米クアルコムが新しいプレミアムクラスのモバイル向けSoC「Snapdragon 8 Gen 3」を発表しました。ソニーのXperiaシリーズ、サムスンのGalaxyシリーズなどAndroid OSを搭載する人気のスマホも、SnapdragonシリーズのSoCを「頭脳」として採用しています。ジェネレーティブAI(生成AI)に関わる機能を強化した新しいSnapdragonシリーズにより、2024年以降のスマホ体験が再び大きく進化しそうです。

  • プレミアムクラスのモバイル向けとなる、新しいSoC(システム・オン・チップ)の「Snapdragon 8 Gen 3」

チャットや画像を生成するAIがデバイス上でサクサク動く

これまでも毎年の後半、クアルコムはプレミアムクラスのモバイル向け「Snapdragon」を発表してきました。数字に「8」が付くシリーズが最も高性能・高効率なCPUとGPU、そして機械学習処理を担うNPU(Neural Processing Unit)などを統合するSoCです。

  • 今回のチップは機械学習処理のパフォーマンスが大きく向上

この時期に発表されるSnapdragonを毎年いち早く採用するメーカーのひとつがXiaomi(シャオミ)です。2023年はハワイのマウイ島にて、昨年の2022年に続いてリアルイベントとして開催の「Snapdragon Summit」に、Xiaomiグループのパートナー兼プレジデントのウィリアム・リュー氏が出席しました。

リュー氏は10月26日に開催するイベントで、新しいフラグシップスマホ「Xiaomi 14」にSnapdragon 8 Gen 3が載ることを宣言しました。どんなスマホになるのか注目です。

  • 10月26日に発表を予定するSnapdragon 8 Gen 3搭載の「Xiaomi 14」を片手に、プレゼンテーションの壇上に立ったシャオミのウィリアム・リュー氏

  • イベント会場に展示されたSnapdragon 8 Gen 3を搭載するスマホのリファレンスモデル(試作機)のイメージ

Snapdragon 8 Gen 3の大きな特徴は、いま流行のジェネレーティブAI(生成AI)の機械学習モデルに対応するパフォーマンスを強化したことです。

OpenAIのChatGPT、MetaのLlama2のような自然言語処理を担うLLM(大規模言語モデル)のほか、テキスト入力に基づく画像生成を得意とするStable Diffusion、さらにはAdobe Fireflyのようにコンピュータ(機械)が学習したデータから新しいデータや情報を生成して出力する処理を、Snapdragon 8 Gen 3搭載スマホはサクサクとこなせるようになります。

特にSnapdragon 8 Gen 3の場合、インターネットを介してクラウド上のAIに接続しなくても、デバイス単体でテキスト/画像/音声など複数のAIモデルが生成するデータを組み合わせながら処理する「マルチモーダルAIモデル」への対応力が強化されます。処理の内容はユーザーが利用するアプリケーションやサービスによっても異なりますが、例えばスマホに特定のデータベースとLLMをインストールしておけば、音声による情報検索がデバイス単体で速く正確に、そしてクラウドに接続することなくセキュアにできるメリットが生まれます。

  • Metaが開発するLlamaなど、大規模言語モデルによるAIチャットの処理をサクサクと快適にこなす新しいSnapdragonの性能

写真・ビデオを生成するAI。安全性も確保

クアルコムは新しいSnapdragon 8 Gen 3により、スマホに保存した画像データをもとにした、AIが生成した画像を追加してクリエイティブな楽しみ方を広げる使い方を提案しています。いくつかの新機能の中から、今回筆者は「Photo Expansion」と「Vloggers View」のデモンストレーションを体験してきました。

まずPhoto Expansionは、静止画像の周辺に自然な画像を生成拡張して「ズームアウト写真」を作る機能。例えば人物や料理に寄り過ぎて撮影してしまった画像の背景を、後処理によって広げてゆったりとした構図に整えることができます。

イベントではSnapdragon 8 Gen 3を載せたスマホの試作機を使って、任意の写真データからわずか10秒前後でズームアウト写真を生成するデモンストレーションが披露されました。

  • 写真アプリに保存された静止画像をピックアップ。Photo Expansionが周辺の画像を生成中

  • 見た目にも自然なズームアウト写真が生成されました

もうひとつのVloggers Viewは、スマホのリアとフロントのカメラで撮影しているビデオを、ひとつのビデオにミックスして記録する機能です。リアのメインカメラで撮っている風景や料理などの被写体に対して、フロントカメラのセルフィ動画で解説を付けて記録するような楽しみ方ができます。

  • スマホのアウトカメラで風景を撮影、インカメラで自撮りビデオを同時に撮影します

  • カメラのプレビュー画面から、アウト/イン両側のビデオをミックスした映像を見ながら記録できる「Vloggers View」を実現

これらはクアルコムが次世代SoCを使って「できること」のリファレンスとして紹介する機能です。実際には、Xiaomi 14のようなSnapdragon 8 Gen 3搭載スマホがどのようにSoCの豊かなパフォーマンスを使いこなし、独自の機能として完成させるのかといった点が、これから注目すべきポイントになります。

なお、各種の生成AIが急激に進化したことは、例えば画像生成を不正に利用した「フェイク画像」の広まりなどの懸念も生んでいます。これを防ぐためSnapdragon 8 Gen 3には、Adobeが設立した「コンテンツ認証イニシアチブ(CAI)」による「C2PA」規格に準拠した来歴記録機能が搭載されます。

Photo Expansionの機能などを使ってAIが生成した画像を含むデータには来歴記録がメタ情報として残るので、オリジナル画像と見分けられるという仕組みです。ユーザーがSnapdragon 8 Gen 3を搭載するスマホで撮影した画像をもとに、誰かがフェイク画像を作って悪用される危険も回避できそうです。

  • 生成AIを悪用したいわゆる「フェイク画像」への対策も、Snapdragon 8 Gen 3に組み込まれます

クアルコムはSnapdragon 8 Gen 3をいち早く採用するスマホのメーカーとして、XiaomiのほかにASUS、Honor、OPPO、ソニーといった名前を挙げています。日本で最新のSnapdragon 8 Gen 3を搭載する「AIスマホ」が体験できる時期は、来年(2024年)の春以降になると思われます。