Dynabook社が2月19日に名古屋で「dynabook Days 2025」を開催した。ビジネスユーザー向けに“AI PCとしてのdynabookを訴求するこのイベントは名古屋の他に大阪で開催している。

また、個人ユーザー向けにも同様の訴求を目的としたイベントとして「ダイナブック大作戦」を2024年8月の秋葉原、11月の大阪梅田と開催。そういう意味でdynabook Days 2025 名古屋は、AI PCとしてのdynabookを訴求するイベントの締めくくりといえる。

そのタイミングに合わせて、Dynabook執行役員ソリューション事業本部事業本部長の熊谷 明氏に話を伺う機会を得た。

  • Dynabook執行役員ソリューション事業本部事業本部長の熊谷明氏。ぱらちゃんの“生みの親”でもある

熊谷氏が統括するソリューション事業本部は、ユーザーに対して利活用のため、もしくは課題解決のためにそれぞれ必要な支援を提供することを使命としている。

具体的にはキッティングやライフサイクルマネジメントに係るPC運用サービスといったPCと非常に近いところから、少し離れたところでは倉庫でのピッキング作業に支援、最近では通信機能を組み込んだドライブレコーダーを活用する安全管理まで「いろいろな分野でサービスを提供しているような事業部です」(熊谷氏)

  • 通信機能を組み込んだドライブレコーダーを活用する安全管理ソリューション。配下車両の現在位置と運転履歴(急ブレーキや無理な車線変更などの危険運転)などを把握して運転者ごとに管理する

熊谷氏はDynabookとなる前の東芝PC事業部時代からDynabookにかかわっている。元々はソフトウェアエンジニアで東芝の青梅工場(青梅事業所。Dynabookの開発と製造がスタートした“聖地でもある)で働いていた。「ずっとソフトウェアの開発をしておりまして。“ぱらちゃん”とか」(熊谷氏)

ぱらちゃんはdynabookにプリインストールされているアクセサリーソフトで、無機質な言い方をすれば、メール着信通知とスケジュール通知機能を有している。それ以外の「用のないとき」はデスクトップ画面の中を気ままに泳いだり寝ていたりするデジタルペットのような存在だ。話しかける(テキストベースで)と会話に応じることもできる。dynabookにおける“AI”(ぱらちゃん開発当時の言葉でいうとニューロコンピューティング)を応用したコンパニオンユーティリティにつながるキャラクターの生みの親ともいえる。「AIとまで言えないですけれどね」(熊谷氏)

先日掲載したDynabook商品統括部統括部長の須田淳一郎氏と、Dynabook商品統括部グローバル商品開発部 開発第三担当(筆者注:ソフトウェア開発担当)グループ長の渡辺淳史氏のインタビューでも紹介したように、DynabookではインテルやマイクロソフトがAI PCを訴求する“はるか”以前からクライアントPC(エッジPC)におけるAI活用を視野に入れてきた、その出発点にして、今もその姿を追い続けている主要メンバーの一人が熊谷氏といえるだろう。

その熊谷氏から見て、AI PCという言葉は多くのPCユーザーに対して的確に届いていると感じているのだろうか?

熊谷氏は、AI PCに対する来場者の認識が「深くなってきている」という。「最初はAIがなんなのかをわからなくても、ハードウェアのNPUが載ります/AI演算で省電力になります/ローカル環境でAI演算ができますという話から入っていくと、ユーザーの認識がだんだんと深くなってきて、今は、自分の業務でどういうところにAIが活用できるのか考えるところまでユーザーの認識が進んできているのです」(熊谷氏)

  • Intel Core Ultraプロセッサー(シリーズ2)によるNPU搭載メリットを訴求するデモ。画像生成におけるAI演算処理速度が大幅に向上しただけでなく(右の非搭載PCが演算途上なのに対して左の搭載PCはほぼ終了)、消費電力も削減してバッテリー駆動時間が倍以上改善された

ただ、多くのユーザーからローカル環境におけるAIの利活用について具体的な考えが出てくるところまでは「まだまだですね」(熊谷氏)の段階だという。「ローカルで速いとかセキュリティはいいですよという訴求はしますが、やはりできることは(クラウトAIと)あまり変わらない」(熊谷氏)

この状況下においてローカル環境で使えるAI PCの存在意義を訴求するのが「AIエージェント」という見方を熊谷氏は示している。「ユーザーの業務を当事者に代わって(AIエージェントで)こなすことがだんだんできるようになってきているのです」(熊谷氏)

dynabook Days 2025でも、AIエージェントを使ってユーザーの業務プロセスを自動化していくことで、ユーザーのやれることが増えてきているところを実際に体験できるワークショップを多数実施していた。

