2025年4月16日22時よりNVIDIAの最新ミドルレンジGPU「GeForce RTX 5060 Ti」の発売がスタートする。特に注目すべきなのは、やはりGDDR7 16GB版と8GB版が用意されている点だろう。ビデオメモリの容量だけなら上位グレードのRTX 5070(GDDR7 12GB)を上回っている点が注目点だ。今回は16GB版を試用する機会を得たので、レビューをお届けする。
NVIDIAは2025年4月15日にRTX 50シリーズでミドルレンジに位置する「GeForce RTX 5060 Ti」と「GeForce RTX 5060」を発表した。2023年5月に発売されたGeForce RTX 4060 Ti以来のミドルレンジGPUの更新と言うこともあって、注目している人も多いだろう。
GeForce RTX 5060 TiはビデオメモリにGDDR 7 16GB版と8GB版が用意されている。8GB版の価格目安は379ドル、日本では69,800円。16GB版は429ドルで日本での価格は発表されていないが、8GB版から考えると79,800円前後ではないだろうか。一つ上のグレードであるRTX 5070の価格目安は108,800円で、原稿執筆時点ではこの価格帯の製品も流通している。RTX 5060 Tiも目安の価格となる製品がアリバイ的にごく少数出回るだけではなく、多く流通することを期待したい。
なお、GeForce RTX 5060は5月発売予定で価格の目安は55,800円だ。RTX 4060は登場時49,800円前後だったのでちょっと高くなる。昨今の為替事情を考えれば仕方のないところ。RTX 4060 Tiと同価格で登場するRTX 5060 Tiはかなり頑張っていると言える。
GeForce RTX 5060 Tiシリーズのスペック面に目を向けると、ビデオメモリ容量以外の仕様は共通だ。上位モデルのRTX 5070と比べるとCUDAコア数は約33%減り、メモリバス幅も192bitから128bitに狭くなった。ミドルレンジらしいスペックと言える。カード電力は180Wで、従来の8ピン×1基で動作できる手軽さだ。ただ、前世代同グレードのRTX 4060 Tiから若干アップしている点は気になるところ。
GPU名 | RTX 5070 | RTX 5060 Ti | RTX 5060 | RTX 4060 Ti |
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CUDAコア数 | 6,144 | 4,608 | 3,840 | 4,352 |
AI TOPS | 988 | 759 | 614 | 353 |
ベースクロック | 2.16GHz | 2.41GHz | 2.28GHz | 2.31GHz |
ブーストクロック | 2.51GHz | 2.57GHz | 2.5GHz | 2.54GHz |
メモリサイズ | GDDR7 12GB | GDDR7 16GB/8GB | GDDR7 8GB | GDDR6 16GB/8GB |
メモリバス幅 | 192bit | 128bit | 128bit | 128bit |
RTコア | 第4世代 | 第4世代 | 第4世代 | 第3世代 |
Tensorコア | 第5世代 | 第5世代 | 第5世代 | 第4世代 |
アーキテクチャ | Blackwell | Blackwell | Blackwell | Ada Lovelace |
DLSS | DLSS 4 | DLSS 4 | DLSS 4 | DLSS 3 |
NVENC | 第9世代×1 | 第9世代×1 | 第9世代×1 | 第8世代×1 |
NVDEC | 第6世代×1 | 第6世代×1 | 第6世代×1 | 第5世代×1 |
カード電力 (W) | 250 | 180 | 145 | 165/160 |
システム電力要件 (W) | 650 | 600 | 550 | 550 |
価格目安(発表時) | 108,800円 | 69,800円 | 55,800円 | 69,800円 |
Blackwellアーキテクチャについて詳しくは『DLSS 4のマルチフレーム生成の威力を見よ! ゲームとAIが融合する「NVIDIA GeForce RTX 5090」レビュー』を確認してほしい。ミドルレンジのRTX 5060 Ti/5060でも、1フレームから最大3フレームをAIによって生成するマルチフレーム生成が可能な「DLSS 4」のサポート、マウスやキーボードの入力から画面への反映ラグを従来よりも75%短縮する「NVIDIA Reflex 2」、RTX 50シリーズの第9世代NVENC/第6世代NVDECがH.264/H.265コーデックの「4:2:2フォーマット」に対応といった特徴は同様だ。なお、RTX 5070 Ti以上はNVENCを複数搭載してエンコード速度を高めているが、RTX 5070以下のグレードは1基だけになる。
