LGはThinQ Claw、ThinQ ON、Homey、高機能家電を一つのAIホーム基盤に統合し、家事の負担を減らす構想を実用段階へ進めています。
ThinQ Clawは、ユーザーの予定や嗜好、生活状況を文脈として捉え、自然なチャットを通じて家電やサービスの連携を支援するAIエージェント。ThinQ ONが宅内機器の接続と制御を担い、Homeyが他社製IoT機器との互換性を広げることで、LGはオープンなAIホームの構築を進めています。
LGのAIホームが広く普及するには、各国のメッセージアプリへの対応、異なるメーカー間の安定した連携、セキュリティとプライバシーの確保が鍵になります。
ドイツ・ベルリンでは、欧州最大のエレクトロニクスショー「IFA 2026」が9月4日に開幕しました。長年、この場所で激しく火花を散らしてきた韓国のサムスン電子がメイン会場での出展を見送るなか、LGエレクトロニクスはメッセ・ベルリンのHall 18を舞台に圧倒的な存在感を放っていました。
現地で取材したLGによるスマート家電向けのAI技術や、最新の生活家電をレポートします。
点在していたAI家電が一つの暮らしへ、LG構想の現在地
LGが今年掲げたテーマは「Innovation in tune with you(調和するイノベーション)」。その中心にあるのが、コンシューマーの暮らしの負担を極限まで減らし、自由な時間を生み出すことを目指したスマートホームのコンセプト「ゼロレイバーホーム(Zero Labor Home)」です。
筆者はこれまで、IFA 2024で初披露されたスマートホームハブ「ThinQ ON」や生成AIエンジン「FURON(フューロン)」の胎動、IFA 2025でのBtoB(集合住宅向け)展開へのシフト、そして年初のCES 2026で提示されたヒューマノイドロボット「CLOiD」に代表される、LGの近未来ビジョンを取材してきました。
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LGブースのエントランスを彩った「LG AI Orchestra」。今年1月のCES 2026で初披露されたAIホームロボット「LG CLOiD(クロイド)」が欧州で初公開され、家電や設備が調和して家事負担を減らす「ゼロレイバーホーム」の象徴として紹介されていました
これらの系譜を振り返りながら今回のIFA 2026の出展の意義を考えると、従来は点として存在していたAIやデジタルテクノロジー、スマート家電が「ひとつの完成されたエコシステム」として着地した重要な転換点であると感じられます。
チャットが家電の司令塔に、文脈を読むThinQ Claw
今回のLGブースにおいて、技術的に重要なハイライトのひとつは初公開されたAIエージェント「ThinQ Claw(シンキュー・クロー)」です。
過去のIFAにおける同社のスマートホームやAIの歩みを振り返ると、アプローチの変遷が浮かび上がります。2024年のIFAで登場した音声操作に対応するスマートホームハブ「ThinQ ON」は、同年にLG独自のAIエンジン「FURON」を搭載。「Hey LG」というウェイクワードで呼びかけることで、自然言語による家電操作を可能にする音声ハブとしての役割を提案しました。
続く2025年のIFAでは、そのThinQ ONを新築マンションの各住戸に標準導入するBtoBソリューションへと広げ、ファームウェアを自動更新する「ThinQ Up」や、故障の兆候を常時監視して事前検知する「ThinQ Care」といった実用的な運用基盤を整えていきました。
そして、IFA 2026で披露されたThinQ Clawは、こうしたスマートハブとしての役割を一歩進めて、オープンなアーキテクチャ「OpenClaw」のコンセプトをベースに開発されたテキストチャット型のAIエージェントです。
これまでのスマートホームは自動化をうたいつつも、実態はユーザー自身がアプリ上で複雑な条件分岐(「朝7時になったらエアコンをつけて照明を点灯する」といったようなルール設定)を組んだり、デバイスごとに決まった音声コマンドを正確に覚えたりする必要がありました。家電自体がネットワークにつながっても、操作や設定の手間そのものが、生活者の新たな負担になってしまうという矛盾が存在していました。