  • 会場に設けられた生成AI利活用ワークショップ。生成AIによる業務改善アプリのノーコード開発を「Dify」で体験できた

ローカル環境で利用できるAIを訴求するとき、現時点ではどうしてもクラウド環境で利用できるLLMによるAI利活用のインパクトが強烈で、そのギャップをどう埋めるのかが問題なるのではないだろうか。これについて熊谷氏は「やはりAIはなんでもできるという認識を持つユーザーも多い」とした上で、これは時間が解決するという認識と共に「国家予算規模の投資をしていくことでやれることが毎年10倍、100倍と進化していくような状況」という。「この2年後、非常に大きな進化があると思うのです。今できないと思っても1年後、2年後に大きな進化があってできるようになっていると思います」(熊谷氏)

ただ、その一方でAI利活用では「うまく使える人がやはり成果を出せる。うまく使えない人は成果が出せない」(熊谷氏)といった2極化が進む可能性もあるという。「多くの人は興味を持つのはAIによるチャットボット。でもクラウドのチャットボットはコストがかかりますから、投資対効果としては成果が出ずうまくいかないと認識されてるユーザーももいます」(熊谷氏)

そうはいっても非常に進化が速いが故に、AIエージェントを早期に導入して多くのスタッフに使わせることで、1人1人の業務を効率化できるアプリケーションをスタッフが自分で開発できるようになると、急激に業務改善が進むとも熊谷氏は指摘する。ただ、「それを本当にできているのは日本の企業のごく一部」というのが現状だという。

数少ない成功例では、AIを熟知しているキーマンがスタッフを教育する専門部署を設け、現場のスタッフが実際に業務改善アプリケーションを開発して業務を自動化している。「やれている企業はあるんですけど、多分日本ではごく一部で、やはり(AI利活用は)まだまだですね」(熊谷氏)

最近になって、生成AIを導入して業務を改善したいという問い合わせが増えているが、多くのケースで「自分の業務を生成AIでどう改善したいとか、どういうことを実現したいとか、今までできなかったことをやりたいと希望が挙がりますが、具体的なイメージを持った人は非常に少ない」(熊谷氏)という。そのようなときは、「業務内容を聞いて、生成AIを利活用したノーコードで一緒にアプリケーションを作りながら提案するなど、AI導入に向けた支援をしていきたいと思ってます」(熊谷氏)

要するに生成AIの提案では、業務全般を包括するビジネスコンサルティング的視点が必要となる。Dynabookではそのような視点を持つAIコンサルチームを育成中という。

Dynabookでは独自に目指してきた「優秀なアシスタント」「愛着あるパートナー」たるAI PCの姿がある。熊谷氏は、Dynabookが目指すAIソシューションの構成として「AI PCと言われてるクライアントPCとサーバー」の組み合わせを示す。ここでいうサーバーはLLMを導入したクラウドではなく、dynabook Days 2025会場でも展示されていた「70ビリオン(700億)クラスのLLMが動作する」(熊谷氏)、ワークステーションタイプより1ランク上に相当するハードウェアを想定。“閉じた”環境で安全に使えるその環境に、さまざまな業務を改善するアプリケーションをノーコードで開発できるツールも提供し、スタッフ自身で自分の業務を改善できるサービスも含めて提供する予定だという。

「情報の効率的な分析にAIを活用するエージェントと言われるところを支援させていただきながら、DynabookでできるクライアントのAI PCとオンプレミスのサーバーワークステーションをご提供していく予定です」(熊谷氏)

  • オンプレミス環境で利用できるワークステーションには70ビリオンクラスのSLMを載せて“閉じた”環境で安全に使える生成AIソリューションを構築していた

  • dynabook Days 2025ではAI PC以外にもDynabookの取り組みが紹介されていた。こちらはLCMソリューション展示。とくにキッティング対応で西日本担当拠点が新設予定で、その稼働開始によって法人向けPCの出荷能力が1.5倍近く増強されるという

  • こちらは教育現場向けdynabook Kシリーズ。従来のベージュと異なる「ラベンダー」カラーのDynabook Chromebook C1も展示していた。学校だけでなく個人ユースやオフィスユースでも映えそう&違和感のないカラーリングだ

  • 最近の2-in-1 PCにありがちなキックスタンド方式ではなくクラムシェルスタイルなので設置面積が少なくて済み教室の机にもおさまりがよい。現場を知るからこそできる選択だろう

  • “完成間近”のスマートグラス「dynaEdge XR1」も展示。その画質は広く明るくかつ精緻

  • Dynabookイベントで定番となったこれまでのエポックモデルの実機展示

  • Dynabook“初号機”の「SS001」と最新の「R9 2024年モデル」のパーツを並べて35年の進化を訴求した