シャープが発表した2024年度第1四半期(2024年4月~6月)の連結業績は、売上高が前年同期比1.7%減の5319億円、営業利益は前年同期のマイナス70億円の赤字から12億円改善したものの、マイナス58億円の赤字。経常利益は前年同期のマイナス5億円の赤字から大幅に悪化し、マイナス101億円の赤字。当期純利益は前年同期の55億円の黒字から、マイナス12億円の赤字に転落した。

  • 【決算深読み】シャープ 2024年4月~6月決算は依然赤字、再建へブランド強化と新工場

    シャープ 2024年度第1四半期(2024年4月~6月)の連結業績

シャープの沖津雅浩社長兼CEOは、「ブランド事業は、総じて好調に推移し、すべてのセグメントで売上げが伸長し、2桁の増収となった。営業利益は、円安によるマイナス影響があるなか、20%を超える増益を確保した。一方、アセットライト化を進めているデバイス事業は、減収となったものの、営業利益は前年同期並みの赤字幅にとどまった。その結果、全体では売上高がやや減少し、営業赤字が縮小した」と総括した。

  • シャープの沖津雅浩社長兼CEO

セグメント別業績では、ブランド事業の売上高が前年同期比15.1%増の3441億円、営業利益は23.6%増の145億円となった。そのうち、スマートライフ&エナジーは売上高が前年同期比3.0%増の1099億円、営業利益は27.2%減の50億円となった。

「白物家電事業は、国内で美容家電が好調であり、前年比2倍の伸びとなっており、シェアが最も拡大している領域である。エアコンも伸長し、業界全体が11%増に対して、20%以上の成長となっている。たが、需要が低調だった洗濯機などが前年同期実績を下回った。海外では、ASEANにおいて、エアコンに加えて、冷蔵庫や洗濯機が好調であり、大きく伸長。欧米では、高付加価値モデルを中心に調理家電が伸長し、増収となった。また、エネルギーソリューション事業ではEPC(Engineering Procurement and Construction)が減少した」という。

同社では、メーカーが在庫を保証しながら、価格を指定して販売する指定価格制度は行っていないが、「販売店との取り決めはないが、オンリーワン商品の投入によって、価格を維持することに取り組んでいる。これにより、商品のライフサイクルを2年以上にすることも開始している」と語った。

  • セグメント別の売上高

  • セグメント別の営業利益

スマートオフィスは、売上高が前年同期比22.9%増の1556億円、営業利益は168.1%増の84億円。ビジネスソリューション事業、PC事業ともに増収となった。

「ビジネスソリューション事業では、MFPやオフィスソリューション、インフォメーションディスプレイが欧米を中心に伸長。PC事業は、個人向けPCは厳しい状況が続いているが、法人向けプレミアムモデルが引き続き好調で、PCの選定から調達、導入、展開、運用、保守、撤去、更新までをトータルで請け負うLCM(Life Cycle Management)サービスも徐々に拡大。国内で法人および官公庁市場でシェアを拡大した。だが、PCは部材価格の高騰や円安の影響を受けている」とした。また、営業利益については、「PC事業およびオフィスソリューション事業の高付加価値化と、インフォメーションディスプレイ事業の構造改革によるコスト削減により、大幅な増益になった」という。

ユニバーサルネットワークは、売上高が前年同期比19.5%増の785億円、営業利益は35.1%減の11億円となった。「テレビ事業は、市場が低調に推移するなか、国内では高付加価値モデルが好調であり、欧米でも前年実績を上回った。通信事業ではスマホの販売台数、金額ともに伸長した。しかし、円安によるマイナス影響が大きく大幅な減益になった」という。

一方、デバイス事業の売上高は前年同期比22.0%減の1986億円、営業利益は前年同期並みのマイナス152億円の赤字。そのうち、ディスプレイデバイスは、売上高が前年同期比26.9%減の1252億円、営業利益は前年同期のマイナス172億円の赤字に対して、マイナス171億円の赤字と若干の改善。「大型ディスプレイは増収となったが、PCやタブレット、スマホ向けなどの中小型ディスプレイが減収となった。また、大型ディスプレイの赤字は縮小。中小型ディスプレイの利益は悪化している」という。

  • ディスプレイデバイスでは、大型ディスプレイの赤字は縮小したものの、中小型ディスプレイの利益が悪化

エレクトロニックデバイスは、売上高が前年同期比11.9%減の733億円、営業利益は前年同期比7.9%減の19億円。「半導体レーザーは、車載向けに新規採用があったが、センサーモジュールの顧客需要が変動し、マイナスの影響となった」としている。

2024年度(2024年4月~2025年3月)連結業績予想は据え置き、売上高は前年比9.6%減の2兆1000億円、営業利益は100億円、経常利益も100億円と、いずれも黒字転換。当期純利益も50億円の黒字化を目指す計画に変更はない。

沖津社長兼CEOは、「第1四半期業績が想定通り進捗していることから、通期予想は据え置いた」とし、「シャープは、下期に売上高が上昇する傾向にある。デバイス事業も下期から受注があがることになる。第1四半期、第2四半期は厳しいと見ているが、第3四半期以降で挽回することになる」と述べた。

