PCゲームプラットフォーム「Steam」――。

電脳世界の奥深く。そこは“無限”が眠る場所。

今宵もゲームに魅せられた冒険者を、出口のない迷宮へと誘い込む。

この連載では、そんな「Steam」という名の魔境にある、無料インディーズゲームをご紹介。隠れた名作や、いままで知らなかった傑作タイトルなど、思わぬ秘宝が見つかるかもしれません。少しでも興味が湧いたら、まだ見ぬ秘宝を目当てに、トレジャーハンティングしてみては?

ヒロインは悪魔のスーツ女子! かわいさとクールさが同居した独特な魅力

ゲーム配信プラットフォーム「Steam」においては、文字通り毎日のように無料で遊べるタイトルがリリースされています。最初から最後まで遊べる完全無料タイトルから、ゲーム内課金などを備えたいわゆるFree to Play、体験版など、さまざまな提供形態がありますが、そうした無料タイトルのなかで、2020年最も話題になったタイトルのひとつが『Helltaker』です。

  • Helltaker

    Helltaker

『Helltaker』は、「悪魔の娘たちでハーレムを作る」夢を見た主人公が、それを正夢にすべく地獄に降り立ち、出会った悪魔娘をハーレムの一員に加えていくというストーリーのパズルゲームです。作者はポーランドのクリエイター、ウカシュ・ピスコシュ(VanRipper)氏。ステージのパズルを解くと悪魔娘との会話パートが始まるという形で進行するため、いわゆるギャルゲーの要素も多分に含んでいます。

攻略対象のステージは全部で9つと少ないながらも、適度に遊びごたえのある難易度や魅力的なキャラクターが人気を呼んで、リリースされるやいなや世界的な規模で話題になりました。

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    主人公「Helltaker」。強面だがパンケーキ作りがすごくうまい

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    パズルのステージ。左に表示された数字が尽きる前に悪魔娘に隣接するところまでたどり着ければゴール

本作の魅力は、なんといっても赤シャツと黒スーツのファッションに身を包んだヒロインたちでしょう。ハーレムのメンバーはステージ数と同じ9人で、9人中8人が悪魔(残りの1人は地獄駐在の天使)。悪魔娘といえば露出度の高いセクシーな衣装にコウモリ羽がステレオタイプです(諸説あります)が、本作には羽の生えたヒロインは1人もいません。立ち絵ではほぼ全員が黒スーツをパリッと着こなしており、女性キャラクターとしてのかわいらしさと、スーツスタイルのクールさを両立した独特な味があります。

パズルパートでは、各キャラクターがキュートなグラフィックに落とし込まれており、ニッチでありながらも万人受けしそうな質の高いキャラクターデザインが大きな特徴です。

会話パートでは、悪魔ならでは(?)の個性的過ぎるセリフ回しや愛嬌のある(そしてときにやや邪悪な)表情が楽しめますが、会話パートといっても二言三言話をする程度。また、ステージ攻略中にヒントを呼び出すと悪魔娘同士の掛け合いが始まるくらいで、ギャルゲー的な内面の深堀りと呼ぶにはあまりに少ないテキスト量です。

もっとも、あえてストーリーや人物の描写を抑えて、キャラクターの最も魅力的な側面だけを見せているようにも思えるので、そのような方針でデザインされているのかもしれません。なお、会話パートで選択肢を間違えるともれなく死にます。

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    会話パート。ギャルゲーよろしく選択肢が出る

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    正しい選択肢を選ぶと、ハーレムへ加入

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    ヒロインは9人だが、「三つ子悪魔のケルベロス」のみ3人で1人扱い

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    選択肢を間違えると、相手ごとに色々なパターンで死ぬ

パズル難易度はほどほど。難しければ無理して遊ぶ必要なし

パズルパートは、表示されている手数(意志)の範囲で主人公を動かし、手数のカウントがなくなる前に悪魔娘のところまでたどり着くと会話パートに移行できます(選択肢によってゲームオーバーがあるのでステージクリアではない)。

手数は基本的にクリアできるギリギリの数字なので、動かせるオブジェクトを利用し、トラップには極力ひっかからないように解くのがコツ。操作もきわめてシンプルであり、基本的に迷うことはまずないでしょう。もし操作を間違えても、ボタン一つですぐにリスタートできるので、総合的なプレイ感覚も非常に快適です。

パズルの難易度は、普段パズルゲームをプレイしない人にはやや難しく感じられるかもしれません。パズル(一部アクション)の詰まり具合いにもよりますが、初見でクリアまでにかかるプレイ時間の目安はおよそ30分~2時間程度です。ちなみに、タイムアタック記録サイト「speedrun.com」における世界最速記録は、記事執筆時点で4分34秒283だそうです。

また本作では、中断メニューからパズルパートをスキップし、会話パートだけを見ることもできます。しかも、それを会話の中で悪魔娘自身が推奨します。これもまた思い切った振り切れかたですが、その点から見ると、作者が表現したかったのはあくまでもキャラクターであることが推察できます。

ゲーム体験としてコアの部分であるパズルパートが初見から飛ばせるというのは、あまり他に類を見ないユニークなポイントですが、作者のVanRipper氏は自主制作アニメを手掛ける映像作家でもあるので、本作についてはゲームというより、映像作品として楽しむのもひとつの見方なのかもしれません。

スキップできるからといって、パズルパートを解くことはまったくの無意味ではなく、いくつかのステージには隠し要素もあります。興味があれば探してみると、いいことがあるかもしれません。

なお、『Helltaker』は日本語がサポートされていませんが、有志による日本語訳ファイルが配布されているので、特にこだわりがなければ日本語化しておくといいでしょう。

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    パズルパートは中断メニューからスキップできる

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    ヒントでは悪魔娘同士の会話が見られる。自らパズルのスキップを勧めてくることも

多くは語られないことこそが人を惹きつける

無料ゆえかボリュームは控えめですが、むしろ気軽に遊べるサイズ感だからこそ、『Helltaker』は世界中で広く遊ばれたのかもしれません。また一人ひとりのヒロインや世界観、ストーリーについてほとんど深堀りされないことは、とりもなおさずプレイヤーに想像の余地があるということでもあり、そのためか、リリースから半年以上経過した今でも、新たに投稿される二次創作のファンアートを見かけます。

楽しく遊べるステージデザインに魅力的なキャラクター、秀逸なBGMなど、ゲームとして重要な要素がそれぞれバランスよく、コンパクトにまとまっている『Helltaker』は、もはや完全無料で遊べるのが信じられない水準に達しており、自信をもっておすすめできるタイトルのひとつです。

  • Helltaker

    ストーリーの本筋は短いながらも、悪魔娘のいろいろな表情が見られて楽しい