、ヘリ発着甲板の位置だが、艦尾ないしはそれに近い場所に設けるのが通例。航行中の艦に対して、ヘリコプターは後方から接近してきて、ヘリ発着甲板の上まで来たところで艦の前進速度と自機の前進速度を合わせる。するとヘリ発着甲板との相対速度はゼロになるから、そこで降下させれば着艦できる。

一方、発艦する時は、まず上昇した上で、右か左に離脱すればよい。ヘリコプターが前進しておらず、艦が前進していれば、ヘリコプターは自然に艦から遠ざかることになる、

もしも、ヘリ発着甲板を艦首側に設けると、着艦の時は側方から追い抜きざまに横移動させなければならない。また、発艦の時は、飛び立つやいなや急いで前進しないと、艦にオカマを掘られてしまう。それでは無理がありすぎるから、ヘリ発着甲板は艦尾に設けるのが自然な流れとなる。

したがって、ヘリ格納庫はヘリ発着甲板の前側に隣接する形で設置することになる。そうすれば、第154回取り上げた着艦拘束・移送装置を使って、スムーズに格納庫から機体の出し入れができる。

  • カナダ海軍のフリゲート、「オタワ」(左)と「ウィニペグ」(右)。艦尾にヘリ発着甲板を設けて、その前側に格納庫を設けている

    カナダ海軍のフリゲート、「オタワ」(左)と「ウィニペグ」(右)。艦尾にヘリ発着甲板を設けて、その前側に格納庫を設けている

  • 海上自衛隊の護衛艦「うみぎり」。こちらのヘリ発着甲板は艦尾よりも少し前にあり、ヘリ発着甲板の後ろにミサイル発射機を置いている。こういう配置の艦も意外と多い

ヘリ格納庫は一般的に、上甲板の上に載っている上部構造の一部として設置する。上部構造の後端にヘリ格納庫を設けて、その後ろがヘリ発着甲板、というレイアウト。こうすれば、着艦した機体を前方に移送装置で移動することで、格納庫に収容できる。

ヘリ格納庫の前方、上方、左右の側面は壁で囲われているが、ヘリ発着甲板に面した側には開口部があり、機体を出し入れする時だけシャッターや扉を開ける。

ただ、艦のサイズにはそんなに余裕がないから、ヘリ格納庫のサイズは機体を収容できるギリギリのサイズしかないことが多い。搭載するヘリコプターは老朽化すると代替わりしていくが、艦は寿命が長い上に高価で、簡単に代替わりできない。

だから、ある艦が就役してから退役するまでの間に、搭載するヘリコプターの機種は何回か変わる。新しいヘリコプターを調達するとなった時に、艦側の格納庫のサイズ、それとヘリ発着甲板やヘリ格納庫の強度が問題になる。大きすぎたり重すぎたりすると、載せられない。

その、機体と壁の間のわずかなスペースに、整備用の工具類を収めた工具箱、消火器、機体を甲板に固定するタイダウン・チェーン、などといったものを並べている。

収容した機体の周囲に十分なスペースをとれないことがほとんどなので、日常的な点検ならともかく、エンジンを降ろしたり、ローターを外したりするような、大がかりな整備作業を行うのは難しい。

また、整備作業で吊り上げの必要が生じた時に使用するため、天井にクレーンを設置していることが多い。以下の写真は、ちょうど本稿執筆時に晴海埠頭に寄港していたイギリス海軍のフリゲート「モントローズ」のヘリ格納庫だが、天井に、湾曲したクレーン移動用のレールが付いている点に注意してほしい。

  • イギリス海軍のフリゲート「モントローズ」のヘリ格納庫。搭載しているのが比較的小型のAW159ワイルドキャットHMA.2だから、まだ周囲には若干の余裕がある。もっと大型のマーリンHM.2を入れたら、たぶんギチギチだ

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。