“将来の視野が広がった”と語る生徒たち

内視鏡授業を終え、生徒たちは何を感じたのだろうか。

授業を受けた峯島優妃(ゆき)さんは、「これまで大きな病気を経験していないので、内視鏡のことを知る機会はほとんどなかった」といい、「知らなかった内視鏡に触れながら学ぶことができたり、わからないことをプロにその場で質問できたりするのが、新鮮で楽しかった」と話す。また、看護師を目指しているという堤瑛子さんは、事前授業を経た今回の授業を経て「予備知識を持って体験することで知識と実物が結びついたので、しっかりと記憶に定着しそう」と学びの深さを感じるとともに、「内視鏡の可能性を広げる研究も楽しそうだと思って、将来の視野が広がった」と変化を実感したという。

一方、文系を選択したという宮森涼介さんは「普段は触れることのない内容で、すごく楽しめた」と話し、「実際に触ってみないとわからないことにも気付くことができたのが印象的だった」と授業を振り返る。同じく文系の野口碧天(あおい)さんも、内視鏡に触れる機会の貴重さを語るとともに、「自分が選ばないであろう道に進んだ人の話を聞ける機会はとても貴重だと思う」と話しており、直接的に医療や内視鏡開発の道を目指していなかったからこそ、今のうちにその世界に触れられることの価値を感じていたようだった。

  • 富士高校の堤瑛子さんと峯島優妃さん

    富士高校の堤瑛子さん(左)と峯島優妃さん(右)

  • 富士高校の宮森涼介さんと野口碧天さん

    富士高校の宮森涼介さん(左)と野口碧天さん(右)

企業と学校が連携する価値の大きさとは

では教育現場の立場から見ると、今回のような産学連携授業はどういったメリットがあるのだろうか。富士高校・附属中学校で理科(生物)を担当し、今回オリンパスとの連携を主導した塩入直也主任教諭によると、選択科目の関係で今回の授業に参加したうち3分の2ほどが文系の生徒であったという。つまり言ってしまえば“生物という科目への興味が薄い生徒”も多い中で、内視鏡授業については「通常の授業よりも主体的に参加しているように見えた」とのことだ。

  • 富士高校の塩入直也主任教諭

    富士高校の塩入直也主任教諭

「日常の授業ではがんについて関連する分野に触れる程度である中で、有識者から直接がんや内視鏡について教えてもらえる機会は貴重」という側面から、東京都の事業として募集があったオリンパスとの連携授業について、富士高校では2022年度から連続して応募。「教員からではなく、実際に携わっているプロからの話が聞け、さらに内視鏡の操作を体験できることで、実体験として記憶に残すことができる」と、学習面での産学連携の価値があると話す。

継続的に連携することでより効果的な“探求学習”に

またSSHにも指定されている富士高校では“探求学習”に力を入れているとのことで、生徒それぞれが自分でテーマを設定し、学びを深めていくことを目指しているという。そのため今回の取り組みも、スポット的なものとして終わらせるのではなく、「生徒たちが継続的な学びに繋げていく過程で、分野や内容に応じてオリンパスから技術者によるアドバイスや指導をいただくことができれば、さらなる探求学習につながっていくのではないか」と、より効果的な教育につながる長期的な連携への展望も語った。

教育と医療の両面で将来の人材育成に貢献へ

オリンパスは、自社の内視鏡開発に関わる人材はもちろんのこと、持続的な社会成長を支える次世代人材の育成に貢献するため、教育機関と連携した支援活動を行っている。特に内視鏡授業の取り組みは、小学校・中学校・高校を対象に2016年から継続して行っており、医療やものづくりに対しての興味や関心を喚起するだけではなく、児童・生徒たちが企業で働く社会人と会話し触れ合うことで、将来について考える機会や“何をしたいか”を考える契機となることを狙っているという。

特に都立の高校や中高一貫校での内視鏡授業は実施数を拡大させていて、2023年度には11の高校および2つの中学校(中高一貫校)で実施。今後もその数は増加させていきたいとしている。

日本の将来を担う子どもたちに、普段の授業では出会うことのない貴重な機会を提供するため、世界的に知られる日本企業が強みを活かす。また同時に、国民的な課題であるがんについても考える場を与えることで、その啓蒙にもつなげていく。教育と医療の両面から次世代への貢献を目指す産学連携授業の取り組みについて、教育の現場である高校から観察した今回に続き、次回は教育の指針を定める立場である教育庁の視点から、オリンパスの取り組みの価値を考察する。