いざ、ミラノサローネへ

ミラノサローネでは2会場にて展示が行われた。

1つ目の会場「Secci Milano」では、majotaeのルーツである、日本の大麻布に関するアーカイブコレクションの展示を行い、素材としての魅力や機能性などを体感してもらうことを目的に空間を演出。

  • 「Secci Milano」会場の出展の様子

    「Secci Milano」会場の出展の様子

2つ目の会場「Berta」では、majotaeの世界観を味わってもらうため日本の伝統的な機織り屋を再現。機織り職人による実演的なインスタレーションを通じて、途絶えかけていた日本の大麻布をはじめとするテキスタイルのクラフト文化を維持、進化してくことができる仕組みをつくることの重要性を発信した。

  • 「Berta」会場での出展の様子

    「Berta」会場での出展の様子

「江戸時代の世界観を再現するため、会場内もほぼ掃除をせず、薄暗い中でひっそりと機織りをしている様子を格子越しから覗く感覚でみてもらいました。言葉で説明するというよりかは世界観を肌で感じてもらうことを意識しました」と渡部氏はコンセプトを説明する。

  • 格子越しからひっそりと機織りをしている様子を覗く展示

    格子越しからひっそりと機織りをしている様子を覗く展示

出展ブースの配置に関しても、200年〜300年前にボタン製造というmajotaeと同じようなものづくりが行われていた場所を選定。2つの会場は距離が離れており、土地勘のない来場者には両会場とも訪れてもらえないリスクも考えられたが、「大麻布が作られていた江戸時代と同じような時代にものづくりが行われていた場所であれば、当時の空気感を再現でき、直感的に感じてもらえる空間が作れると考えていたので場所性は大事にしたかったのです」とこだわりを強調する。

  • ものづくりが行われていたと直感的に感じる空間

    ものづくりが行われていた場所であることを直感的に感じる空間

ミラノサローネへの出展を通じて感じた大麻布の魅力

実際にミラノサローネへ参加してみると、繊維やテキスタイルとしての大麻を理解した上で、その可能性に興味を持ってくれる人は想像以上に多かったという。

  • ミラノサローネを訪れた来場者の様子

    ミラノサローネを訪れた来場者の様子

中でも反響があったのが、「日本の大麻布に潜むサステナブルな知恵や歴史性」だったとのこと。もちろん素材としての素晴らしさに興味をもってくれる人も相当数いたというが、日本人独特のモノに対する価値観は海外の人々にとって新しい観点になったのだという。

例えば、当時の農民の仕事着は、機織りをしている際に細かく落ちる糸くずを数年ためていき、再び糸にして織り上げることで作られていた。日本人はゴミにしてしまいそうなものを無駄にせず、何年もかけて新たなものを作り、結果意図もしない複雑で美しい表情のものを作り出してきたのだ。

  • 仕事着であるオクソザックリ

    仕事着であるオクソザックリ。大麻の苧の粗皮を削り取った際に繊維質が残ったものを「オクソ(苧屑)」と呼ぶ

こうした、自分たちの知恵でエコな考え方をしていたら結果的に素材もエコで、デザインもおしゃれになったというような、日本人独特の思想にヨーロッパ人は心をときめかせていたという。

「日本には、お兄ちゃんが着たものを弟が着て最終的に雑巾になってお母さんが使うといった劣化していくサイクルではなく、お兄ちゃんが着てくれたおかげで弟はもっといいものを着れるというようなサイクルを作ることができる知恵やノウハウがあり、大麻にはこうした日本の国民性と合う特性があると思っています」と渡辺氏は言う。

しかもこの国民性は誰かに押し付けられる形で取り組みが行われてきたというよりも、無意識のうちに日常の生活の中で育まれていったとする解釈の方が納得しやすく、そうした先祖の力、過去からの財産を活かし、素材に対する作り方のヒントを出してくれる職人さんや農家さんを守りたいということも含めて活動を続けていることを渡部氏はmajotaeプロジェクトにかける思いとして語ってくれた。

majotaeチームが考える大麻布の未来

ミラノサローネで示した「考古学的なアプローチでのものづくりこそ、イノベーティブなものづくりにつながる」という考え方はヨーロッパでも大いに受け入れられ、ブースには来場者が絶えなかったという。

「今後は日本ではもちろん、世界、特に大麻への理解があるヨーロッパや北米へ本気で展開していきたいという思いがあります。また、テキスタイル以外の多様性という意味では現在、壁紙や産業用資材の製作もしているので、空間全体を作っていくような領域にも大麻という素材を展開していきたいです」と渡部氏は今後の展望を述べてくれた。

  • 大麻布で作る空間

    大麻布で作る空間

  • 独特な表情をする壁紙

    独特な表情をする壁紙

世界では産業用ヘンプとして、THCの含有量の基準値を設定する形で農作物として栽培、流通を許可する国も出てきており、その有効活用の範囲も広がりを見せている。また、近年の世界的な気候変動の影響を目の当たりにし、次の世代が持続的に住むことが可能な地球環境を残そうという意識も多くの人が抱いてきている。

一方で、エイベックスという企業はエンターテイメント産業の一翼を担う存在であり、エンターテイメントは文化があることで生まれることを踏まえれば、1万年の歴史を持つ日本の大麻布を、単なる“記録”ではなく、その中に潜むさまざまな価値や日本文化を“アーカイブ”しながら発信していくことは、日本人ですら忘れてしまっている日本の古来から連綿と築いてきたものづくりの精神を改めて呼び覚ますためにも、同社だからこそできる取り組みであると言える。歴史と、それを活用してものを作ってきたという文化を組み合わせて誕生したmajotae。その挑戦は今、ようやく世界に向けて一歩踏み出したと言えるだろう。