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DLSS 4では1フレームに対して最大3フレームの生成を可能にするマルチフレーム生成が加わった。現在対応しているのはRTX 50シリーズのみ
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RTX 5060 Tiはマルチフレーム生成に対応することでレイテンシー(表示遅延)を抑えつつ、高いフレームレートを出すことに成功している
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RTX 5060でも同様だ。RTX 4060/3060よりも高いフレームレートを出せるとしている
性能テスト前にGainwardの「GeForce RTX 5060 Ti Python III」を紹介しておこう。なお、RTX 5070 Tiと同様にRTX 5060 TiにはNVIDIAのリファレンスモデルと言えるFounders Editionは用意されていない。
GeForce RTX 5060 Ti Phoenix GSはトリプルファンを搭載してカード長は292mm長めだが、2スロット厚で重量は筆者の実測で713gと軽い。比較的取り回しをしやすいカードだ。
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GeForce RTX 5060 Ti Python IIIのブーストクロックは2572MHzと定格仕様だ
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3連ファンを採用している
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補助電源は従来の8ピン×1と古めの電源でも使いやすい
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重量は713gと3連ファンのモデルとしてはかなり軽い
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同社のGeForce RTX 5070 Ti Phoenix GSとの比較。かなり薄いのが分かる
マルチフレーム生成で超重量級ゲームでも4Kで快適に遊べるパワー
さっそく性能チェックに移ろう。テスト環境は以下の通りだ。比較対象としてGeForce RTX 5070/4060 Ti/3060 Tiを用意した。ドライバに関しては、RTX 5060 Tiはレビュワー用に配布された「Game Ready 575.94」を使用、それ以外は「Game Ready 572.83」を使用している。
- CPU:AMD Ryzen 7 9800X3D(8コア16スレッド)
- マザーボード:ROG CROSSHAIR X870E HERO(AMD X870E)
- メモリ:G.SKILL TRIDENT Z5 neo RGB F5-6000J2836G16GX2-TZ5NRW(PC5-48000 DDR5 SDRAM 16GB×2)
- システムSSD:Micon Crucial T700 CT2000T700SSD3JP(PCI Express 5.0 x4、2TB)
- CPUクーラー:Corsair NAUTILUS 360 RS(簡易水冷、36cmクラス)
- 電源:Super Flower LEADEX III GOLD 1000W ATX 3.1(1,000W、80PLUS Gold)
- OS:Windows 11 Pro(24H2)
まずは、3D性能を測定する定番ベンチマークの「3DMark」から見ていこう。
RTX 5070に対しては40%以上スコアを落としているテストもあり、ビデオメモリが多くても基本性能の差は埋められない。前世代のRTX 4060 Tiに対してはしっかりとスコア向上を果たしている。
続いて、実際のゲームに移ろう。まずは、DLSS 4のマルチフレーム生成に対応しないタイトルから定番FPSの「オーバーウォッチ2」、ハンティングアクション「モンスターハンターワイルズ」の公式ベンチマークを試そう。オーバーウォッチ2はbotマッチを実行した際のフレームレートを「FrameView」で測定している。
