ソニーのフルサイズミラーレス「α7R V」は、AI技術により被写体認識AFの性能を大幅に高めた「リアルタイム認識AF」をαシリーズで初めて搭載したことが話題を呼んでいます。超望遠ズームレンズ「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」を装着して野鳥などの動体を撮影した落合カメラマン、被写体認識性能の明らかな進化を体感しつつも、どうしたことか感動はそれほどでもなかった…といいます。
6100万画素センサーの絵はα7R IVとほぼ変わらぬも不満は皆無
お馴染みソニー「α7」の「R」が「5型」に進化した。高感度番長の「S」、高解像度番長の「R」、そして悪の秘密結社ショッカーでいうなら従順な戦闘員といったところの「無印」&「C」。他メーカーを震えさせ続けて止まない強固な布陣には、いささかの揺らぎも見せないばかりか、こうして無慈悲に歩を進めるあたり、ミラーレス機の世界では地獄大使の異名をとる(?)ソニーさんもお人が悪い(笑)。しかも、今度は「知性を手にした、新次元AF」とまでおっしゃるなんて。いや、なんつぅか、もう、ヤリたい放題じゃーん。って、前からそうか!?
有効約6100万画素のフルサイズイメージセンサーは、基本「4型」と変わらず、のようだ。というワケで、撮影画像を等倍表示したとき、圧倒的な解像度(画素数)にオオッとなるあの感じや、思わずウッとなる1枚あたりのデータ容量も不変。これ、「R」のもっとも重要視すべき魅力と使用者が負うことになる負担にも変わりはないと判断できる一方、「え? 画素数、同じなの?」という疑問や不満が出ないとも限らないポイントではある。
α7R Vがなぜ画素数がそのままとなったのか、本当の理由は部外者には知る由もないのだけど、あえて前向きに判断するならば「フルサイズにおける画素数のバランスポイントがそこにもある」との新たな提案と捉えることもできなくはないだろう。既存のバランスポイントとしては、フルサイズでは「2400万画素」が挙げられるというのが個人的な認識。それに加えてのもうひとつの指標、いわば“定番画素数”が、ここでもうひとつ設定されたのではないかという“読み”だ。ソニーがそう言えばそうなっちゃうのが現時点のデジカメ界ではあるので、あながち外れていない考え方だと思いつつも、ホントのところは「R」の「6型」が登場してのお楽しみってところですかね。
さて、このα7R V、解像性能がさらに磨かれているのがウリのひとつになっているのだけど、写真として鑑賞することを前提とした場合の「撮れる画」は、基本α7R IVと変わらない感じだった。等倍検証においては、ISO12800以上の超高感度画質、というかノイズリダクションの仕事ぶりに「あれ? 4型はもうちょっと砂っぽいノイズだったような気が・・・」なんてことを当初、思ったりもした(ノイズが少し滑らかに見えるように感じた)のだけど、これも実際は撮影シチュエーションの違いによる印象の差だった可能性が高い。大きなくくりの中では、やはり画質はほぼそのままだ。
といって、不足を感じるわけじゃない。不満は皆無だ。先に述べているとおり、6100万画素の解像度は圧倒的。それがこのボディサイズ感で手にできることの利点、優位性は、理屈をこねくり回さずとも明らかなのである(とはいえα7Rとしては、これまででもっとも大きく、重くなってはいるα7R Vではあるけれど)。というワケで、“前モデル”となったα7R IVが今のところまだ現行モデルである点に多大なる価値を見いだす向きも存在するに違いない。参考までに申すならば、その前のα7R IIIも新品がまだ普通に買える。現状、ミラーレスαのラインアップ上、三世代そろい踏みなのは「R」だけだ。
被写体認識AFの進化に対する感動はいまひとつ!?