  • 下期挽回の見通しで、通期の連結業績予想は据え置いた

シャープでは、2027年度を最終年度とする中期経営方針において、2024年度を「構造改革」の1年と位置づけ、デバイス事業のアセットライト化と、ブランド事業に集中した事業構造の確立に取り組んでいる。その進捗状況についても説明。「中期経営方針を着実に実行し、業績の改善、中期的な企業価値の改善に取り組む」とした。

  • デバイス事業のアセットライト化

デバイス事業のアセットライト化では、SDP(堺ディスプレイプロダクト)において、大型ディスプレイパネル生産の最終投入が7月28日に行われ、8月20日前後に生産が終了。2025年3月までにモジュールとして販売を行い、在庫をゼロにする計画だという。液晶の生産に関わってきた約500人の社員に対しては、社外転身支援プログラムを適用し、社員の再就職支援はほぼ完了したという。

また、大型ディスプレイパネル工場をAIデータセンターに転用。それに向けてソフトバンクおよびKDDIなどと話し合いを進めていることにも触れた。

「ソフトバンクに対しては売却し、AIデータセンター事業の主体はソフトバンクになる。そのなかで協業できることがないかということを検討している」と述べた。

SDTC(シャープディスプレイテクノロジー)が担当している中小型ディスプレイパネル事業では、5月14日に発表した「亀山第二工場/三重第三工場の生産能力調整」および「堺工場OLEDラインの閉鎖」の計画を、2024年6月末までにすべて完了。7月9日には、三重第一工場を半導体後工程の生産ラインに転用することに関して、半導体関連企業のアオイ電子と基本合意。さらに複数社と話し合いを行っていることも明らかにした。

「中小型ディスプレイパネル事業の一部社員を、工場立ち上げノウハウや生産技術が活用できる複数社の企業に派遣し、仕事をするというプログラムをスタートしている。2024年9月末までに150~160人を対象に実施する。技術者については、社内の他部署への再配置の検討を進めている」という。

また、エレクトロニックデバイス事業では、カメラモジュール事業を行っているSSTC(シャープセンシングテクノロジー)と、半導体事業を担当するSFL(シャープ福山レーザー)を、2024年度中に、鴻海に譲渡することを発表。沖津社長兼CEOは、鴻海の劉揚偉董事長と定期的にミーティングを行い、具体的協議を進めていることを明らかにした。鴻海グループでのスマホ生産において、カメラモジュール事業との親和性が高いと判断。鴻海による投資を継続することで、カメラモジュール事業を強化できると見ている。

「アセットライト化は、2024年度の最重要経営課題のひとつであり、引き続き全力をあげて取り組む」と述べた。

一方、ブランド事業の強化では、「ここ数年は、デバイス事業への投資が7割に対して、ブランド事業への投資は3割に留まっていたが、2024年度以降は5割にまで引き上げる。生産や販路における協業への投資、新製品開発や金型をはじめとした生産への投資を進める」と語る。

  • ブランド事業に集中した事業構造の確立

7月25日に、エジプトのエルアラビと、エジプト国内に、冷蔵庫の新工場を共同で建設することで合意。エジプトの旺盛な需要を取り込むとともに、アフリカや中近東への輸出事業の拡大を図ることを発表している。計画では、600L以上の大型冷蔵庫を生産。2027年度にはエジプト市場で約50万台の販売を目指す。

エルアラビは、エジプトにおけるシャープのパートナー企業で、2004年から、家電製品の製造販売を委託。この協業の成果もあり、エジプトにおいて、シャープブランドの冷蔵庫とエアコンは、シェアNo.1を獲得しているという。

  • エジプト・エルアラビとの新工場建設の契約締結式の様子。前列左から、シャープの沖津雅浩社長兼CEO、エルアラビのイブラヒム・マーモウド・エルアラビ会長。後列中央がエジプトのモスタファ・マドブーリー首相

さらに、2024年6月には、台湾の産業コンピュータ分野大手であるENNOCONNと、スマートリテールを中心とした協業に関する覚書を締結。第1弾として、POSシステムやスマートタグ、デジタル広告などを組み合わせたサービスの共同開発を推進。中長期的には、店舗や商業ビル向けのエネルギーマネジメントなど、リテール分野以外にも範囲を拡大するという。また、この協業では、台湾を皮切りに、日本および東南アジア地域においても事業を展開することになる。

沖津社長兼CEOは、「グローバルでのブランド事業拡大に向けて、他社との協業を加速していく」と語った。

なお、シャープでは、9月17日、18日の2日間、東京・有楽町の東京国際フォーラムにおいて、「Tech-Day’24 Innovation Showcase」を開催する。沖津社長兼CEOは、「AIやEV、グリーンエナジー、インダストリー、コミュニケーションの分野を中心に、Next Innovationの探索を進めており、Tech-Dayでは、こうした取り組みの一端を見せることができる」とした。

  • 「Tech-Day’24 Innovation Showcase」を開催

「シャープは、誠意と創意を掲げ、他社に真似される商品を作り、ブランドを向上させていく。改めてブランド事業を強化することが、シャープらしさの本質につながる」とも述べた。