なお、今回用いているDLSS SR/FSR SRという表記はSuper Resolutionの略で、モンスターハンターワイルズだけは画質ウルトラのプリセットに従って「クオリティ」設定を採用しているが、それ以外のゲームではすべて「パフォーマンス」設定だ。FRはFrame Generationの略でフレーム生成を指す。MFGはMulti Frame Generationの略でDLSS 4のマルチフレーム生成を指し、1フレームに対して3枚の生成をMFG x4と表記している。
オーバーウォッチ2は、アップスケーラーやフレーム生成を使っていないので、従来からのラスタライズ性能比較と言える。RTX 4060 Tiに対しては13~28%ほどフレームレート向上を果たしている。素の性能も向上していると言ってよいだろう。
このクラスのゲームなら4Kでも快適にプレイできるフレームレートを出せる。モンスターハンターワイルズの最高画質は大容量のビデオメモリを求めるが、それでもRTX 5070には届かない。4Kで平均58.6fpsなので何とかプレイ可能だ。
続いてDLSS 4のマルチフレーム生成に対応したゲームを実行していこう。「マーベル・ライバルズ」、「ホグワーツ・レガシー」、「サイバーパンク2077」、「アサシン クリード シャドウズ」を用意した。
マーベル・ライバルズは訓練場の一定コースを移動した際のフレームレート、ホグワーツ・レガシーは寮内の一定コースを移動した際のフレームレート、サイバーパンク2077はゲーム内のベンチマーク機能を実行した際のフレームレート、アサシン クリード シャドウズはバゲーム内のベンチマーク機能を実行した際のフレームレートをそれぞれ「FrameView」で測定している。
マルチフレーム生成の威力は高く、多くのゲームと解像度でRTX 4060 Tiよりも2倍以上のフレームレートを出している。サイバーパンク2077のレイトレーシング:オーバードライブという強烈な負荷の設定でも4Kで平均87.1fps出せるのは凄いところだ。
なお、RTX 3060 TiがRTX 4060 Tiを上回るフレームレートを出している箇所があるが、これはFSRのアップスケーラーとフレーム生成のほうがフレームレートを高めやすいのが原因だろう。FSRのフレーム生成に対応していないホグワーツ・レガシーでは、RTX 3060 Tiはフレーム生成に対応できず、DLSSのアップスケーラーしか適用できないのでフレームレートが伸びていない。このあたりは旧世代の弱さが出ている。
CGレンダリングや画像生成も試す
続いて、3DCGアプリの「Blender」を使ってGPUによるレンダリング性能を測定する「Blender Open Data Benchmark」を実行しよう。
一定時間内にどれほどレンダリングできるかとスコア化するテストだ。ここではCUDAコア数の多さが効くので順当な結果となっている。
AI処理はどうだろうか。LLM(大規模言語モデル)の処理性能を見るProcyon AI Text Generation Benchmark、さまざまな推論エンジンを実行してスコアを出すProcyon AI Computer Vision Benchmarkを試した。
注目はAI Text Generation Benchmarkでパラメーターが大規模になるLlama-2-13Bだろう。ビデオメモリ量が重要になり、GeForce RTX 4060 Ti/3060 Tiではそもそも動作せず、12GBのRTX 5070を上回った。ビデオメモリ量を求めるAI処理では、16GBが効いてくるという分かりやすいケースだ。そのほかは順当と言える結果だ。
消費電力はRTX 4060 Tiよりも増加
ここからはRTX 5060 Tiカード単体とシステム全体の消費電力をチェックしよう。カード単体はビデオカードの消費電力を実測できるNVIDIAの専用キット「PCAT」を使用した。サイバーパンク2077の各解像度での消費電力を測定している。システム全体はOS起動10分後のアイドル時とサイバーパンク2077実行時の最大値を計測している。電力計にはラトックシステムの「REX-BTWATTCH1」を使用した。
カード単体の消費電力でスペック通りという順序だ。RTX 3060 Tiの消費電力の大きさが改めて分かるところ。性能面を考えればマルチフレーム生成時のRTX 5060 Tiの電力効率は悪くない。システム全体の消費電力も同じ傾向だ。
と、ここまでがGeForce RTX 5060 Tiのテスト結果だ。前世代の同グレードRTX 4060 Tiよりも消費電力は増えているが、素の性能(ラスタライズ処理)でもしっかり性能向上を果たしており、マルチフレーム生成によって4K/最高画質でもプレイできるだけのパワーを持つ。16GBが効くのはAI処理など限定的ではあるが、汎用性がよりアップするのは確か。ゲームにもAIにも向くと、かつてビデオメモリ12GBを搭載していたことでAI用途で人気のあったRTX 3060のようなポジションに付くのではないだろうか。