ソフトバンク内で多種多様な新技術を研究する組織「先端技術研究所」が、脳オルガノイドと呼ばれる人工の脳細胞を次世代のコンピュータとして利用する研究を進めています。半導体と比べて圧倒的に低消費電力であること、AIのように正解のデータを与えなくても脳オルガノイド自体が推測することなど、担当者は「40~50年後には現在のCPUやGPUを置き換える存在になり得る」と語ります。

まだ事業化にはほど遠い研究レベルですが、脳オルガノイド自体や脳オルガノイドのポテンシャルをリアルに確認できる特別な展示イベント「Brain Processing Unit-生命とコンピューターが融合する未来-」が2月1日から始まります。

  • ソフトバンクは脳オルガノイドを「BPU」(Brain Processing Unit)と命名し、生命とコンピューティングが融合するとみている

今回のイベントは、アーティストの真鍋大度さんと、東京大学 生産技術研究所で分子細胞工学分野を担当する池内与志穂准教授、ソフトバンク先端技術研究所が企画したもの。会場内には、1cmほどの大きさになった脳オルガノイドの実物や、脳オルガノイドに電気刺激を与えたり微細な電気の変化を計測してを信号に変換する装置が展示されています。

  • アーティストの真鍋大度さん(左)と、東京大学 生産技術研究所の池内与志穂准教授(右)

  • 培養液に浸けられた脳オルガノイド

  • 脳オルガノイドは1cmほどの大きさになっている

  • 脳オルガノイドに電気の刺激を与えたり、活動電位を計測するための装置

  • 小さな脳オルガノイドが載っているのが分かる

脳オルガノイドは、微細な電気を流して刺激を与えると、電気の状況によって発生する電位が変わることが分かっています。与えた刺激と反応を計測することで、コンピューターと同様の処理能力が得られるとしています。

  • 半導体を使うスーパーコンピュータと比べ、脳オルガノイドは圧倒的に省電力で、学習能力も高いという

  • 現状の脳オルガノイドは生まれたての赤ちゃん程度の反射能力を持つ存在だとしている

犬型の4足歩行ロボットを用いた展示コーナーでは、天井に設置したカメラからロボットの位置を取得し、ロボット前方に障害物(壁)が迫ってくると刺激が少なくなるよう電気を脳オルガノイドに与え、障害物にぶつかる前に歩みを止めるデモンストレーションを実施。脳オルガノイド自体は東京大学の研究室にあり、インターネット経由で情報をやり取りする仕組みでしたが、ロボットは壁に衝突することなく歩き回っていました。

  • 脳オルガノイドが4足歩行ロボットを壁にぶつからないよう制御する展示

  • システムの概要。脳オルガノイドは環境変化に弱いため、東大に設置したものをインターネット経由で用いている

別の展示は、ドラムのリズムに合わせて脳オルガノイドに電気刺激を与え、そのリズムを学習した脳オルガノイドがどのような反応を返すか、という内容です。最初に与えたリズムのようなパターンの反応が返ってきて、脳オルガノイドがリズムを認識していることが確認できます。

  • 画面と音で脳オルガノイドが生成したリズムが確認できる

もう1つの展示は、クラシックやテクノなど異なるジャンルの音楽を光の刺激に変換して聞かせることで、反応にどのような違いが現れるのかを確認する内容です。

展示イベントの会期は2月1日(土)~2月9日(日)で、会場は東京・恵比寿の「fil」。参加は無料ですが事前の申し込みが必要で、申し込んだ人に会場の場所を通知します。

  • 写真を中心とした研究展示のコーナーも。写真はソフトバンク 先端技術研究所長の湧川隆次さん