α7R Vでもっとも大きく進化しているのはAFだとされている。なかでも、「リアルタイム認識AF」の搭載にインパクトを感じる写真愛好家が多いのではないだろうか。
確かに、流行りの被写体認識AFである。認識できる被写体の種類が多ければ多いほどエライ感じ(そういう風潮になっている感じ)がしないでもないけれど、能力的には確かにそう。“賢さ”がウリになる機能でありタイミングだ。まだ新しい分野だからね。
でも、ソニーのミラーレスαがヘナチョコだったときから使い続けてきている身(ただし、α一筋ではなく他メーカーもバリバリに併用している浮気者)からすると、今回α7R Vが実現している被写体認識AFの劇的な機能拡張には、実はそれほど感動していなかったりする。いや、ディスるつもりは毛頭ない。むしろ逆だ。これは、フルサイズミラーレスαの第3世代以降が身につけている、他社ミラーレス機を完全に凌駕するAF性能、とりわけ「リアルタイムトラッキング」がすでに存在しているからこそ、逆に“流行りの”被写体認識機能搭載に対する驚きや感動が、少なくとも個人的事情の範疇においては今ひとつ盛り上がらなかったという話である。
誤解なきよう先に言っておくならば、瞳AFの機能向上(検出&追従に係る能力や動作スピード)については、手放しで歓喜&評価しているところだ。そして、瞳AFをフォローする意味においての「頭部認識」についても同様、ウエルカム大歓迎!のスタンスである。まず、この点はハッキリさせておく。
その上で、「人物」「動物/鳥」「動物」「鳥」「昆虫」「車/列車」「飛行機」が選択できるようになっている「被写体を認識する動作」については、既存の極めて優秀なリアルタイムトラッキングで8割方、同じようなことができていましたよね?というのが個人的な印象なのだ。α7R IVや、もっというならα7Cでも、その“効能”は存分に味わうことができており、だからこそ使用者目線では「個別に認識できる種別が増えても、実際にできることはあまり増えていない感じ」がしてしまうという・・・。なんたるゼイタク! なんとも罰当たりな個人的感想ですな、こりゃ。ごめんなさいね。
ついに見いだした被写体認識AF活用のツボ
設定している認識対象(被写体)に対する認識動作が思いのほか頑固である(例えば「動物/鳥」設定では頑として飛行機を認識しようとしない)ところに少々、扱いにくさを感じての「リアルタイムトラッキング推し」であるようにも自認している。この場合における頑固さは、そのまま賢さの表れであるとは思うのだけど、いたずらに頑固な秀才とはお付き合いしにくいと言うのがこの世の常でして(笑)。
もっとも、「動物/鳥」設定で飛行機が撮れないのかといえば、まったくそんなことはない。仮に、ベースの設定が測距点全点自動選択AF(フォカースエリア「ワイド」設定)であれば、画面のどこに主要な被写体=飛行機があろうと、カメラまかせでちゃんとピントを追従させてくれる(認識すべき被写体が見つからない場合は通常のAF動作になる)。繰り返しになるけど、ソニーαのAFなら、被写体を認識せずとも困ることはほとんどないのだ。
被写体種別を認識する動作に対しては、単一のテーマを追求する撮影スタイルであれば、ミジンコほどの文句も出ないと思う。アレコレ気になるのは、ワタシのように節操なくアレコレ撮る人間だけです、たぶん(笑)。
さて、そんなこんなを通じて導くことになったのは、「α7R Vの被写体認識AFは、リアルタイムトラッキングをフォローさせる位置づけで使うのがベスト」であるという答えだった。つまり、被写体認識AFを活用する際のフォーカスエリア設定は、「ワイド」ではなく、「ゾーン」でもなく、「トラッキング」がベストということ。こうすることで、まずは被写体認識動作の迅速性と確実性を高めることができ、さらにはリアルタイムトラッキングが苦手とする「主要な被写体と似ている色やパターンが画面内に存在する」場合などに、測距点が不用意にそちらに飛んでしまうことを効果的に防いでくれるようにもなる。ピント追従に関し、このように両面からのフォローが得られるのは、他では得がたい使い心地だといっていい。実に素晴らしいコンビネーションなのである。
といったところで、ちょっと長くなりそうなので前編はここまでにしたい。続く後編では、α7R Vが手にしたとされる「知性」に関する印象や、α7R Vを使うことで実行されることになったある行動について触れてみようと思う。それは・・・ひとことで言うなら「背中を押してくれてありがとう!」ってところ、ですかね(笑)。