欧州の新たな大型ロケット「アリアン6」が、2024年7月10日、南米仏領ギアナのギアナ宇宙センターから飛び立った。

アリアン6は、これまで欧州の主力ロケットだった「アリアン5」の後継機で、低軌道から深宇宙まで、さまざまな打ち上げに対応できる高い柔軟性を特徴としている。

予定していたミッションすべてをこなすことはできなかったものの、試験飛行としては成功といえる成果を残し、欧州における宇宙輸送の自立性を回復し、そして宇宙ビジネスでシェアを維持するためための、大きな一歩を踏み出した。

  • ギアナ宇宙センターを飛び立ったアリアン6ロケット (C) ESA

    ギアナ宇宙センターを飛び立ったアリアン6ロケット (C) ESA - S. Corvaja

アリアン6とは?

アリアン6 (Ariane 6)は、欧州宇宙機関(ESA)、フランス国立宇宙研究センター(CNES)、そして民間企業のアリアングループなどが共同で開発している次世代ロケットである。

2010年代の初頭からさまざまな検討が繰り返され、2014年に開発が承認された。その後、設計をめぐって紆余曲折があったものの、2016年に開発が本格化した。

アリアン6は、これまで欧州が運用してきた大型の「アリアン5」と、中型の「ソユーズ」ロケットの後継機に位置付けられている。アリアン5では静止衛星を2機搭載して打ち上げることで、衛星1機あたりにかかる打ち上げ費用を抑える特徴をもち、欧州の自立的な宇宙輸送を担ったほか、商業打ち上げ市場でも高い存在感を発揮し、ビジネスでも大成功した。ソユーズはロシアから輸入して運用していたロケットで、主に中型衛星の打ち上げに使っていた。

しかし、アリアン5は主に価格面で国際競争力が低下し、一方ソユーズは、ロシアに依存する危険性が問題視された。後者については実際に、ロシアのウクライナ侵攻によってソユーズが使えなくなる事態が発生したことで現実化した。

こうしたことから、アリアン5の2機同時打ち上げが可能という特徴を受け継ぎつつ、コストダウンを図り、そのうえソユーズの代替機にもなるロケットして、アリアン6は設計された。

機体構成は「アリアン62」と「アリアン64」の大きく2種類が用意され、アリアン62は固体ロケット・ブースターを2基、64は4基装着する。このモジュール式の設計により、たとえば62で中型、大型の衛星を1機のみ打ち上げたり、64で衛星を2機同時に打ち上げたりと、さまざまなミッションに対応できる高い柔軟性を特徴としている。

また、このブースターは、運用中の小型ロケット「ヴェガC」の第1段と共通化し、コストダウンも図っている。

全長は最大(64の場合)で62m、直径は5.4mで、地球低軌道に最大21.6t、静止トランスファー軌道へは最大11.5tの打ち上げ能力をもつ。

  • アリアン6には62(上)と64(下)の2種類の構成がある

    アリアン6には62(上)と64(下)の2種類の構成があり、さまざまなミッションに対応できる高い柔軟性を特徴としている (C) ESA - D. Ducros

アリアン6の特徴

アリアン6はロケットだけ見ると、アリアン5と比べ、それほど目新しい部分はない。たとえば第1段エンジンの「ヴァルカン2.1」は、アリアン5が使っていたヴァルカン2の改良型であり、第2段エンジンの「ヴィンチ」も、もともとアリアン5の改良型の「アリアン5 ME」で使うために開発されたものの、MEそのものが開発中止になり、長らく塩漬け状態にあったエンジンである。

また、米スペースXの「ファルコン9」ロケットのように、機体を着陸させて再使用することもできない。

一方で、新しくなったのはロケットを造る体制である。アリアン5までは、「欧州のロケットは欧州全体で造る」という大前提があった。そのため、ESAが主体となり、「どこの国が、ロケットのどの部分の開発を担当するか」ということを、各国の開発費用の負担額に応じて分配する、「ジオグラフィック・リターン」という仕組みがあった。つまり、フランスやドイツ、イタリアなどがそれぞれ部品を開発して製造し、それを持ち寄って、ひとつのロケットを造っていたのである。

このやり方は、欧州全体に公平に仕事を行き渡らせるという点では役立ったものの、効率はきわめて悪く、技術的に最適な設計にすることもできなかった。そのため、産業界から改善を要求する声が強く上がった。

そこで、アリアン6では、ESAの役割は計画の管理と資金提供を出すのみとなり、開発の主体は民間のアリアングループが担うことになった。どんなロケットにするか、どこの国のどの技術を採用するかという具体的なことは、同社が一元的に引き受けることになったのである。

この新しい開発体制によって製造や運用がより効率的にできるようになり、またブースターをヴェガCと共通化することとあわせて、打ち上げコストの大幅な削減が実現できるとしている。具体的な金額は明らかにされていないが、アリアン5と比べ約半額になるとされる。

  • 打ち上げを待つアリアン6

    打ち上げを待つアリアン6 (C) ESA-L. Bourgeon