グローバルシャッター方式のCMOSセンサーを搭載したソニーのフルサイズミラーレス「α9 III」がついに登場。ローリングシャッター歪みの心配が一切いらない点やフラッシュの全速同調が特徴ですが、α9 IIIで野鳥を撮影した落合カメラマンはさかのぼってベストショットを記録できるプリ撮影の柔軟性の高い設計に大きな価値を見い出していました。

  • ソニーが1月26日に発売したフルサイズミラーレス「α9 III」(ILCE-9M3)。実売価格は88万円前後で、在庫は比較的潤沢だ。装着しているのは、超望遠ズームレンズ「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」(SEL200600G)。こちらの実売価格は29万円前後

先行機種を研究し尽くした印象を強く受けるプリ連写が圧巻

グローバルシャッター方式の採用による「歪まない」仕上がりがまずは話題になりそうなα9 IIIではあるけれど、個人的にはほかにもっと明確に惹かれた要素があったというか、α9 IIIの本当の魅力はそこじゃねーぜ!的な独自判断が生まれることになった今回の試用ではあった。そのおかげで、前編の最後で述べているように「α9 IIIは、私にとってα9のシリーズの中で初めて欲しくなったα9になった(α9、α9IIともに個人的に惹かれるものはなかった)」のだ。ナニがそう思わせることになったのか? プリ撮影機能の搭載である。

一部の他社機が先行していた同機能については、「今まで撮れなかった写真が容易に撮れるようになる」という点において、個人的にけっこうハマって来ているという自覚がある(と同時に禁断の実を食いまくっているような感覚に罪悪感のようなものを抱いていたりもする)のだけれど、その機能がαに搭載されたことのインパクトは極めて大。なぜなら、「フルサイズαのAF」や「フルサイズαの高速性」、そして「フルサイズαの画作り」などなど・・・とプリ撮影機能が手を組むことで、プリ撮影という機能がこれまでよりもさらに大きな魅力をたたえるようになると直感したからだ。αにプリ撮影機能搭載の事実を知ったときは、思わず震えたね。西野カナじゃないけどさ(チョイ古っ!)。

  • α9 IIIの磨き込まれたAFと、約30コマ/秒の連写と、優れた高感度画質と、扱いやすさバツグンのプリ撮影機能、それぞれの高度な連携によりゲットできたこの瞬間。ぜひ原寸大表示で細部の描写を確認してみてほしい(FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS使用、600mm、ISO4000、1/4000秒、F6.3)

フルサイズそのまんまで撮影できることはいうまでもなく、記録はすべてのファイル形式で可能であり、また通常連写と同様、最高約120コマ/秒でのAF/AE追随撮影も可能であるなど、機能として足枷や物足りなさを感じさせるところがまったくない見事な作り込みには、いい意味でのタメ息が出た。「後発とはいえさすがだな。抜け目ねぇや・・・」と。

プリ撮影記録時間(過去にさかのぼれる時間)の初期設定は0.5秒。この絶妙な設定には、先行他社モデルが搭載の同機能を徹底研究している気配が感じられ、思わずニヤリだった。しかも、さかのぼれる時間の設定は、最短の「0.005秒」に加え「0.01秒から0.1秒までは0.01秒刻みでの設定が可能」「0.1秒から1秒までは0.1秒刻みでの設定が可能」であるという、とことん分厚いフォローがとても分かりやすく存在するのだから恐れ入る。

一方、シャッターボタン押下後にどのくらい記録を継続するのかについての設定はなく、そこはシャッターボタンを押し続ける操作に依存するという、いわば「撮影者に丸投げ」の世話焼きすぎない気っぷの良さも同居。これら、非常にバランスの良い仕立ては、同機能につき若干の後発に甘んじている立場ならではの意気込みとこだわりがあってこそ生み出されたものなのだと思う。

  • さかのぼり時間をきめ細かく設定できるなか、ズボラなワタシは当初、1秒設定で楽をしようとしたのだけれど、1秒では事前カットが撮れすぎちゃうことが多くてNG。最終的には、初期設定プラス0.2秒の0.7秒設定が一番しっくりくることに気づいた。でも、この設定は、自分自身が集中力をどの程度、維持できるのかによって(疲労の度合いなども含めて)マメに変更するべき部分でもある。これは、これまでの経験から得た教訓だ(FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS使用、600mm、ISO4000、1/4000秒、F6.3、+2.3補正)

圧巻のプリ連写だが、改善してほしい部分も

プリ撮影機能に関連するα9 IIIならではの有用性の高い使い勝手として、「カスタムボタンにプリ撮影を割り当てると、同ボタンの押下によりワンタッチでプリ撮影のON/OFFが切り替えられる」ことが挙げられる。私は、初期設定では「連写ブースト」が割り当てられているボディ前面の「C5」ボタンにプリ撮影を割り当てたのだけれど、これがあまりにも便利すぎて、切り替えるたびにニヤニヤが止まらなかったほど(笑)。ファインダーを覗いたまま必要に応じプリ撮影を素早くON/OFFできることはもちろん、プリ撮影後に即、通常連写に移行する「プリ撮影+連写」までもが指1本の操作で可能になってくれるのだから、いや、ホント、タマらんのですわ、これ。