ThinQ Clawはその解決策として、ユーザーの発話を独立した命令として捉えるのではなく、生活全体の「文脈(コンテキスト)」として処理する仕組みを採用しています。カレンダーのスケジュール、ユーザーが現在置かれている状況、過去のやりとりから蓄積されたユーザーの嗜好などを参照しながら、状況に応じたアクションを提案・実行します。
LGでThinQ関連のAIテクノロジーを開発する主幹担当者に話を聞くと、このThinQ Clawの具体的な仕様が明らかになりました。
特徴的なのは、LG独自の「ThinQ」アプリ内だけに閉じることなく、ユーザーが使い慣れたサードパーティのメッセージングアプリから直接、テキストチャットで操作できる点です。
またシナリオベースの対話ではなく、FURONを含む様々なモデルを統合したAIチャットとして、自然言語処理に対応したところも特徴です。日本の家電メーカーの中では、例えばシャープが展開している生成AIチャットサービスの「COCORO HOME AI」にサービスのイメージは近いかもしれません。
例えば韓国で広く普及している「KakaoTalk(カカオトーク)」のようなメッセージアプリにおいて、企業や公式アカウントを「友だち追加」するような感覚で、ThinQ Clawとつながることができます。
チャット画面を開き、AIエージェントにメッセージを送ることで宅内の家電の遠隔操作や状況確認、生活の相談が行える仕組みです。
ブース内のAI Home Zoneでは、例えばユーザーがThinQ Clawとのチャット画面で「スーパーで安売りしている食材を買って、今晩のディナーに何をつくればいい?」と聞きながらAIと一緒に献立を決める、簡易なユースケースが紹介されていました。
LGはThinQ ClawのAPIを外部のメッセージングサービスに開放しており、ユーザーが使い慣れたチャットUIに、スマートホームのコントロールセンターとしての役割を与えます。
現段階でThinQ Clawは、AIホームハブのThinQ ONと組み合わせて使うことが前提とされています。ThinQ ONが宅内機器を接続・制御する物理的な基盤となり、ThinQ Clawが自然言語や生活文脈を読み解いて指示を出すという構成です。
LGの担当者によると、既存のThinQ ONユーザーに対しても将来的なアップデートによる提供が予定されているそうです。韓国では2026年内のサービス開始を計画していますが、グローバル展開のスケジュールや、各国でどのメッセージアプリに対応するかといった詳細はこの取材時点では得られませんでした。
Homeyで他社製品も連携、開かれたAIホームを構築
AIエージェントの制御対象が自社製ハードウェアだけに限定されていては、実際の家庭環境には適合しにくい側面があります。LGはこの点に対しても別途、取り組みを進めています。
IFA 2024の時点では、LGが買収したオランダのAthom社が手がけるスマートホームプラットフォーム「Homey(ホーミー)」は、主にThinQ ONのハードウェア基盤として言及されていました。しかし今回のIFA 2026では、Homeyの持つマルチブランド対応力とオープン性が前面に出されています。
ThinQ Clawが文脈を読み解き、ThinQ ONが家電やサービスをつなぐ役割であるとすれば、Homeyは他社製を含む多様なIoT機器との接続を広げるプラットフォームとして機能します。
IFA 2026のLGブースで、Homeyのデバイスを介した「Home Energy Management System(HEMS)」の展示を一例として見せていました。
スマートメーター、屋根上の太陽光パネル、家庭用蓄電池、EV充電器、そしてLG家電をリアルタイムに連携させて、電力の発電・蓄電・消費をモニタリングします。欧州で導入が進む変動型電力料金(ダイナミックプライシング)に追従し、電気料金が安い時間帯に蓄電や洗濯を行い、ピーク時には蓄電池の電力を使うといった制御も行えるそうです。
