こんにちは。eスポーツライターの小川翔太です。

昨今、eスポーツでの「高齢者の社会進出」の成功事例が増えています。

日本初のシニアプロゲーミングチーム「MATAGI SNIPERS(マタギスナイパーズ)」は、60歳以上のプレイヤーのみで構成されていることで話題になりました。

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    平均年齢69歳のeスポーツチーム「マタギスナイパーズ」

一方では、高齢者の孤立化、孤独死も問題となっています。

そんな中、2025年1月10日から12日まで「東京eスポーツフェスタ2025」が開催されました。イベントは、eスポーツの活性化を図る「eスポーツ競技大会」、eスポーツ関連産業の振興を図る「eスポーツ関連産業展示会」、eスポーツや関連技術などについて学べる「eスポーツのセミナー・学習企画」などの企画で構成されます。

パネルディスカッションでは、「みんなが活躍できるeスポーツ」「共生社会実現に向けたeスポーツの活用」にてeスポーツによる共生社会の実現について話し合われました。

私たちの「老後」、eスポーツは何をしてくれるのでしょうか。有識者たちの発言をもとに、考えてみました。

孤立化する高齢者たち――。孤独死は1.6倍に増加

文部科学省出身の元キャリア官僚であり、現在は新潟県三条市の副市長である上田泰成氏は、同市の「高齢化率の増加」を課題として、eスポーツによる高齢者の社会参加に取り組んでいます。

上田氏は「(市内で)一人暮らしの高齢者が増えている」と話しました。

実際、日本全体でも65歳以上の一人暮らしは増加傾向にあり、65歳以上の男女それぞれの人口に占める一人暮らしの割合は、昭和55年は男性4.3%、女性11.2%でしたが、令和2年は男性15.0%、女性22.1%に増加しています

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    上田泰成氏(新潟県三条市 副市長)

一人暮らしの増加は、誰にも看取られることなく息を引き取り、その後、相当期間放置されるような「孤立死(孤独死)」の増加にもつながります。

「孤立死」の明確な定義はなく、全国的な統計が存在しているわけではありませんが、東京都監察医務院が公表しているデータによると、東京23区内における一人暮らしの65歳以上の自宅での死亡者数は、平成14年の1,364人から20年の2,211人と1.6倍に増加しています

一般社団法人 東京都作業療法士会の理事を務める楠本直紀氏によると「高齢者は社会との関係性が希薄になりやすい」とのことです。

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    楠本直紀氏(東京都作業療法士会 理事)

高齢者を孤独から解放する――。「若者」という切り札

高齢者を孤立から解放する手段として、eスポーツが注目されているのは、高齢者同士がeスポーツで社会に接続できるからでしょう。

一方、本音では「eスポーツに興味がない」という高齢者も多いはず。ただ、eスポーツのポテンシャルの高さは、そういった「eスポーツにネガティブな高齢者」も巻き込めるところにあります。

キーワードは「若者」です。

上田氏は「高齢者にとって、高校生(若者)と関わる時間は貴重である」と話します。

また、eスポーツ系のイベント実施後、参加した高齢者たちにアンケートを取ると「若い人たちと触れ合えて楽しかった」の回答が多いそうです。

eスポーツの強みは「eスポーツ」「(eスポーツ好きの)若者」の2軸を媒介として、高齢者を社会参加させられることにあります。

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    東京eスポーツフェスタ会場のeスポーツ体験コーナーの様子

囲碁将棋の弱体化――。若者の人気はeスポーツ

「高齢者」と「若者」の世代間交流にeスポーツが注目されてきた背景には、囲碁と将棋の参加人口の減少も影響しているでしょう。

日本生産性本部「レジャー白書2024」によると、囲碁の参加人口は近年ピークの2009年から8割減、将棋の参加人口は2009年から6割減となっています。

レジャーの多様化により、日本の伝統的なボードゲームが、世代間交流のツールとして、機能しなくなったといえます。

上田氏は「eスポーツは、囲碁や将棋よりも多世代交流に向いている」と発言されています。

若者が「高齢者が慣れ親しんだ娯楽」を遊ばなくなったことで、今までの世代間交流を維持するためには、高齢者が「若者がいま楽しんでいる娯楽」に歩み寄らなければならなくなったともいえます。

高齢者はどこでeスポーツをやるのか――。「年齢」で3つに分類される

では高齢者は「いつ?」「どこ?」でeスポーツをやるべきなのでしょうか。

日本アクティビティ協会 理事長の川崎陽一氏が提唱する「健康ゲーム」という概念は、「高齢者が日中に公共の場でeスポーツをプレイする」ということです。

さらに川崎氏は高齢者にeスポーツをプレイさせるには「3層に分けた実施場所」が必要だと話します。

・65歳の高齢者「健常層」はイベント会場(民間企業との連動)
・75歳の高齢者「予防層」は自治体
・85歳の高齢者「介護層」は介護施設

それぞれにカスタマイズされた環境が必要とのことです。

また川崎氏によると、高等学校のeスポーツ部が3年間で18倍(514校)に増えており「高校生が高齢者にeスポーツを教える」という交流の場も増えてきているそう。上田氏が話す「高齢者と若者の交流の場」が増えているといえます。

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    川崎陽一氏(日本アクティビティ協会 理事長)

eスポーツが「高齢者」に活躍の“場”を与え――。高齢者が「eスポーツ」に活躍の“場”を与える

ちなみに「具体的にどのeスポーツをやればいいのか?」問題ですが、上田氏と川崎氏ともに「高齢者支援という点では『太鼓の達人』が最も適している」と話をしました。

昨今、日本のeスポーツシーンは『Valorant』と『ストリートファイター』が人気ですが、「世代間交流」という観点では「操作が簡単」「暴力的でない」といった要素から、ほかのeスポーツに軍配が上がります。

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    高齢者支援という点では『太鼓の達人』が最も適している

eスポーツによる世代間交流は、必ずしも「高齢者の社会参加」を促すだけではなく、eスポーツ市場の拡大という点でも良い効果をもたらします。

現状のeスポーツの楽しみ方である「大会」「観戦」「推し活」に加えて、「高齢者の社会参加」という切り口が加わると、より多種多様なeスポーツに焦点が当たることでしょう。

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