ただ、そうなると気になってくるのが、プリ撮影が設定されていることを示すアイコンがDISP切り替え操作時、もしくはEVFとモニターの表示切り替え時にしか表示されないところ。プリ撮影のON/OFF時に「プリ撮影オン」「プリ撮影オフ」の文字表示が出る以外、プリ撮影がオンになっていることを示す表示は、ファインダー全情報表示を有効にしているときに限り常時表示できるようなのだけれど、当該表示はすべての表示画面で、プリ撮影設定時のシャッターボタン半押し時 or AF-ONボタン押下時(ともにプリ撮影が動作する操作)に表示され続けるよう改めていただきたいところではある。そうすれば、つまらない失敗をしないで済むからね。しないで済むんですよ!(←ナゼか熱い実感がこもっている)

一方、プリ撮影中の動体へのAF追従については、まだ100点満点とはいえない手応えも、撮影し始めにわずかに外していたピントが数コマ後には取り戻されることが普通に見られるなど、プリ撮影中にもAFが可能な限り被写体を掴み続けるよう尽力していることが分かる(決して諦めているワケではない)ところに頼もしさを感じることになった。どうしても瞳認識を優先しているように感じられるAFが、もし被写体別認識をベースにしたフォルム認識の優先度をあと少しばかり高め、さらに、とりわけ動物に対するフォルム認識をもうチョイ高精度に行ってくれるようになれば、プリ撮影中のAF追従性には、もっと明確な優位性が見られるようになるのでは? 思わず、そんな手前勝手な妄想に囚われてしまうほどの良好な手応えに、すっかりシてヤラれてしまった私なのである。

  • プリ撮影ではなく通常の連写(約30コマ/秒)で撮影。この作例では瞳を認識してのピント合わせが行われた(FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS使用、600mm、ISO3200、1/4000秒、F6.3、+1補正)

  • 上の作例のAFポイント

  • 上の写真より接近状態となった数コマ後の1カットは、瞳認識が外れフォルム全体を認識するカタチで合焦していた。仮にこれが最高約120コマ/秒の連写中であったとしても、ベストを求めて細かな修正が入り続けるのであろうAFの演算能力の高さには、絶大なる頼もしさが宿る。そして、それがちゃんと結果に反映されるのだから言うことはない(FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS使用、600mm、ISO4000、1/4000秒、F6.3、+1補正)

  • 上の作例のAFポイント

  • 高速性を完璧に支えうるEVFの表示クオリティにも感服させられた。旧来とは何やら次元が異なるようにも感じられる連写中のブラックアウトフリー表示と、おそらくは表示ラグの少なさが相乗効果を発揮しての結果なのだろうけれど、とにかく動体が追いかけやすいEVFなのだ。こりゃ、高品位なEVFがウリの他メーカーモデルも安閑とはしていられませんぞ(FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS使用、600mm、ISO250、1/125秒、F8.0)

次なるグローバルシャッター機への期待も高まる

α9 IIIは、現状「最強のプリ撮影機」だといっても過言ではない・・・これが現時点におけるもっともシンプルな個人的判断だ。もちろん、「微塵も歪ませないグローバルシャッター方式」の採用と、それゆえに可能になった「フラッシュの全速同調」にも新たな幕開けを感じさせるα9 IIIであり、本来であればそちらの方こそ主役であるはずなのだけれど、前編でも述べているとおり、現状のグローバルシャッター方式のイメージセンサーが、常用感度などにまぁまぁの伸びしろを携えてのデビューであるのも事実。次に同シャッター方式を採用してくるのは、仮称「α7V+」(アルファ・セブンファイブ・プラス)であると勝手に予想(妄想)しているのだけど、そのときにはイメージセンサーの完成度は当然もっと高まっているはずだし、コスト面に関しても、時間経過がある程度、解決してくれるんじゃないかと期待しているところではある。

そんなこんなを含めると、グローバルシャッター狙いで手を出すのなら、もうチョイ待つのもアリなのかもしれない。個人的には、それよりもα9 IIIに比肩するプリ撮影機能がαの他モデルにも搭載されることに期待MAXだったりするのだけれど、まぁ、とにかく今度のα9は、全方位に隙がなさすぎってこと。いや、まいったね、こりゃ。ソニーαがまた一歩、先に行っちまったよ…。

  • ピントは動き出し前の位置に残ったままになっているようで、厳密には顔部分はピンボケ。被写体が動き出した瞬間に遅滞なくピントを追従させることが困難であろうことはシロート目にも明らかであり、動体に対するプリ撮影の最大の壁がそこにある(FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS使用、433mm、ISO4000、1/4000秒、F6.3、+1.3補正)

  • 人間みたいなビックリの仕方を見せるカラス。プリ撮影で捉えたドリフ系ともいえるリアクション芸は、ISO6400の後ろ盾による1/4000秒で凍結記録されることとなった(FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS使用、356mm、ISO6400、1/4000秒、F6.3)

  • 羽を広げてくれないと絵にならないじゃん・・・なんてことをついつい思いがちな鳥撮影ではあるのだけど、可愛さ追求だったらこういうのも悪くない。狙っていてもそうそう撮れそうにない瞬間をプリ撮影で楽々ゲット。こんなに簡単に撮れちゃっていいの? いつかバチがあたるんじゃないのかコレ? なんてことを半ばマジで考えずにはいられない令和6年の初頭でありました(FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS使用、600mm、ISO6400、1/4000秒、F6.3)

  • α9 IIIのプリ撮影の仕上がりは、各社のミラーレスカメラが搭載する同種のさかのぼり撮影機能のなかでも、現在トップクラスだと実感した落合カメラマン。この機能を使いたいがためにα9 IIIの購入を真剣に検討することに!