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欧州ではLG傘下のブランド、Homeyとの連携が進んでいます。LG以外のIoTデバイスとの連携はHomeyをブリッジとして実現するものを増やしていく方針ですが、最新の機能を幅広く使えるのはLGのスマート家電同士による連携で、Homeyは外部のスマート家電機器とのより特化した専門的な機能を取り込むためのブリッジとしての役割も期待されています
ユーザーの生活データや行動履歴を扱うAIエージェントの特性上、セキュリティの確保は重要な論点となります。LGは独自のセキュリティフレームワークである「LG Shield」をAIエコシステム全体に適用しています。
暗号化アルゴリズム、安全なデータ保管・伝送、ユーザー認証、ソフトウェア整合性の検証など7つのコア技術で構成される多層防御により、データの漏洩や不正アクセスから家庭環境を保護する構造をとっています。
IFA 2025で示されていたBtoB展開は、集合住宅や商業空間に向けて一元的な設備管理を提供する「ThinQ Pro」として体系化され、今回の欧州で初めて披露されました。個人の住まいから集合住宅や施設管理へと、同社のスマートホームプラットフォームの適用範囲を広げる試みです。
衣類から髪まで進化、LGの新プレミアム家電を体験
LGによる白物家電のハードウェア展開において、筆者が着目した商品がいくつかあります。
衣類ケア家電「LG Styler」シリーズは日本でもLGが販売している生活家電です。日本では2025年に、本体内にハンディスチーマーを内蔵したフルモデルチェンジの「The All New LG Styler」が発売されています。今回のIFAブースでは、その上位に位置づけられるプレミアムブランド「LG SIGNATURE」の新型LG Stylerが出展されました。
本機における大きな技術的変化は、庫内に搭載された「AIセンシング機能」です。ハンガーに衣類を掛けてセットすると、AIが衣類の重さを検知。衣類の量や状態に合わせて適切なケアプログラムを自動選択・実行する「AIスタイリング」や「AIドライ」を搭載しています。
本体前面の扉の横には小型の液晶ディスプレイが搭載され、最大41種類のコースをタッチ操作で切り替えながら選べます。ThinQアプリからの遠隔操作や追加コースのダウンロードにも対応しています。
LG初のヘアドライヤー「LG AirDew(エアーデュー)」も脚光を浴びていました。こちらは試作開発中のプロトタイプとして展示されていましたが、11月には韓国で発売し、以降はグローバル展開を予定しています。
本機はLGのモーター技術と気流制御の知見を活かし、用途や髪の状態に合わせて選べる2つの乾燥モードを備えています。ひとつは大風量で素早く髪を乾かすモード、もうひとつが熱によるダメージを抑えるために低温の風で乾かすモードです。
ThinQアプリを通じたファームウェアアップデート機能も備えています。本体をネットワークにつなぐことで、購入後も新しい機能を追加できます。LGの担当者によると、例えば「ペットの毛を乾かす専用モード」などを後から提供する予定があるそうです。
AIが家事を動かす時代へ、実用化を左右する三つの壁
LGエレクトロニクスが提示したブースには、AIを抽象的なビジョンに留めず、生活空間全体を構成する要素として具体化しようとする明確なコンセプトがあり、実際にサービスを体感できる展示が印象的でした。
スマートホームにおいては、とかく「AIエージェントに何ができるのか」という話題に関心が注がれがちですが、具体的な生活の負担軽減という観点では、指示を受け取ったスマート家電の側がどのように物理的な動作を実行できるかが実用性を左右します。その意味で、LGのようなハードウェアの制御技術に豊かな知見を持つメーカーが、AIエージェントを自社エコシステムと統合していく手法には合理性があります。
一方で、ThinQ Clawのグローバル展開においては、今後は各国の主要メッセージアプリへの対応や、他社製品と連携した際の挙動の安定性、セキュリティとプライバシーのバランスなど、より広く普及させるための実運用上のハードルも残されています。
「ゼロレイバーホーム」という構想が、実際の住環境の中でどこまで生活者の負担を軽減できるか。今回示された対話型エージェントとスマート家電を組み合わせる提案が、コンシューマーに受け入れられていくのか、引き続き要注目です。









