印象的な透明デザインと光る背面の仕掛けが話題になり、日本でも若年層を中心にヒットしたNothingのAndroidスマートフォン「Nothing Phone」。デザイナーが登壇したファンイベントが京都で開かれ、開発秘話が語られました。特徴的な透明デザインは商品の楽しさを向上させるための工夫で、背面の光るGlyph Interfaceはデジタルデトックスを図るためにスマホの画面を下にして置くための工夫であると解説。デザインやユーザー体験の源流にあるのは、日本の「ゲームボーイ」と「ウォークマン」であることも明かしました。

  • Nothing Phoneシリーズの開発に携わったNothing社のAdam Bates氏(左)とRyan Latham氏(右)が来日し、Nothing製品のデザイン哲学について語るファンイベントが開かれた

ニンテンドーとダイソンにものづくりを学んだ

11月23日、京都市上京区にある上七軒歌舞練場で「コンセプトから製品へ:Nothing流デザイン哲学」と題した無料のファンイベントが開かれ、スマートフォン「Nothing Phone」シリーズや完全ワイヤレスイヤホン「Nothing Ear」シリーズの開発に携わったデザイナーが登壇しました。

  • イベントは先着で申し込んだ100名が参加した。地元の人だけでなく、このイベントのために各地から京都に足を運んだ人も

  • 会場は和の雰囲気が漂う上七軒歌舞練場。来場者は在阪の家電メーカーの開発者も多かった

Nothing Phoneシリーズは、2022年8月に初代モデル「Nothing Phone(1)」が登場。新興メーカーの第一弾モデルながら、印象的な透明デザインと63,800円からの手ごろな価格が話題になり、若年層にもヒットしました。2023年7月には、キープコンセプトながら機能や装備を引き上げた「Nothing Phone(2)」にモデルチェンジし、価格を79,800円からに抑えたこともあってこちらもヒットしています。

  • 2023年7月に登場したNothing Phone(2)。最安モデルは79,800円の手ごろな価格で購入できることもあり、初代モデルに続いてヒットを続けている

Nothingでデザイン責任者を務めるAdam Bates氏は「子どものころ、ゲームボーイとウォークマンを手にして大きなインパクトを受け、デザインとテクノロジーに興味を持った」と振り返ります。

  • かつての日本のテクノロジー製品に感銘を受け、ダイソンを経てNothingに入社したAdam Bates氏

その思いを胸に秘め、入社したのがダイソン。「ダイソンは、あらゆる問題を解決するためにテクノロジーを駆使する点が優れている。さまざまな製品をゼロから試作し、失敗することで学びを得ていく。失敗を恐れるな、失敗作が出ても次はより大胆なアイデアでヒットさせよう、というのがダイソンの社風だ」と、ダイソン流ものづくりの優れている部分を語ります。

ちなみに、ダイソンは市場調査(マーケティング)を基本的に実施しないそう。「人々に次はどんな製品が欲しいか、とは聞かない。斬新なプロダクトを作り上げて人々に提案し、評価してもらう。これは任天堂にも共通するポイントだろう」と語ります。

透明デザインにこだわる理由、Glyph Interfaceが目指すこと

ダイソンで育んだスピリットが発揮できる場として次に選んだのがNothing。第一弾製品として2021年8月に発売した完全ワイヤレスイヤホン「Nothing Ear(1)」、翌年に発売したスマートフォン「Nothing Phone(1)」は、ともに透明パーツを象徴的に用いたデザインが日本でも大きな話題を呼びました。

これらのNothing製品で象徴的な透明性について、Adam Bates氏は「透明であることは商品の楽しさを飛躍的に向上させる。透明性はとても価値があることだと思っている」と語ります。

  • Nothing Phone(2)の背面は透明パネルを通して中が見える。複雑なラインで構成されていると思っていたが、整然と分割された直線と正円に沿って巧みにデザインされていることが分かる

  • Nothing Phoneシリーズの開発時のワンシーン。これだけのさまざまな試作品を作成して完璧に近づけていった

Nothing Phoneで透明デザインに並んで重要な存在としたのが、背面中央のワイヤレス充電コイルを囲むように配置されたLEDライト「Glyph Interface」。Nothing Phone(2)では、発光パターンのカスタマイズ性が向上し、「スマートフォンに向かう時間を減らす」というデジタルデトックスのコンセプトに沿って通知機能が強化されています。

  • Nothing Phone(2)背面にあるLEDライト「Glyph Interface」は、特定の人からの着信や特定のアプリからの通知に独自の発光パターンを設定することで、画面を下にしたままでもそれらが判別できるようにしている

  • Glyph Interfaceの発光パターンとサウンドの作成画面

Adam Bates氏は「現代は、スマホに向かう時間をできるだけ減らすデジタルデトックスが世界的なトレンドだ。だが、通知が来たのでメールをチェックしたら、ついSNSやYouTubeなどを開いて時間を取られてしまった…という経験はよくある。雑用的なことで集中力がそがれるのをやめるべく、画面を下にしてスマホを置き、通知が来た際もスマホを手に取らず裏側を見るだけで判断できるような機能を考えた。本当に大切な人のとのコミュニケーションや、重要なことだけに絞って注意を向けられるようなスマホを作りたかった」と語ります。

背面にサブディスプレイを搭載するのではなく、あえて抽象的なインターフェースとした背景については、「スマートフォンと穏やかなコミュニケーションが取れるようにした。人間がスマホに操られることから脱却し、人間に主導権を取り戻したかった」と語ります。

Nothingでブランドディング&クリエイティブディレクターを務めるRyan Latham氏は“テクノロジーの温もり”が会社のデザイン哲学の根底にあるとし、「テクノロジーが進歩した製品は非人間的で冷たくなりがちだが、使う人と有機的なつながりが生まれる人間性を製品に盛り込みたかった」と語ります。

  • Nothingのブランド&クリエイティブ・チームを牽引しているRyan Latham氏。氏もかつてはダイソンに所属していた

日本は、Nothing Phoneシリーズの販売が世界トップ3に入る国で、Nothing自体も重要視している市場だそう。Ryan Latham氏は「かつて、人々はそれぞれ個性的なケータイを持っていた。しかし、現在は世界のどこに行っても人々は同じスマホを使い、同じプラットフォームで動画や音楽を楽しむようになった。そのような状況でも、人々は隣の人と同じでは満足できず、常に個性を発揮したいと思っている。日本の顧客は、そんなNothingのデザインや遊び心に共感してくれてうれしく感じる」と述べました。

現在、Nothingの直営ストア「Nothing Store Soho」はロンドンのみにありますが、日本上陸の可能性もあるかもしれません。2024年2月に開かれるモバイル展示会「MWC Barcelona 2024」での動向も合わせ、今後もNothingの動向に注目したいと思います。

  • Nothing製品の展示や販売を実施しているロンドンの直営ストア「Nothing Store Soho」